追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
【29章:変態共のいつもの日常小話】始まりは引取報告
「と、いう訳でより取り見取りな方々六名ですが、誰を選んで引き取りますか?」
「うちは託児所じゃないんですよフォーンさん」
俺とヴァイオレットさん、シアンと神父様のダブル結婚式が近付きつつある、とある日のお昼前。ショクというシキの姉妹都市のような場所(現在ほぼ接点無し)からシキに来たフォーンさんに、ポケットなサイズのモンスターゲームに出て来るような博士のような事を言われた。
来るという事前連絡はあったのに、肝心の内容が曖昧であった事から嫌な予感はしていたけれど、内容がまさかの内容過ぎる。
――無事であったから、では済まされそうにない内容だな……
危険な存在の封印解除、王族を含む高位貴族後継者を危険な目に合わせ、世界を夢魔法で覆いつくし混沌と化そうとした。
全てはグレイやアプリコットを含む学園の皆さんによって未然に防がれはしたものの、一歩間違えれば世界は大変な事になっただろうし、誰が亡くなってもおかしくは無かった。怪我人だけで済んだのは奇跡的としか言いようが無いだろう。
「ライラック兄様、何故……」
「ヴァイオレットさん……」
……そのような事を、ヴァイオレットさんの実の兄であるライラック氏がやったというのだ。簡単に信じられる話でもないが、フォーンさんがそういった冗談を言うような人でない事は俺もヴァイオレットさんもよく分かっている。
「信じられないのも無理はないが、私と夫であるライラックは世界、そしてなによりも義妹達の御子息、御令嬢を危機に晒した。罪は背負わねばなるまい」
……なにより、その封印を解いた張本人であるクチナシさん……クチナシ義姉さんが居て、事の次第を説明をしているのだ。自分達がやったのだという堂々たる宣言。状況の意味は分からないが、これ以上にない説明と言っても過言では無いと思う。本当に意味は分からないが。
「ええと、それは理解しました。ですが何故そうなるとクチナシ義姉さんが普通にシキに来ているのでしょう」
内容が事実なら今頃護送中のはずのクチナシ義姉さんは普通にフォーンさんの隣に座っている。その上ショクでの出来事を説明している。
……俺の理解力が足りないだけで、ここに居るのはおかしくなかったりするのだろうか。
「なに、私はこの通りヴェール氏に首輪をつけられているのでな。変な事は出来ない様にされているから身構えなくても良いぞ」
「いえ、そこではなく」
確かに彼女は逆らうと昏倒させられるタイプの魔法首輪をしているが、俺の疑問はそこじゃない。
「義妹への説明だよ。私達が起こした事の規模からして、バレンタイン家は表立っての動きは無いとしても、様々な動きをするだろう。その件にヴァイオレット。君が関わる必要は無いと説明しに来たんだ」
「……どういった意味でしょうか、クチナシ義姉様?」
「君は関わりが無い上にバレンタイン家からほぼ廃嫡状態だ。だが、今回の件を知ればなにかしらの接触を図る可能性もある。それが互いに不要だと、私が言いに来た訳だ」
「……よろしいのですね?」
「ああ、よろしいとも」
つまりはこの件には関わる必要は無いし、向こうもこっちに累が及ばないようにする、と言いに来た訳か。
これからバレンタイン家がどういう動きを見せるかは分からないが、大きく変わるような事をしない。いや、させないと言うべきか。
その行動の最中にヴァイオレットさんや俺が関わると巻き込まれる可能性が高いので、変に行動しないようにと言いに来た、という認識であろう。……多分。
そういった話を他の関係者に言わせる訳にもいかないのでクチナシ義姉さんが来た、というのが今回のクチナシ義姉さんの同伴理由だろうか。
「と、いう訳でだ。今回騒動を起こした輩を誰でも自由に引き取れるぞ、義妹と義弟よ!」
「なにがという訳でですか!?」
そして話は先程フォーンさんに言われた言葉に戻った。何故だ。
生憎と誰が来ても面倒な事になりそうな輩を進んで引き取りたくはない。浄化されたクロガネさんであったらまだ問題はなさそうだが……ともかく、自由意思で引き取りたくは無いというのも本音である。
「なに、実はと言うとシキは“どんな邪悪な存在でも変態へと浄化される”という噂があってな」
「それ浄化であってます?」
「だから奴らもこのシキに一時的に預ければ大丈夫な存在になるのではと思ったのだが……無理なら強制はせんさ」
「はぁ。……ここでクチナシ義姉さんを選んだらどうなったんです?」
「絶対服従で逆らえないからな。どのような変態プレイにも応じよう。それが私の罰にもなる」
「変態が多いからって、トップが一番の変態という訳では無いですからね!?」
というか仮に絶対服従で色々出来るとしても、彼女に対しては怖くてできそうにないよ。なにせクリの肉体にクリームヒルトの積極性を混ぜたような感じの肉体だもんな、彼女。ヴァイオレットさんの言う通り強そうな女性である。
「む、では私の夫の方が好みか?」
「その言葉の意味はなんです」
「いや、聞いた話ではクロ・ハートフィールドはとある男に大きく愛を叫ばれる程に、女より男と良い仲になると王城で耳を挟んだモノでな」
「なるほど。……よし、今度会ったら第二王子をぶん殴ろう」
「落ち着いてくれ、クロ殿」
「止めないでくださいヴァイオレットさん。こんなうわさを流すのなんて、あの馬鹿第二王子しか居ません!」
そして多分俺の耳に入る事も想定して、今頃幽閉場所で高笑いしていそうだ。……くそっ、目に浮かんで嫌だな!
「違う。殴る時は私も一緒に行くから、落ち着いて殴りに行こうという話だ」
「え、一緒に行くんですか」
「その噂だと私がクロ殿の一番でなくなってしまうからな。私も腹が立っているんだ。――それに、世界で一番愛する夫だけに怒りで拳を握らせるなどという事はさせられん」
「ヴァイオレットさん……!」
く、なんと嬉しい事を言ってくれる。だがそうなるとヴァイオレットさんにも怒りで拳を握らせる訳にもいかないので、殴るのはやめておこう。命拾いをしたな、カーマイン!
「……フォーン君。君は確か以前から彼らと交友があったようだな?」
「はい、そうですね」
「彼らは普段からこんな感じなのだろうか」
「大体こんな感じに大抵をイチャつきに繋げます」
「なるほど。……変わるもんだな」
と、言うような感じでヴァイオレットさんへの愛を改めて確認しつつ。
大きな出来事はあっても、大まかな部分は変わらないシキでのスローで不思議な日常は今日も始まっていくのであった。
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