追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

夜の相談? 夫婦版_1


 俺は現在レインボーさんに誘われたり、アイボリーに何故か一緒に行くように言われた件の旅の一座がシキに到着したので、それの確認と許可作業をしていた。本来であればヴァイオレットさんも一緒に居た方が良いのだが、ヴァイオレットさんはまだ外での仕事が終わらないのか戻ってきていなかったので俺とバーントさんで対応をする事になった。

「はい、では手続きに問題ありませんのでこれからよろしくお願いします。シキへようこそ」

 そして特に問題はなく、簡単な手続きのみで無事終わる事が出来た。とはいっても、実際の調査に関しては後ほど行うので、俺が今行うのは滞在期間とか設営場所の確認など程度だが。

「ありがとうございます、領主様」

 向かい合って座っていた旅の一座の代表を名乗る三十代くらいの男性は、俺の了承を得ると立ち上がって綺麗な礼をして感謝の言葉を述べた。いわゆる営業スマイルも含まれた作られた笑みではあるが、何所となくぎこちなさを感じるのはあまりこういった確認の場に慣れていないせいだろうか。代表という割には年若いしな。
 ……シキという地に怯え、無事領主との会話が終えた事に安堵しているだけ、という事でなければいいが。……いや、流石にそれは被害妄想が過ぎるだろうか。

「此度の滞在では私とこちらの芸部門の代表であるシナモンが、シキに相応しき素晴らしき芸を披露できるように努めさせて頂きますので、どうかよろしくお願いします」
「お願いします」

 護衛としているのかと思っていた傍に女性を示し、一座の代表は女性と一緒に礼をした。
 しかしシキに相応しい芸となると……イカン、どうしても変な方向性に想像してしまう。考えるな俺。シキには相応しくなくとも素晴らしい芸をしてくれるんだ。

「よろしければ領主様もご招待させて頂きます。私に言って頂ければ、無料でご家族様の席をご用意しますので」

 ほう、これは厚意と取るべきか来たらなにかしらの援助を求める交渉をして来るか微妙なラインの言葉だな。こういった旅の一座は貴族の後ろ盾があるからこそ成り立っているというような一座もあるから、そういうのを俺に求めるための場に誘い込むための言葉かもしれないが……いや、ここは素直に厚意として言葉を受け止めるとするか。

「ありがとうございます。ですがその際にはお金は払わせて頂きますよ」
「いえ、宿泊の場所など色々と都合くださった領主様にそのような訳には……」
「私は貴方達の芸という磨かれた技術を受け取るのですから、対価は支払われるべきです。そこに対して自分を特別扱いしなくて良いですよ」
「よろしいので?」
「はい。ですので私は一般客として貴方達の芸を楽しみにさせて頂きますので、お金に見合わなければ文句を言うかもしれません。そういう意味では支払いに見合う芸を楽しみにさせて頂きますよ?」
「おお、これは生半可な芸を披露出来なくなりましたな。ご安心ください、素晴しい時間にいたしますから」
「楽しみにしていますよ」

 そう言うと俺達は軽めに笑いつつ和やかに話していく。
 ……まぁ実際楽しみにしているのは確かだ。大道芸のプロが面白おかしく芸を披露するなんて……楽しみ以外の何者でもない。領主の仕事との折り合いをつけて、ヴァイオレットさんやブルストロード兄妹達とも一緒に見に行かないとな! 芸のネタバレを聞かないように最速で見に行きたい!
 あ、それとこれも聞いておかないと。

「すみません、代表セラドンさん。これだけはどうしてもお聞きしておきたい事があるのですが」
「おや、なんでしょう。私共で答えられる事であればなんでもお聞きください」
「では遠慮なく。……単刀直入に聞きますが、そちらで女性の御方が夜のお相手をする商売をするというのは本当でしょうか」

 傍に女性が居るのでハッキリ言うか迷った(アンバーさんでなくバーントさんを立会させたのもそれが理由)が、こういう事は言葉を濁さず聞いておこう。変に濁して勘違いが連鎖すると嫌であるし。
 それにむしろ傍に居る女性……シナモンさんが居るから聞かなくちゃとは思いもした。なにせシナモンさんの着ている服は、露出は少ないがすぐに露出を増やせる服を着ているような何処となく踊り子を感じさせるような服だ。芸をするための服とも言えるが、まるで“噂通りの事をする”ための服にも見えたからハッキリと聞くべきと思ったのである。

「……その件ですか」

 さて、どう来るだろう。
 事実無根だと言うか、表面上は否定するか、認めて許可を取るにくるのか。
 そもそも向こうもまだなにか要件がありそうだったし、今も聞いた瞬間にセラドンさんとシナモンさんが今までと違う反応を示す辺り、やはりなにかあるのだろうか。
 シナモンさんがこの場に居るのも俺が“そういう噂”を聞いて“そういうの”が目当てだと思い勧めるために呼んだのかもしれないしな……さぁ、どう来る。

「はい、私達は芸には手を抜いてはおりませんが、そういった一面がある事は認めます」

 お、認めたか。……ヴァイオレットさんがこの場に居なくて良かった。

「その件について領主様にご相談があるのです」
「なんでしょうか。営業許可ならば出しますよ? 子供達に気付かれたり、風紀をあまりに乱す様なものであると困りますが……」
「いえ、そうではないのです」
「ではなんでしょうか?」

 あれ、ちょっと意外だな。
 牽制も兼ねて「私は興味ないけど、営業をやるのならやっても良い」というような事を言ったつもりであったのだが……なんの相談なんだろう。

「実は私達が噂に名高いシキを今回の滞在先に選んだのも、この相談が理由なのです」
「え、噂に名高いって……?」
「はい、噂に聞く――」

 セラドンさんは一息吸い、覚悟を決めるかのような表情になると俺を真っ直ぐ見つつ言葉を続けた。

「裸体を披露し芸術として魅了させると言われる美しき女性が居たり」
「ん?」
「清純たるシスターですら男を惑わす小悪魔と評判を受ける様な女性が居たり」
「んん?」
「鍛えられた肉体美女性や、スケベイを周囲に蒔いて桃色空間にする女性や、ロイヤルバストと呼ばれる麗しき女性が居たり」
「んんん?」
「その他色々と個性的かつ麗しき女性が居て、そしてなによりも、そんな女性陣をまとめ上げて支配するという領主様、貴方様に!」
「待って」
「どうか私達の女性陣の魅了向上のお手伝いをして頂きたいのです!」
「ちょっと待てや!」

 よし、ゆっくりと話す内容が出来てしまったな!

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品