追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
夜の相談? 男性陣_3
聞き間違えでなければブラウンは今しょーかんと言った。召喚か、将官か、商館か……あるいは娼館か。先程までそういった類の話をしていたせいなのか、どうしてもそちらの方向性を想像してしまう。
だが、ブラウンはあんなに大きいけれどまだ八歳だ。純粋さではグレイレベルである。仮に俺が今まっさきに想像した娼館に行きたいという言葉を言っていたとしても、多分なにかしらの勘違いか誤解があるのだろう。
「良いか、クロ。子供がいつまでも純粋で性とは離れた場所に居て欲しいと言うのは大人の我が儘に他ならない。大人になるのを見守るのが大人の役割だと思わないか」
「いや、そりゃそうだけど」
その通りではあるけど、今回はなんか違う気がする。というかブラウンは以前グレイ達と一緒に性教育(シアンと神父様教師)を教えさせたし、性に興味を持つ年頃の反応を示すなら温かく見守るつもりではあるのだが……
「想像しろアイボリー。ブラウン君は見た目大人で自分で稼ぐような子だ」
「そうだな」
「その子がなにかに騙されたまま娼館に行き、相手もブラウン君は見た目通りの年齢と思って、そのままサービスをした場合を、だ」
「……ブラウンはよく分からないまま相手するであろうし、その場合色んな者が色んな物に引っ掛かりそうだな」
「だろう?」
ただ、俺が言ったような事は充分にあり得る話であり、起きた場合には方々で問題が起こるのである。キチンと大人として間違った事はしないようにしていこう。……流石に八歳はマズいからね。
「あ、クロお兄ちゃんにアイボリーお兄ちゃん。ちょーど良い所に!」
俺達がブラウンに呟きの意味を聞こうと話そうとすると、その前に気付いたブラウンが俺達を呼び元気よく駆け寄ってきた。いつものような眠そうな感じではなく、年齢相応な元気な姿が微笑ましいが、“丁度良い所に”という部分はなんとなく嫌な予感がする。
「どうしたブラウン。俺達になにか用でも?」
「うん、アダルティな世界と言われる、しょーかんについて教えて欲しんだ! 今日そういったヒト達がくるんでしょ!」
チクショウ、世界は俺になにを求めているんだ。こんな時の予感くらい外れても良いじゃないか。
「アイボリー」
「お前が良いなら、俺は答えても構わんが、俺は面倒だから包み隠さず言うぞ?」
「それはそれで良い気もするんだよな。マゼンタさんやトウメイさんが答えるよりは大分良い気がするし」
いっそ真っ直ぐ言った方が伝わる気がするし、アイボリーはこうは言うが、口が悪くとも気の使った話も出来る。「法とか関係あるか、実地で教える!」と言いそうなマゼンタさんや、常時全裸マントのトウメイさんに教えて貰うよりは良いだろう。
「トウメイさ――んには確かに聞くべきではないな、うむ」
「? そうだな」
ん、なんだろう。その二人の名を出したのは教えを受ける場として相応しい教会にブラウンが行った時に聞きそうな二人の名を出しただけではあるのだが……相変わらずアイボリーはトウメイさんに対して妙な態度をとるよな。なんでだろう。
「お兄ちゃん達どうしたの?」
「いや、なんでもない。答えても良いが、その前に何故それを聞きたいと思ったのか教えて貰って良いか?」
アイボリーの態度は気になるが、今はブラウンの件だ。
彼がしょーかん……娼館について聞きたい理由を聞き、理由の如何によっては吹き込んだ奴を問い詰めないといけないからな。多分レインボーさんか酒場の話を聞いたかとかそんな感じだとは思うのだが……
「うん、フォーンお姉ちゃんが話しているのを聞いたんだ」
「え」
「アダルティな世界のしょーかん。そこでフォーンお姉ちゃんがはたらくってね!」
フォーンさん……!?
い、いや落ち着け。恐らくまたなにかの勘違いだ。子爵家の長子にして立派な振る舞いを見せる彼女が働くなんて有り得ない話だ! ……多分。
「だから僕がお金を持ってお客? として行けばアダルティになるだけじゃなくって、お相手もして貰えるって聞いたの。けど、しょーかんてよく分からないから、聞いておこうかなって」
「その相手をして貰えるって聞いた相手は誰だ?」
「マゼンタお姉ちゃん」
くっ、既に遅かったか……!
「待てブラウン。お前のその聞いた、というのは“しょうかんで働く女性と会うためにはどうすれば良いか”という問いをマゼンタ様にしたと言う事か?」
「そうだよ? 具体的な事は教えてくれなかったけど、そういうモノだって言って、マゼンタお姉ちゃんは“それ以上はあまり言えないの。ゴメンね”って言われた」
「それを聞いてお前は“なんとなく異性の相手に聞くべき事じゃない”と思い、俺達に聞いた、という所か?」
「うん、そうだよ?」
……ごめんなさいマゼンタさん。普段のヴァイス君への態度が態度なので、ブラウンにも面白おかしく大人の階段を登らせようとしたモノかと思ったよ。本当にごめんなさい。
「よし、ブラウン。話してやろうじゃないか。娼館というのがどういう所かをな!」
「わーい、ありがとうアイボリーお兄ちゃん!」
「アイボリー、お前本当に説明するのか?」
「するとも。代わりにクロ、一つ頼みがある」
「なんだ?」
「俺とブラウンは娼館……旅の一座がシキに着次第、一座の所に行くから、お前も来い」
「……はい?」
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