追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

人間を舐めるな!(:空)


「そういえばクロ殿、以前のお見合いの後に戦いがあったが」
「見合いの後になんか戦闘があった奴ですよね。……本当になんでああなったんだろう。それがどうしました?」
「スカイと戦うという話があったが、どうなったんだ? 確か特別に一戦だけする、という話があったと思うが」
「あー……はい。するつもりは無かったんですが、確かにスマルト君にせがまれてしましたね。どっちが強いのか! みたいに目をキラキラで迫られて……」
「ふふ、クロ殿は子供に迫られると弱いな」
「純粋な厚意には応えたくなるだけです」
「そうだな。それで、どうなったんだ?」
「…………」
「クロ殿?」
「……時間も時間だったんで、武器無しで軽めの模擬戦のようにやろうとしたんですよ」
「?」
「吹っ切れるために本気で行きますとか言われた後に攻めて来て――そして気が付けば俺は戦闘態勢になっていました」
「うむ?」
「なんか、あの時のスカイの拳は妹の……クリの本気より当たるのが怖かったです」
「……あの身長と体重が同じ数値であり、そのほとんどは筋肉と言う筋蜜度を誇り、木とかを素の力でへし折るクリ先輩よりか?」
「はい。……はい」







View.スカイ


 私の中でのクロガネ様の一番の記憶は、私の夢を決して子供の夢だと笑わなかった事だ。
 初めは女のヒトだと思ったら男のヒトであり、「近寄ってはならない男性」と言われた男性と気付かずにシャルと一緒に話しかけ、色々話をしたのがキッカケだったはずだ。その時のシャルの「お姫様を悪のドラゴンから守る!」だの、私の「史上初の女騎士団長になる!」だの、子供の夢だと微笑ましく思わるか、馬鹿にされるかだった夢を決して笑わなかった。当時の私やシャルはそれがとても嬉しかったのを覚えている。
 私達は騎士になった暁にはこういった優しき存在を守りたいものだと誓ったものだ。

「ふんぐるい むぐるうなふ あんめいぞぉ きりやれんず きりすてれんず」

 しかし今の目の前に居る悪魔かれは呪詛のような言葉を吐き、身体を蠅ように集らせている。

「いまでう――ああ、愛しのスカイ・シニストラ。ボクに会いに来てくれたのかい? 嬉しいなぁ。やっぱり強い男の元に女性は惹かれるものなんだね」

 そしてこの姿を悪魔かれは強い姿として認識している。
 先程聞こえた声によると、私に見合う強き男になる努力をした結果こうなったようである。
 ……恐らくスマルト君が私に惚れ直したという暴漢の捕縛した時の私を見て、嫉妬に狂った結果方向性を間違えたようだ。……まったく、無意識に二人の男性を惚れさせて狂わせるとか、魔性の女かなにかか、私は。

「ひ、ひはははは、さぁスカイ・シニストラ。強くなったボクと愛し合おうじゃないかぁ!」
「ストレート!」
「――どうぅわ!?」

 よし、ならば惚れさせてしまった責任を取るとしよう。
 そうと決まれば話が早い。
 シャルの言う通りと言うのも少々癪であるとはいえ、私の愛をぶつけるとしよう。
 私は身綺麗な身体で私を真っ直ぐに好いてくれたスマルト君に会いに行くために、愛を発露させるとしよう。
 具体的に言うと殴ったり蹴ったりする。そして私の手で引導を渡してくれよう!

「どうしましたクロガネ様。何故私の愛を受け取ってくれないんです」
「あ、愛? そうか、愛か。暴力に見えたがこれが愛なの――「ぶっ飛べ!」――どぅわ!!?」
「くっ、顔面を殴ってもやはり蠅が分散しますか……!」

 やはりというか、話している途中で頭部に該当する箇所を殴っても蠅が散らばるだけで手応えは少ない。やはりただ殴るだけでは駄目のようだ。

「は、はは。そうだ、別に避けなくても良いんだ。強いボクにはそんな必要もないし、愛しのキミが愛をくれるんなら、それに応えるとしよう!」
「なら効果が出るまで殴り続けましょう」
「はイ?」

 ハッキリ言って、私は殴るのは好きではない。相手を殴り、与えるダメージからくる衝撃が拳に直接宿るのが嫌いだ。だから私は剣とか使う戦いの方が好きであるし、得意である。
 偽善と言われればそれまでではあるのだが、とにかく性に合わないのだから仕様が無い。
 しかし私は生憎と、素手や手甲有りでの殴り合いではシャルに負けた事が無いほどの才覚を有していた。これはシャル以外にはあまり知られていない事でもある。
 ……それでも私は素手より剣や魔法の方が、“戦闘”での成績は良いのだが、

「【色即是空 、空即是色】――眼に見えるものだけが、全てではない」

 けれどまぁ。
 今はなんとなく、直接悪魔かれを殴りたい気分だ。

「【二重拳ニジュウソウ】」
「ははは、良い一撃――ぐぅ!? え、あ、……? なんで、腹を殴られて、右腕が吹っ飛ぶ?」 

 なんてことはない。衝撃を腹部から右腕に伝播させただけだ。

「【次元脚ジゲンキャク】」
「っうう!? 中に……中に響く……!?」

 本来なら肉を傷付けずに骨を粉砕する手応えなのだが、どうやら上手くいかないようだ。
 と、なるとやはり連続した攻撃の方が良いようである。

「ははHAhaはは! 次はこっちから行くぞ、くらえぃ――がはっ!? え、なんで……今、ボクが攻撃をしたのに、何故ボクがくらって……!?」
「衝撃を流してそのままくらわせただけですよ。――さて」

 胸元を殴った。直接触れていない、分散した蠅を伝播で殺した。
 外れはしたが、指先が首部に掠った。掠った衝撃で首はへし折れていた。
 殴った手甲に蠅がまとわりついた。払うついでに足場の船を殴り、二十メートル級の船を粉砕した。
 別の船に飛び移った所、追い駆けて来たので待ち構えた。そして攻撃範囲に入った瞬間に自分が出せる連撃を喰らわせた。多分シャルの先程の【紫電一閃イッセン】レベルの早さで拳を繰り出せた。しかし早さは同じでも力が足りない。ので、相手に反撃の隙を与えずに百回ほど連続で殴った。
 お陰で相手の身体はおおよそが分散したが、やはりこれでは足りないようで蠅は集まっていく。ので、後から来る衝撃を集まる蠅の一部に喰らわせる事で集まった後に崩壊をさせていた。

――ああ、なんでしょうか、これは。

 今までの私では出来なかった事が出来ている。
 今までの私のベストを軽く超えられている。
 これがいわゆる最高状態ゾーンに入る、というやつだろうか。

――いや、違いますね。

 これはそんなものではない。
 これはもっと単純な――

「これが愛の力です!」

 そう、愛の力というやつだ!

「ば、馬鹿な。愛の力だけで、生身の人間のキミにこんな事が出来る訳が無い! なんだ、なんの魔法を使っている……!?」
「馬鹿を言わないでください。こんなものは修練を積めば、誰にでも出来る努力の結果に過ぎません。生身の人間の可能性を舐めないでください!」
「いや、それは絶対ない!」

 失礼な。ただの愛と努力の結果だというのに。何故そこまで信じられないのか。
 ――やはり、言葉でも愛で説き伏せるしかないようですね!

「……俺の幼馴染は、妙な領域に行こうとしているな……」

 ただ、なんとなくこの状況を眺めている幼馴染が失礼な事を言っている気がした。

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