追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

どうしても欲しかった(:紺)


View.シアン


「(ねぇねぇシアン。あの白くて綺麗な子、私の紹介をされてから考え込んでいるけど、どうしたの?)」
「(要約すると、後輩が見た目通りの年齢だと思っていたら自分より年上の娘を紹介してきた)」
「(了解、フォローした方がよさそう)」

 スイ君は、年上かもしれないけれどそこまで自分(13歳)とそう変わらないだろうと思っていた可愛い後輩シスターが、自分より十は年上の女性を娘だと紹介してきた事に頭に手を当てて考え込んでいた。
 スイ君はマーちゃんに“子供が居た”というのは知っている。けど、“若くして産んで、赤ん坊の内に亡くなった”と思っていたはずだ。
 私達が住む王国、マーちゃんが居た共和国ではあまり勧められた事ではないが、学園に通わないような国民は未成年15歳の内に子供を産んだり、所帯を持つのはそう珍しい事でも無い。ハッキリ言うなら私の19歳という年齢はシスターでなければ「もうそろそろ相手を見つけないと……」と心配され始めてもおかしくない年齢だし、レットちゃんの年齢だと男女問わず結婚適齢期はやや過ぎた扱いだ。なのでスイ君の思っていた“今14,5歳くらいで過去に子供が居たのは珍しい事でも無い”という勘違いもあっても不思議ではない。それになによりもマーちゃんの外見はスイ君と同い年齢と言われても不思議じゃないしね。
 けれど実際はマーちゃんにはレットちゃんのような子が居る訳であり、そうなると実年齢は必然と相応になる訳で……うん、フォローはした方が良い訳だけど、ある程度までは見守るとしよう。

「ま、愛娘? ……あ、養女でしょうか」
「ううん、お腹を痛めて産んだ実の娘だよ!」
「……えっと。確かお子さんは亡くなったのでは……」
「……うん、共和国で産んだあの子はね」
「あ、ごめんなさい。そういう事だったんですね。……大人っぽい娘さんですね、七歳くらいでしょうか」
「レット、実は七歳だったりする?」
「健やかに育って今年で二十三歳だよお母様」
「二十三歳……背がスラッと高くて美しいですねレットさん。僕は低いので羨ましいです」
「え、うん。ありがとう」
「うん。……うん。…………ぅん」

 スイ君はどうやらレットちゃんがブラ君と同じような若くて成長した子であるとか、色々な可能性を考慮しているようだが、どれもマーちゃん達に否定されるか、無理があると脳内で否定しているようである。

「ええと、ごめんなさいシスター・マゼンタ。今までの非礼をお許しください」

 そして事実を飲み込んだ後、まずスイ君は謝った。恐らく今までの接し方に、年上に対する敬意が無かった事を謝りたいのだろう。

「非礼? ……まさか今まで断っていた誘いを受け入れる気になったの!?」
「違いますよ!?」

 そしてマーちゃんは非礼の意味を「今まで据え膳を喰わないとは何事か!」みたいな意味で受け取ったようである。敬意とかどうでもよさそうだ。

「(ねぇエメラルド、シアン。あの誘いってなんの事?)」
「(ええと、それは……)」
「(ヴァイス……あの男がお前の父になる可能性があるという事だ)」
「(うん? …………実の母の未成年淫行!!)」

 そしてこちらは実の母が未成年に手を出そうとしている事に様々な感情が混じったレットちゃん。私には実の母は居ないので分からないが、やはり自分の母のそういう事は想像したくない、とかそんな感じだろうか。……いや、純粋に犯罪を危惧しているだけかもしれないが。

「(言っておくがお前も私に対する未成年淫行未遂者だからな? 流石は親子という所か)」
「(ぐふっ!?)」

 だがしかし、自分も似たような事をしているという事実を突きつけられ、ダメージを受けていた。……まぁレットちゃんは手を出していないから違うのだろうが、似たような事をしているという事実を受け止めきれなかったようである。レットちゃんは今はともかく、お母さんの事嫌いだったみたいだし複雑なのだろうなー。

「その事じゃ無いですよ、僕が今まで同年代を相手するような接し方をしたり、お兄さんぶろうとしたり――うぅ、恥ずかしい……!」
「あははは、その事なら気にしなくて良いよ。むしろそう接されるように敢えて黙っていたからね!」
「え、なんで!? こうして恥ずかしがる僕を楽しむため!?」
「それもあるね」
「あるの!?」

 あるんかい。

「まぁ、それもあるけど、対等に接してくれる……シスター・マゼンタとして接してくれるヴァイス先輩が好きだったからね」
「え?」
「私に真っ直ぐぶつかってくれたヴァイス先輩には悪いけど、どうしてもそれが嬉しくて、楽しくて……私に欲しかった時間だったんだ。……どうしても、ね」
「シスター・マゼンタ……」

 それは黙っていた事を悪いと思っていると同時に、マーちゃんが“欲しい”と願った事であった。今まで無かった感情から芽生えた願いを、どうしても欲したのだろう。……それはマーちゃんの我が儘だった、という事だ。

「という訳で、お詫びに一緒に温泉入る?」
「はい?」
「今から親子&娘候補と一緒に入るから、ヴァイス先輩も来る? 色々サービスするよ!」
「行きませんよ! というか、仮にマゼンタちゃんが良くても二人が嫌でしょうが!」
「私は別にどうでも良い」
「エメラルドと入れるのならそれでも良い」
「くっ、誰にも僕が男扱いされていない……!」
「私は男の子扱いしているよ! 男の子を男にする勢いでね!」
「――やっぱり駄目、母親のそんな所見逃せるかこの淫乱母が!」
「あははは、母親扱いありがとう!」
「くそ、本当に面倒くさい!」

 ……まぁ、とりあえず。私はまで口を出さず、収束までもうちょっと見てようかな。

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