追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

少し戻って、別の班では(:杏)


View.アプリコット


 とても簡単に僕達の状況を説明するのならば、閉じ込められた、と表す事が出来る。

 僕達は元々、奇妙な事が起きているという温泉の源泉へと調査に赴いていた(出来れば心躍る遺跡が良かった)。
 クリームヒルトさんやメアリーさん曰く、ゲームの世界だと“ドラゴンが浴びをし、そのせいで温泉に影響が出る”ような場所らしい。影響と言うのは温泉が高温になったり、ドラゴンの魔力が溶け出たせいで魔力にあてられて倒れるお客が居る、というようなものだ。
 しかし今回はそんな事が起きた訳でなく(そもそもそんな事起きていたら学園生の領分ではないだろう)、あくまでもいつもと泉質が変わったので調査をして欲しい、というものだ。
 これも学園生の領分では無いと思うのだが、そこは調査を行うという実地調査の経験を積ませるための依頼のようなモノらしい。ようは学園が学習先に職場体験を依頼するようなものだ。
 ともかく僕達の班は、生徒会のメンバーである僕やクリームヒルトさん、フォーン会長さんとシャトルーズめを代表として山奥にあるという源泉に向かっていった。
 時折何故か空からの襲来するモンスターを迎撃しつつも、これといった問題無く源泉を管理している建物に着いた訳である。

――そして、着いたのが僕達の感覚で一週間前であるのだが。

 建物に着き、「源泉に入ってみよう!」などと言うクリームヒルトさんを微笑ましく思いつつ、全員で建物中に入ったのは良いのだが……気が付けば僕達は謎の暗い空間に放り出された。

――不思議な場所だな、ここは。

 全体的に暗いのに何故かその場にいる互いの姿などは認識出来る。
 入った場所が消え、出る場所が見当たらない。
 空間の大きさは20m四方程度で、壁や地面を壊そうとしても壊れない。
 魔法は十全に使えるし、空気の淀みも無い。
 そんな、不思議空間だ。

――初めは皆の者が戸惑っていたな。

 最初は何事か分からず、警戒するも敵は現れず。
 脱出しようにも出来ないこの不明な状況はパニックを起こすのも無理は無かった。
 しかし、シャトルーズめの、

『落ち着け、ここで動揺しては相手の思うつぼだ! 冷静に、状況を把握する事が脱出への最善だ!』

 という、普段の様子とは違う様子での言葉に、パニックが起きる事無く全員が解決に向けて様々な事を試し始めたのである。そして、試し始めた結果が先程の空間の把握なのである。
 脱出できないのではないかという状況に、皆の空気が重くなる中、“ソレ”は現れたのである。

『こんにちは、アゼリア学園の諸君。冷静に対応できているようでなによりだ』

 年齢は50代程度の、正しく年齢を重ねたという表現が似合うような、何所となく僕達若人にはない色気と渋みがにじみ出る一人の男。
 そんな男が、まるで箱の中の生き物を眺めるかのように、上空の壁越しに現れた。
 曰くその男は僕達を閉じ込めた張本人らしい。
 中からの脱出は不可能。代わりに男自身も中に害意を加える事は出来ない。
 この空間から脱出できる方法は、外から誰かが助けてくれれば簡単に開くそうだ。

『だが、あまり期待をしない方が良い。この空間と外の時間の流れは違うからね』

 この中の空間は、外での一時間が二週間程度まで引き延ばされるとの事だ。例え外が異常に気付き、助けに捜索したとしてもその頃には中で二、三ヶ月は経っていろうとの事だ。なんでも王族魔法に似た代物らしい。
 だから助けに期待するくらいならば、もう一つの方法を試した方が良いだろうとの事。その方法とは、

『お前達十二名が、残り三名になったら解放してあげよう』

 という、内容であった。

『安心しなさい、私は悪魔ではあるが、ヒトデナシではない。食料はキチンと用意してあるさ』

 そういって突如部屋の中央に現れた食料達。
 量は頑張れば五名程度が三ケ月は持つような量、との事。
 早めに五名になれば助かる数は増えるだろけど、日和れば食料が多く減り、追い詰められてから数を減らしても五名も助からないかもしれない。だそうだ。

『ああ、それとその食料に肉は無い。肉を喰いたかったら“死んだお前達”を喰えば良い。ああ、そうすれば多くが生き残れるかもな!』

 と言い残し、男は去っていった。

――本当に話であるな。

 外の状況は分からず、いつ助けが来るかも分からない。
 相手は見えるが光は無く、暗闇という不安材料。
 魔法を使えば光源は確保できるし、食料もあるにはあるし、水も魔法を使えばどうにか出来る。……だからこそ、その中途半端な希望がいつ壊れるかは分からないという不安要素が大きい。
 そもそもあの男の言っている事自体が本当かも分からないのだ。
 十二名も居れば、様々な思考と思想が入り混じれる。方針でも迷うし、そもそもこんな事をする相手が、なにもしないままで終わるのかという考えもある。
 しかも若き男女が一つの部屋に居るのだ。様々なストレスが発生するだろう。
 そして行きつく先は――あの悪魔のような男の顔が邪悪に歪むような、目も当てられない惨状だろう。
 ……出来ればそれは避けたいが、解決するにしろ、耐えるにしろ、なにが起きるか覚悟を以って挑まねばならない。

「いえーい、錬金魔法のお手軽クッキング!」
「いえーい、クリームヒルト先生、今日はなにを作るんですか!」
「はーい、今日は水魔法と土魔法と火魔法を錬金して作る、“あれ、土って結構食えるじゃんナポリタン”です!」
「ふぅ、美味しそうですね!」
「あはは、土とか泥って結構食べられるからね!」

「おーい、こっちに土魔法たのむー」
「あいよー。しかし、凄いよな、錬金魔法。まさか土さえあれば作物を育てられるとは」
「しかもアプリコット女史が急速に育てられる方法を編み出してくれたからな」
「しかし作物を育てる、か。……簡単だと思っていたが、結構苦労するんだな」
「この経験を活かすためにも、皆で脱出しような!」
「おお、そうだな! なにせ俺は家を出て、太陽の下で野菜を育てる夢を持ったからな!」
「良いな、それ!」

「カバディカバディカバディカバディ!」
「カバディカバディカバディカバディ!」

「どっちのチームがが勝つと思いますか、実況の会長!」
「え、えっと……どちらが勝つか分からない白熱ぶりだね……!」

 と、覚悟をしたのが僕達の感覚で大体一週間前。
 何故かこの空間に居る班の皆さんは、今も元気に明るくやっています。
 ……この者達なら、シキでやっていけそうである。

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