追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

温泉イベントの様式美?(:灰)


View.グレイ


 空間歪曲石と馬車をいくつか使い辿り着いた課外学習の目的地。その目的地にて、荷解きが済んだ後に私はティー君とフューシャちゃんに話しかけていた。
 本来なら私も生徒会メンバーとして挨拶をする必要があるのだが、今回は私ではなくもっと素晴らしい方々が挨拶に向かっているので、私は他の皆さんと一緒に準備作業中である。

「宿泊場所への荷物搬入や挨拶済みましたし、皆様が帰って来るまでどうしましょうか、アプリコット様、クリームヒルトちゃん」

 そして今の私は、アプリコット様とクリームヒルトちゃんと共に居る。
 生徒会メンバーの中でも仲の良い御二人であるので、一緒に居るのはおかしくないと言えばおかしくないないのだが、これにはちょっとした理由がある。
 それは単純に“この課外学習中は、生徒会メンバーは二人以上で行動する事”というものだ。出来れば互いが互いを補えるような相手と一緒に居るのが良いらしい。これを伝えてくださったメアリー様は「安全のためですよ」とは仰っていたが、別の理由があった気もする。
 理由を聞きはしたかったが、聞く前に「良いですね?」と念を押されたため聞く機会を逃し、今となっている訳であるのだが。

「この地に眠る、まだ見ぬ魔法書と調味料を探しに行くのである!」
「あはは、さっきマンドラゴラとか見かけたし、錬金魔法の素材を見に行こう!」
「あの、流石にそこまでの勝手は出来ないかと」

 今の私は、新たな地に目を輝かせるお二人をどう宥めようかと考えていた。
 私個人としては目を輝かせる大好きなアプリコット様と、同じく街を見て回りたいとうずうずしているクリームヒルトちゃんと一緒に街に繰り出したいのだが、流石にそこまでの勝手は出来ない。
 一応は挨拶に行った皆様が戻って来るまでは、共に来た学園生の皆様も含め自由時間ではあり、宿泊場所の建物(領主邸の別邸らしい)から出ても良いのだが、あくまでも次の行動をするまでの待機時間である。学園で言えば授業と授業の間にある休み時間のようなものだろうか。その時間を使って少し動く事は出来ても、学園の外に出る余裕は無い。というような時間なので、お二人の目的を満たす事は出来はしない。ので、心苦しいがお二人には我慢して頂こう。

「あ、そういえば馬車の窓から良さそうなコーヒーミルがあったよ?」
「見に行き――――ません! 勝手な行動はいけないのです!」
「くっ、もう少しで行けそうだったのに。もっとなにか見つけておけば良かった……!」
「むぅ、グレイにこう言われては仕様があるまい。年上の者エルダームナールとして、ここは我慢しよう」
「あはは、そもそも注意されている時点で年上として情けない気もするけどね!」

 コーヒーミルについては興味を惹かれるが、我慢だ私。キチンとした時に、正式な方法で見て買うとしよう。…………。我慢だ、私……!

「いけそうじゃない?」
「やめい。まぁ確かに外を出るのも良くはない。グレイと言う通り、勝手はしないとして……そうであるな、この屋敷の高い所でも行くとするか」
「高い所ですか?」
「うむ、この屋敷は他と比べると高い建物だ。であるならば、天の神アンシャールが見つめし景色をこの目で見、中央の頂への理解を深めよううではないか」
「お、良いねそれ!」
「はい、良いですね!」

 つまり屋敷から周囲を見渡して、街全体雰囲気を把握しようという事か。それならば急な呼び出しにも対応出来るし、待機時間の自由行動の範疇に収まるだろう。
 そうと決まれば話は早く、私達は早速階段を上り、三階まで行き、手近な部屋に入って窓を開けた。

「おー、良い景色ー!」

 そして見えた景色は、中心に川が流れる美しい街並みであった。
 王都ほどに発展はしていないが、活気溢れる人々が行きかい、笑い声が聞こえて来るような、シキとは違う雰囲気が良さが溢れる景色。

「うむ、良い眺めであり、観光したくなる様な場所であるな、このショクという地は」

 そして私達が今回課外学習で向かったこの目的地の名は、“ショク”という地である。
 行く途中の馬車で聞いたのだが、なんでもかつてはシキとも交流が深かった土地であるそうだ。今ではほとんど交流は無いのだが、ショク、という名はシキと同じ語源であるという話があるそうである。

「そしてこの地は温泉が有名なのですよね。入ってみたいですね!」
「あ、この屋敷に隣接した建物が温泉の建物なんだよね?」
「うむ、研修の終わりに入る温泉は気持ちよさそうであるな」

 そしてこの地は温泉が有名であるそうだ。
 やや離れてはいるのだが、火山があるらしくそこから地熱が伝わっていたりして良い温泉スポットなのだとか。私は温泉はシキでの温泉しかないので、違う温泉に入るのが楽しみである。

「ぐへへ」
「どうした、クリームヒルト先輩。そんなわざとらしい下種な笑い方をして」
「いや、やっぱり温泉だから覗きをしないと駄目だな、と思っただけだよ」
「やめい」
「でも、あの世界の私だと、覗きに行こう、行くぜ男湯ヴァルハラ! って言ったりするし、やっぱしておいた方が良いかな、って」
「そんなノリで犯罪行為に手を染めるでないわ」

 あの世界……あ、確かクリームヒルトちゃん達の前世である、私達の世界と似た世界のげぇむであったか。その主人公ヒロインはクリームヒルトちゃんと似ているらしいので、その主人公ヒロインに倣っての行動、という事か。

「覗くのですか、クリームヒルトちゃん。というより覗いてなにを得るのです?」
「うーん……痴的好奇心か前科を得るのかな」
「なるほど!」
「納得するでない、グレイ。あと知的の発音がなにか違わぬかったか?」
「ううん、間違いじゃないよ!」

 前科を得るのは良くないが、好奇心を得るのならば協力はしたい。
 要するに不特定多数の相手の許可なしに、温泉に入っている所を見るのが良くないので……ティー君だけを温泉に入れて、クリームヒルトちゃんに覗かせれば良いという事だ!

「グレイ、変な事は考えぬように――」
「ほう、こちらの錬金術師アルケミストは随分愉快な性格のようだ」
「――む?」

 私が決意をしていると、ふと誰か知らないヒトに声をかけられた。
 私達は振り返り、声のした方を見ると、そこには――

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