追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

意思表明(:金糸雀)


View.カナリア


「クロ様はいらっしゃいますか!!」
「えっ、カ、カナリア!?」

 エルフである私は、一通り寄る所に寄った後、クロ・ハートフィールドの居る屋敷の執務室へとダッシュで駆け付けた。私の突然の登場に、一緒に仕事をイチャイチャしていたであろうヴァイオレット・ハートフィールドも驚いている。

「突然の呼びかけを失礼いたしました、クロ様」
「いや、呼びかけじゃ無くて勢いよく扉を開けられた事に驚いたんだが……なにかソルフェリノ義兄様達になにかあったのか?」

 私の丁寧な口調と、慌てつつも優雅に従者服を靡かせたのが“従者としての仕事中”と判断したのか、クロ・ハートフィールドが仕事イチャイチャをやめて私の方を落ち着いて真っ直ぐ見てきた。

「いえ、私個人としての急用がありまして」
「個人?」

 しかし生憎と今の私はプライベートだ。というより本来私は買い物の途中であり、勤務時間であるのだが……まぁ、そこは後で正直に話して臨時雇用の給与を減らして貰うとしよう。
 だが、今は給与の事より私の気持ちの問題だ。エルフであり、空を飛んで飛び降りた後、ロボに慌てて空中キャッチして貰ったりした今の私に怖いモノなど無い。その時の副作用なのか、なんだか内心と言っている事がごっちゃになっていた気がするけれど……気にしてはならないだろう。

「カナリア?」

 ともかく私は自分の気持ちのために、まずはツカツカとクロ・ハートフィールドの方へと歩み寄り、彼が使う机の前に立った。そして私の様子に彼だけでなく様子を眺めているヴァイオレット・ハートフィールドも不思議そうな表情をする。

「クロ様」

 さて、ここに来る前にいくつかの恋愛関係者に気になる事を聞いて来た。
 シアン・シアーズとスノーホワイト・ナイトには、数年の片想いについてと恋心を自覚した瞬間について。
 オーキッド・■■■■■■とウツブシ・■■に関しては恋と愛着について。
 エメラルド・キャットとスカーレット・ランドルフには厚意Like好意Loveについて。
 マゼンタ・モリアーティには日常に侵食する存在について。
 ヴァイスには失恋について。
 シュバルツには己自身に向ける愛について聞いた。
 他にも色々と聞きたかったのだけど、これ以上聞くと時間もかかるし私の答えも決心もあやふやになる。
 私は心が弱い。だから今の私が得た答えが鈍る前の整理として、クロ・ハートフィールドにこれを伝えるとしよう。

「クロ様、私ちょっとシロガネ君と遊んできますので、今日の仕事はオサラバして良いですか」
「おう、良いぞ。別に望むなら今日だけでなく明日も良いが。今日はもう夕方になるしな」
「いいえ、必要無いと思います。ちょっと彼に私がエルフだって教えて来るだけなんで」
「それ教えてなにかあるのか?」
「エルフですよ?」
「“シキだからな?”みたいな常套句やめい。それじゃ意味が分からん。分からんが……」
「が、なんでしょう」
「……ま、カナリアがそう言うのなら、大丈夫だろう。行ってこいう」
「了解です、クロ様! エルフであるカナリア・ハートフィールドの雄姿を見ていてください!」
「頑張ってこーい」

 私の言葉に彼は特別な説明を求める事無く、ただ“カナリア・ハートフィールドとはそういう存在だ”というように、「良いぞ」とあっさり私の要求を認めた。ヴァイオレット・ハートフィールドは「え、何故そんなにあっさりと……?」と言うような表情であるが、彼は私の様子と言葉を見てこれ以上は聞く事は無い、と理解したようだ。さっすがクロ・ハートフィールド、長年一緒に過ごしただけはある。
 あ、そういえば部屋を出る前にこれも伝えておこう。

「クロ様、私は貴方が大好きですよ」
「ああ、俺もカナリアさんは大好きであるが」
「そうですか、ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ」

 よし、彼への想いも伝えた事だし、早速シロガネ君の元へと行くとしよう。
 別に想いを伝える訳でも無いし、振るつもりもないけど……まぁ、そこはなるようになれ、だ。エルフである私を舐めるなよ、シロガネ君!



「……なんだったんだ、今のは。というかクロ殿は分かっているようであったが……」
「ええ、恐らく、ですがね」
「恐らくなんだな」
「シアンみたいに相手の気持ちを理解出来る訳でも無いですから」
「それで、先程のカナリアはなんだったのだろうか」
「自分の今までにない経験に戸惑いを受け、受け入れる事で事態の収束化を図ろうとしていた所、持ち前の前向きさで“それは違うのだ!”と思い直したのでしょう。そして色々な相手に話を聞きに行き、そして見つけた答えを“クロ様に話す”という事を、カナリアなりの行動の言語化という後には引かない行動とした、という所でしょうね」
「思いのほか分かっているな。では、先程の大好きという発言は……」
「先程の今までにない経験というのが、シロガネさんの好意にカナリアが気づいた事なのでしょう。そして近しい感情を家族に近い俺に言う事で、改めて自分の気持ちを理解し直した、という所でしょうね」
「……クロ殿はカナリアに対してはシアン並の鋭さを発揮するんだな」
「付き合い長いですから」
「そうか。では――」
「いずれはこれから長年連れ添うヴァイオレットさんとも、似たような相互理解が出来ますよ」
「……既にその一歩は踏み出せているようだな」
「ふふ、ですね」

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