追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
ぺんぺん(:白偽)
View.メアリー
殴り合う、といっても魔法を使わない訳では無い。
お互いの全力を以ってどっちが強いかをハッキリさせる、というようなぶつかり合いだ。それは互いに理解しているので一々声に出さずとも戦いを続けて殴り合いをする。
私の目的が此処からの一刻も早い脱出である以上、相手は時間を稼ぐと選択肢も取る事は出来ただろうけど、先程何処か失望していたようなライラックはそれをせずに私との戦いに全力を出していた。
基本属性の上級魔法。妨害魔法。操作魔法。次元干渉魔法。
古今東西の武器創出。この世界にはまだない武器形成。兵器の質量攻撃。
攻撃置換魔法。攻撃残留魔法。攻撃置換技術。攻撃残留技術。
爆発物形成。無人航空機の突撃。机上の空論であったはずの兵器による音速を超える射出攻撃。
光最上級魔法。クロさん模倣体術。媒介魔法。――エクルさんに享受された混合魔法。
誰かを脅威から守るために鍛錬をした魔法と身体は、今、殺すための力として私の物になっていた。
本来であればこういった事に使う事を躊躇っていたであろう魔法も技術も使った。
普段であれば十分の一以下で相手を倒せるような力を出している。
今までのどの私より強いと断言出来る私である。
――足りない。
だが倒せない。一歩足りない。
この男はあまりにも強すぎる。今まで相対してきた誰よりも、どのモンスターよりも。
私の全力の攻撃をもってしても、この男には効いてはいるが傷には至っていないのだ。そしてこれは全く効いていないよりも遥かに厄介なパターンである。
全く効かないだとなにか絡繰りがあり、その絡繰りを解けば押し込める、という事が多いのだが、効いてはいるが影響に至らないというのはこの男の純粋な力量の高さを示している事に他ならない。
――どうする。
ならばどうするか。どうする。どうする、どうする、どうするどうするどうするどうする――時間は無い。
なにか、足りない一歩を補うためにはこの男の予想外かつ凄まじい一撃を見舞わさなければならない。いわゆる奇襲の一撃を――いや。
「――我が身体に流れる気高き王族たる血を持って顕現される、この一撃を手向けとして受け取れ」
「……!?」
分かっていても、防げない一撃を喰らわせればいい。
王族のみに認められた魔法。それは地脈から溢れる魔力をその身に宿し血と混ぜ合わせる事で他には無い威力を出す事が出来る魔法だ。
――痛い。
ただしこれはこの王国の王族だからこそ認められる魔法であり、かつて他国が研究し真似をしようとして多大な犠牲を払ってなんの成果も得られなかったともされる魔法でもある。
そして当然私は王族ではなく、高貴ではない平民なので使えるはずもない。そのかつての他国の研究で犠牲になった者達のように、無理に真似をして使う事で痛みだけで発狂したとされる痛みが私に襲い掛かり、これ以上は危険だと身体が悲鳴を上げる。
普段であれば流れない場所に魔力を流し、皮膚が裂け血が出る。
口や鼻、目から血が逆流する。
とても久々に、これが痛みなんだと思う痛みが全身に巡る。
けれど。
――だからどうした!
痛みだけあってなにも得られなかった前世と比べれば、なにかを得られる今のために走る痛みなど耐えられずしてどうする。
「珠玉の――」
そして私が【珠玉の星《シリウス》】と呼ばれる最大威力の魔法を唱えようとした所で。
「この大馬鹿共がぁ!!」
この戦いに、第三者の拳が入った。
それは魔法でもなんでもない。技術もなにもない。
ただ、なんの補助も無い単純な拳による一撃。
「本当に馬鹿な事をしやがって、周囲をもっと考えろこの大馬鹿共。そして――」
この魔法と大量の武器がひしめく中。本当になんの変哲もない拳が私とライラックの腹部に命中し――
「いう事を聞かないのなら、お尻ぺんぺんするからな!」
そして、ヴァーミリオン君はそう宣言した。
……ぺんぺん?
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