追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

まずは試す(:朱)


View.ヴァーミリオン


「――え?」

 二度、そんな間の抜けた反応をしてしまうほどに、俺達は目の前の光景に理解が追い付かなかった。
 目の前に広がるのは、異国の宮殿、ないしは城を彷彿とさせる建物の中であった。
 先程まで俺達はショクという名の、代表者が住まう場所すらも観光スポットとして一部が一般開放されているような観光業を主軸とした温泉地に居たはずだ。その一般開放されていない部分の扉から、周囲を気にしつつも夢魔族の女を連行しに来た。にも関わらず、俺達の目の前に広がるのは王城の謁見の場よりも遥かに広い空間であった。

「ここは――夢の空間……?」

 この空間を見て初めに思ったのは、母さんが作った夢の空間と似ている、という事だ。空間に何処となく霞がかかった様な、居るだけでフワフワとする異質感。その時と同じがこの空間には漂っている。
 そしてなにより一番の異質を放っているのは、この空間に存在するだ。

「……なんでしょうか。この空間……弟がやっていたゲームの無限回廊を彷彿とさせます」
「確かに。特定の条件を満たさないと抜け出せそうにない感じがしますね」

 エクルの言う無限回廊と言うのは分からないが、この空間は壁に沿うように柱が等間隔に何処までも続くように真っ直ぐ並び立ち、道の先は果てしなく続くかのように終わりが見えない。
 なお、当然というように俺達が通ってきたはずの道は無く、前に進もうが後退しようが何処までも続く道となっている。要するにこれは閉じ込められた、と言うやつだ。

「自称先祖。一応聞くがこれはお前がやったのか」
「生憎とワタシが出来るのは欲望の開放程度。力を蓄えて元の姿に戻れば空間くらい作れるだろうけど、こんな空間を塗り替える様な規模は無理」

 明確に警戒をし、分析をしている辺り夢魔族の女の言葉に嘘は無いだろう。事実夢魔族の女が言うように、この空間は塗り替えられている、というのがしっくりくる表現の空間だ。メアリーやエクルを見てもこの表現に異議を唱える様子は無い。が、感想と現状を聞いておこう。

「二人はこの空間についてどう思う?」
「軽く周囲に探索とかの魔法をかけたけど、なにかに阻害されているようで上手くいかないね」
「私の方も似たようものですが、阻害と言うよりは消されている感じですかね」
「消されている?」
「より強い魔法によって上書きされている、と言う感じです」

 魔法は基本的に唱えるための魔力を使い果たせば、結果は消えなくとも立ちどころに起こした魔法が消えて残るは残滓のみとなる。つまりは魔力を以って結果を導き出しているのだが、この空間だとより強い魔力を以って結果を作りだし続けているから結果が反映される前に上書きされている、という事なのだろう。

「ふーん、あっさりやっているけど、結構高度な探索魔術やっているのね。貴女達結構魔術が得意――って、なにをしているの?」

 何処までも続く謎の空間。
 俺達は閉じ込められている。
 魔法が得意な二人でも上書きされる程の、より強い魔法が空間全体に掛かっている。
 と、なるとやる事は一つだ。

「ひとまず高火力魔法で空間の破壊を試みるか」
「は?」

 何処までも続いているかを確認するために移動するのも良いが、まずはこの場で出来る事をしておこう。

「ちょっと待ちなさい、ワタシの子孫。なんで魔術の準備をしているの?」
「強い魔法で空間が満ちているのなら、俺達の最大火力で空間自体を壊せないかを試すためだ」
「待ちなさい。そういうのってもっと調べてからするもので――待ちなさい、そっちの二人もなんで魔術の準備をしているの!?」
「まぁ、やれる事はやっておこうかと」
「メアリー様がするなら私もするだけですよ?」
「え、なにこの子達。最近の子ってこんな考え無しの子ばかりなの!?」

 失礼な。王国的に見ても有数な魔法の使い手であるメアリーとエクルが探索をかけても不明と判断したんだ。ならば敵の術中にハマるよりも、早めに脱出を試みようとしているだけだというのに。

「よし、行くぞ王族魔法!」
「行きますよ、基本属性以外の魔法を同時発動!」
「行きますよ、基本六属性上級魔法の同時発動!」
「なにこの子達、怖い!」








「ううむ、駄目ですね。特に変化なしです」
「そのようだ」
「ですね」
「……なんなのよ、この子達……ワタシが十全の姿で顕現しても軽く屠られる魔術を気軽に出しているの……? そういうのって最後まで取っておくものじゃない……?」

 夢魔族の女はなにやらブツブツと言っているが、俺達の高威力の魔法を周囲にぶつけても特に変化は無かった。魔法自体は威力が減る事無く発動できるし、柱は壊れはするのだが、壁にひびが入る事はない。力づくでの空間脱出は出来ないようだ、
 広範囲の魔法を見えない道の先に撃っても反応が返って来ないまま何処までも向かって行き、そのまま何処かへ消えてしまう。
 ……これはもう少し調べる必要があるようだ。

「やはり移動してみた方が良いようですね」
「そうだな。出来る事はしておこう」
「道中で調べながら、ね」
「普通そういうのって、最初にやるものよね」
「異常事態で普通もなにも無いし、ヒトの数だけ普通はあるんだ」
「その通りですね」
「少なくとも高火力の魔術をぶっ放すは普通じゃ無いわよね!?」
「普通じゃない人から見た普通の人は、普通じゃなく見えるそうですよ」
「え、ワ、ワタシが……ワタシがおかしいというの……!?」
「……キミ達。あまりその子を揶揄うのはよしなさいね?」

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