追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

愛と勇気があれば大丈夫!(:白)


View.メアリー


 さて、戦車の使い方を明確に間違えてはいますが、ハッキリ言ってこの状況はシャレになりません。この戦車が何処まで再現しているのかは分かりませんが、場合によっては正当な手段で使われるより厄介かもしれないのです。
 私達が居る空間は大きく、壁と柱以外には障害物が場所です。あるのは先程からライラックさんが【創造魔法クリエーション】で作られているだろう物質のみ。本来なら一定時間後消えるはずの武器の類は、周辺に破損した状態や破片となって散らばっているのです。
 
――そんな中、戦車の大量投擲とかされたら間違いなくこちらに被害が……!

 ハッキリ言うのなら地上に出現させて砲撃を撃って来た方が対応が出来やすいというモノです。砲弾ならば防御系魔法で対策出来ますし、駆動部でも魔法で狙えば無効化も出来るでしょう。無効化すれば後はただの障害物オブジェとなるでしょう。
 しかしライラックさんがするのは戦車を私達の上空に複数個創り出し、そのまま堕とすというなんとも大雑把な物なのです。落ちて来る戦車を防御した所で質量に押し潰される可能性もありますし、魔法で迎撃しても壊しきるのは難しく、二次被害も生みそうです。
 まったくもってなんという攻撃方法でしょう。前世ではいつか生で見たいと思っていた戦車をこんな形で見る羽目になるとは。

「皆さん、アレに攻撃をしないでください。私がどうにかします」

 ですが、対処できない訳でもありません。
 ――この程度の攻撃の対処など、好きな人に好きと伝える方が遥かに難しいという物です。

「【錬金魔法アルケミスト】」

 私は降り注いでくる全ての戦車を錬金魔法の材料とし、即座に自身の武器として作り変えます。
 イメージするは数台の戦車を材料として変換した砲台。
 物としては列車砲に近い形での変換。
 実際の弾丸に火薬を使用したものでは無く魔力を持って弾丸とする仕組みに。
 【創造魔法】を組み替えて砲台の中に魔法陣として組み込み。

「変換完了。――ぶっ飛びなさい!!」
「っ!!」

 戦車が私達に降り注ぐタイミングと同程度の時間を持って変換を完了させた私は、錬金した列車砲でライラックさんを攻撃します。
 予想外の攻撃であったのか、ライラックさんは次のなにかを作り出す事無くそのまま魔力弾が命中しました。

「え、な、なにがあったの今。急にデッカイ魔術陣が展開されて、それに飲み込まれたかと思ったらメアリーの武器となって攻撃をしていたわよね……あれ?」
「気持ちは分かるが油断するな自称先祖。メアリーはその程度はやってのけても不思議ではない」
「……凄い子ね、メアリーちゃんって」
「ありがとうございます」

 ……個人的にはもう少しヴァーミリオン君には驚いて欲しいのですが、まぁ今は良いです。
 私が作った列車砲は元の材料が魔力で作られた物質だったせいか一発撃ったら消えましたので連射は無理ですし、なにより……

「く、ふ、ははは! 良いぞ、俺の適正との相性は悪いとは思ってはいたが、ここまですぐに対応するとはな!」

 なにより、直撃を受けてもなおライラックさんは無事でいるのです(殺したかったわけでは無いですが)。私達から離れ、いつの間にか積み上げられた創造された物質の山の上に立ちながら笑う姿は、まさに魔王という表現が間違いでは無いと再認識させられます。
 というよりも、やはり私の物質を変換する【錬金魔法】と、彼の使用する【創造魔法】とでは私の魔法に有利が働くというのは理解していたのですね。
 となればここからどう来るのかが問題です。違う魔法で攻めて来るのか、近接戦で私達に挑んでくるのか。先程見たクロガネさんのように、異形となりて襲い掛かって来るのか。さぁ、どう来るのでしょうか――

「だが! 次のこれはどうだろうな、メアリー・スー!」

 ライラックさんは自身の手を上に掲げ、なにかを上から召喚するかのような仕草を取ります。その仕草に私達は手の先、ライラックさんの上空に視線を移すと。

「……え?」
『……は?』

 私達は戦闘中にも関わらず、自身の見た光景を信じられないかのように間の抜けた感嘆詞を呟いてしまいました。

――戦艦大和をご存じでしょうか。

 私が産まれる遥か前のアニメでは宇宙に行く戦艦のモデルにもなった、作られた当時では世界最大最強であった超弩級の戦艦。
 全長二百六十三 m、重さ六万トン越え。四十六cm砲を九門搭載した、最強の攻撃力と最強の防御力を誇ったとされる有名な戦艦です。
 その資料を見て私はどんなものだったのだろうかと思いつつ、戦艦大和を擬人化したゲームをやったりして居たモノです。
 ――そんな戦艦大和が、私達の上空に創り出されたのです。

「ならば俺は、対処できなくなる物を創造すれば良いだけだ! この兵器を対応出来るかな愛すべき者達よ!!」
「だからそういう使い方じゃ無いですから!」

 と、言っている場合じゃありません。流石に私もあんなものを一瞬で錬金するとか無理です。絶対に無理です! 将来的に時間をかけて頑張ればとかなら可能かもしれませんが、今この時点で落下するまでに錬金するとか無理です!!

「諦めるなメアリー・スー! 愛と勇気をもって立ち向かえば不可能などは無いぞ!」
「無理言わないでください! というかその不可能を押し付けて来る貴方が言う台詞じゃ無いですよ!」
「成し遂げるという夢を諦めてしまったのか! 夢を諦めてはなにも為せんぞ!」
「そういう貴方は夢から覚めてください!」

 なんですか最新の魔王はそういう事を言うのが流行りかなにかなんですか。夢を諦めるなとかどちらかというと主人公側の言葉ですよ。というかそういう事言っている暇は有りません。どうにかしてこれを対処せねばなりません!

「皆さん、全力退避です! 横幅はそれほどありませんから、ライラックさんの攻撃に注意しつつ逃げますよ!」
「間に合うのかしら!?」
「間に合わせます」
「もし間に合わなかったら!?」
「夢の世界への片道券が発行されます!」
「わー、嫌だー!」
「だったら早く逃げるぞ馬鹿先祖!」

 言葉を交わしつつ、未だに攻撃を仕掛けて来る戦艦大和の降って来る場所に居るライラックさんに気を付けつつ私達は落下する戦艦大和から逃げようとします。ああ、もう、なんですかこの状況。折角の戦艦大和を見る事が出来たというのに、なんで私達は落として攻撃するためだけに創り出した戦艦大和から逃げるとか言う状況に陥っているんですか!
 ええい、この落ちて来る戦艦大和を避けた暁には、ライラックさんに一発――

「っ、メアリー様、あれは攻撃が出来ます!」
「え?」

 と、落ちて来る戦艦大和の範囲から逃げ出す事が出来たと思った所で聞こえて来たエクルさんのその言葉に、創られた戦艦大和の砲台の一つが私達を狙っている事に気付き。

「危ない、メアリー様!」

 私がなにかをするよりも早く、砲弾が私達に向けて発射されました。
 誰も操作していないのに私達を狙って、不思議な挙動で砲台が動き。
 発射後に戦艦大和は地面に落ちて空間を揺らす地響きを巻き起こし。
 落ちた衝撃による地響きが収まり、巻き起こった粉塵が晴れた後に。

「――エクルさん!」

 砲弾を受けて倒れ伏す、エクルさんが見えたのです。

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