追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

使い方が違う!(:白)


View.メアリー


「愛、勇気――俺はそれがあれば問題が無い。そしてお前達は全てを以って俺に立ち向かって来ればいい」

 コツコツと、一旦離れた場所に行ったライラックさんは再びこちらに近付いてきます。
 その視界に映るのは私達四人――の、はずなのですが、不思議と彼の目には二人と一人、その他一人、というように認識しているように見えます。

「…………」

 そして彼はそのまま無言で近付いて来ると、周囲の様子が変わります。
 先程まで砂嵐が映っていた画面が暗転し、それぞれの画面にスカイやシャル君、シルバ君やアッシュ君といった戦いをしていた皆さんだけでなく、生徒会の皆さんなどが街やこの空間と似たような場所に居る様な画面が映し出されただけでなく。

――ヴァイオレットにクロさん……

 遠くに居るであろう、ハートフィールド夫妻の和服を着た夫婦と楽しそうに談笑されている姿も映し出されます。まるで全てが分かっているかのように、どうにかしなければ彼らもこの空間へと誘い、狂った世界の住民にするかと言うように。
 ……脅しとしても、こちらを怒らせるにも充分すぎる光景を彼は一瞬で見せたのです。

「――――」

 見せた後、彼は映し出されていた画面をすべて閉じると――

「――では、真っ向勝負と行こうか」

 ――戦いの火蓋は、切って落とされたのでした。







「ライラック兄様が強いか、だと?」
「はい。先程の話を聞く限りでは、クチナシ義姉さんは相当な戦闘強者のようです。その義姉さんが身体強化を使うほどの相手となると、やはりライラック義兄さんも強いのかな、と」
「ああ、とてもな」
「やはりヴァイオレットさんやソルフェリノ義兄さんのように万能系ですか?」
「確かに魔法属性の資質としては似ているよ。十段階で全て七から八を取るような感じだな。……そして本物の優秀な者には負けるんだ……ふふ、私が学園でそうであったように……一定は取れてもそれ以上は伸びないんだ……」
「おーい、戻って来て下さーい」
「ああ、すまない。ちょっと昔のトラウマを思い出していた」
「ちょっとで思い出す事じゃ無いですね。というか七から八取れる時点で凄いですよ。……俺なんて頑張っても五に届くか届かないかで……ふふ、魔法を一杯使いたかったなぁ……先生に優しく諭されるんだもんなぁ……」
「おーい、戻って来てくれー」
「おっと、すみません。ちょっと前世のデザインセンスも含めてのトラウマを思い出してました」
「ちょっとで思い出さないでくれ」
「ですが、そうなると資質の使い方が巧かった感じですか? こう、密度の濃い七から八を取って戦闘に組み込んだ……経験から来る戦闘方法、的な」
「そうではないな。ライラック兄様は私やソルフェリノ兄様と違ってある魔法だけ飛び抜けて素晴らしかったんだよ」
「ある魔法?」
「ああ、神父様と同じで【創造魔法クリエーション】が得意でな。そこに身体能力も相まって、兄様は一対一であろうと、多対一であろうと強さを誇っていたよ」
「おお、それは凄いですね。……勝てるかなぁ」
「? 先程からクロ殿は強さを聞くが、戦いたいのか? 戦いに飢えているのだろうか?」
「いえ、そういう訳では。ちょっと戦ったら勝てるかな、って思っただけですよ」
「私とクロ殿の愛があれば勝てると思うぞ!」
「そ、そうですか」
「…………」
「…………」
「…………くぅ」
「自分で言って自分で照れないでください」
「クロ殿も顔が赤いじゃないか。ともかく、ライラック兄様はとても強い御方だ。強すぎてついていけない事もあるのだが……クチナシ義姉様と同じで、仁義に溢れた御方だ。戦ったとしても、気持ちの良い爽やかなモノとなるだろうな」







――殺されます!

 ライラックさんとの戦闘が始まり、一つの誤りが死につながる事もある、というのを私は感じ取っていました。
 今までも強者とは戦った事があります。
 今までも強いモンスターと戦った事はあります。
 ですがこの相手は、明確に今まで戦った相手と違う所があります。

――人間の思考を持って、真正面から殺しに来ています……!

 彼はモンスターのように本能で殺しに来る訳でも無く、決闘のような命を奪う物でも無く、裏から殺しに来るのでもない、文字通りの命のやり取りをしてくるのです。
 例えばコーラル王妃の時。彼女は間違いなく戦闘強者であの時を思い返しますと、コーラル王妃は私達を攻撃はし倒そうとはしても殺そうとはしていませんでした。
 他にも多く例として挙げられる記憶は有りますが、彼のようにただ私達を殺し合う事が目的であり、殺し合う際に見る事が出来る愛と勇気を間近に見られれば己が命を失っても悔いはない、と言うような相手は初めてです。というか過去にも未来にもそんな相手はお断りしたい所です。

「っ、来ます、皆さん、迎え撃ちますよ!」
「分かってる! エクル、地属性を多めで頼む、水や火はアレには通じにくい!」
「了解、ええいというかどうなってるのこれ。詠唱破棄の魔法量じゃないって!」
「うわぁあああ、なんか色々と武器が降り注いでくるわー! 私精神関与が得意なだけでそんなに強くないのにー!」
「言っている暇あったら少しは手伝え馬鹿先祖!」
「馬鹿って言わないでよー! こちとら皆の精神安定と魔力補給に必死なんだからー!!」

 そしてさらに厄介なのが、ライラックさんは純粋に強いのです。
 詠唱破棄、魔法陣破棄、ただの身体動作と魔力操作だけで行う【創造魔法クリエーション】。本来であれば物が作られる事なく壊れるような魔法工程にも関わらず、彼は次々と武器を作りだし私達にぶつけて来るのです。なんですか、ゲー〇・オブ・バ〇ロンかなんかですか。四人も居て防御で精一杯なんですけどそこだ隙有り喰らえ上級魔法!

「はは。ははははは、ハハハハハハハハ!! 良いぞ、もっとお前達の愛と勇気を俺に見せてくれっ!」

 くっ、なんですか本当に彼は。攻撃の合間を縫って上級魔法をぶつけたのに、苦しむどころか笑ってますよ。怖いです。
 効いていない……というよりは、効いても“それを喰らわせた相手の力量に賛辞を!”みたいな感じがします。怖いです。

「こうなっては俺も応えなくてはなるまいな」

 わぁ、凄い良い笑顔。とても嫌な予感がしますね。

「なぁ、メアリー・スー。お前達の居た世界には、戦車という兵器があるそうだな」
「はい?」

 戦車。それはこの世界にもある兵器の名前ではあります。
 私達の世界でもあった、馬を引いて攻撃する戦闘用馬車。それを今の時代のこの世界では戦車という訳ですが、彼の言う戦車というのはまさか――

「特殊鋼板の装甲に覆われた兵器。――お前達はこれを耐えられるかな?」

 まさか、彼は――【創造魔法】で二十一世紀日本人が想像するような、戦車を作り出すというのですか!?
 何故知っているのでしょうかとか、そういった事は今はどうでも良いのです。もしあのような物を作れるとしたら、戦い方が一気に変わってしまいますし、知らない御二人には未知なる戦いとなってしまいます。それはこの戦いの戦況を一気に変えかねない事であり避けなければ――

「戦車による超重量、耐えてみせろ!」

 ……え、超重量?
 そんな私の疑問を余所に、ライラックさんは戦車を――上空に創り出しました。

「フハハハハハ、戦車という兵器の投擲を何処まで耐えられるかな!」
「それそう使う兵器じゃありませんからね!?」

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