追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

非生物敵(:灰)


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 モンスターには多くの種類が存在するが、まず分けられる区分は“生物せいぶつ非生物ひせいぶつ”か、という事だ。
 この区分を定める時、多くのモンスターは生物に分類される。なにせアンデッド、ゴーストも生物に当てはまるのだから。ならば非生物に当てはまるのはどういう存在かというと、呪いと古代技術魔物が主な非生物モンスターである。
 呪い、つまり怨念により動く存在は「既に死に絶えた存在だ」という事で、非生物として扱われる。
 そしてもう一つの古代技術魔物。父上達の前の世界で機械と称されていた失われしロスト古代技術テクノロジーは、父上達の前の世界ではどう動くかは解明はされていたようではあるが、私達の世界ではほとんどが「どう動くのか、使われていたのか」が解明されていない。つまりこれは「何故動いているかが分からない」ので、古代技術魔物は非生物として扱われているのである。
 さて、何故急にそのような事を説明し出したかというと。

「皆様、古代技術魔物がやってきます、全員戦闘態勢を!」

 その非生物のモンスターが、大量にこちらに向かってくるのを発見したからである。

「うわ、なんだあの数!?」
「というかなにあの形状のモンスター!?」
「というかモンスターなの、あれ!?」

 私の声に反応し、私の向いている方向を見た皆様は戸惑いつつもすぐに全員が戦闘態勢になった。戸惑うのも無理はない。なにせ数は多数としか言いようがないほどに遺跡のあなからこちらに向かって来ている。先程のように役割分担した戦闘組の私達数名だけで対応する、というのは難しい数だ。班のメンバー十名が戦闘に出てようやく抑えられる、という程度だろう。
 更には数もそうだが形状もあまり見ない形状のモンスターだ。ロボ様が偶に使用なされる大砲のような物を頭につけつつ、そして四足歩行の蜘蛛のように足を広げこちらに迫ってきている、というような存在。なにをして来るかは分からないが、あの筒のような穴からなにか一撃を放ってくる、というのは嫌でも分かる。
 しかも小さな大砲魔物(仮名)の中に、動きは遅いが一際大きい大砲魔物がいる。小さな大砲魔物を1とするなら、30はありそうな大きさだ。もし威力もサイズに比例するとしたら、小さな大砲魔物が弱い事を祈るばかりである。

「皆さん、私の後ろに!」

 そして一早く班の皆様の中で動き前に立ったのはティー君であった。雷神剣を抜き、皆の壁のように大砲魔物の群れに立つ。

「危険です、ティー殿下! 私達の後ろに――」
「アレが古代技術の魔物ならば、私の雷魔法が一番有効なはずです! その場合私が食い止めていますから、その間にリーフグリーン先輩とリバーブルー先輩はいつでも逃げられるように他班への連絡と退路の確保を! その他の皆さんは援護と利かなかった場合の他属性を使って下さい」
「え、あ――」
「返事!!」
『は、はい!』

 ティー君は戸惑う班の皆様を、行動と有無を言わさない言葉で統括した。やる事を命令されたという事と、最も地位が高い存在が率先して前に立つという状況に混乱は収まり、それぞれが自分の役割をこなすために動き出す。

――流石ですね。

 普段は失礼ながら私と同じで受け身でいるか、誰かに命令するよりも一緒に行動をする、という「皆の隣に立つ」というようなティー君である。しかし今のティー君はまさに王子と呼ぶに相応しき在り様であった。ティー君はやはり、楯を冠するランドルフ家の一員なのだと、改めて思うのであった。

「フューシャちゃん、私め達は援護しましょう!」
「う……うん……!」

 フューシャちゃんはなにをすれば良いか分からないと言った様子ではあったが、ティー君の言葉と私の言葉を聞くと、一度目を瞑り、なにかを自分に言い聞かせた後に目を開いて覚悟を決めた表情へと変えた。
 恐らくこの混戦の場だと“なにが起きるか分からず、運要素が多く介入する”という状況に昔を思い出し、動かない方が良いかと思ったけど前を向こうと思った、という感じだろうか。

「接敵まで恐らく三十秒。殲滅より足止め優先、無理だと判断した場合即離脱! 攻撃は私がしますから、基本は防御を最優先です! つまりは――」

 ティー君は皆さんに方針を伝える。そしてなにかを思い出すように――というよりは、誰かを思い出すように言葉を区切った後。

「死にたくなかったら生きる事! 良いですね!」

 と叫び、戦闘が始まった。

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