追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
○○○ティックな世界?(:紺)
View.シアン
「さぁて、目を逸らしつつ空き屋敷空き屋敷ー。こんにちはー、新婚生活のための下見に来ましたー」
「目を逸らすって自分で言うんだね、シアンお姉ちゃん。というか結婚したら教会を離れるの?」
「場合によってはね。神父様は上の方に疎まれてるからね」
「ああ、なるほどね。良かった、離れる訳じゃないんだね」
「そういう事。私も神父様もシキが好きだからねー」
私達は屋敷の前に来てからそんな会話をする。
当然クリア教の教会関係者で居ながら、今のようにシキの教会に住み夫婦であるのが一番理想ではある。しかし、神父様はなにかと上に目をつけられているし、いつ嫌がらせされるか分からない。今は静かではあるけど、結婚した途端に神父様だけ別の所に追いやる、なんて事をして来る可能性だってある。そしてその場合は神父とシスターをやめ、二人で別の仕事をして過ごしていく予定だ。その場合はこういった屋敷――は流石に大きいけど、家を買って過ごしていくだろうから、下見をしていくのも悪くないだろう。
「ふふふ、つまりこの屋敷を見る事が私達の幸せな家庭を築く一歩となる訳だよ……!」
「ああ、なるほど。愛の巣だね」
「……そうとも言うかな?」
「シアンお姉ちゃん、シキで教会関係者を続けるにしても家を見ておいた方が良いと思うよ。なにせいざという時、僕達がいたんじゃ――あ、教会の地下室があるか。なら大丈夫だね」
「待って、なにを納得したのスイ君」
「では屋敷に異常が無いか調べましょうか、シスター・シアン?」
「ねぇ、なにを納得したの!? ねぇ、スイ君ったら!」
教会の地下室と言うと、お風呂場から続くあの場所だ。今は片付いたけど大分アレな場所であり、アレな光景を払拭するにはまだ時間がかかる。
けれど何故かスイ君の納得した内容に関しては、そのアレな光景と関わる気がしてならない。無駄に機微に聡い私の勘がそう告げているような――い、いや、きっと気のせいだ。スイ君みたいな初心な子がそんな事言うはず無い! ……多分。
「……あれ、扉空いてますよ?」
「へ?」
私がスイ君を問い詰めるべきか、問い詰めたところでダメージを受けるのは私の方だと思っていると、屋敷の扉に手をかけたスイ君が不思議そうにつぶやいた。
「シスター・シアン、扉は常に開放されているので?」
「いや、閉まってるはず」
不法滞在防止に、大工集団のヒト達かクロの領主邸にある鍵が必要なはずだ。そのはずなのだが、スイ君は屋敷の扉を開けてしまっている。
鍵のかけ忘れだろうか。大工集団が解体のために中に居るのだろうか。あるいは……
「スイ君、念のため【空間保持】、【音消し】をかけるから、そのつもりでお願い」
「分かりました。いつでもシュネーの力を使えるようにもします」
「お願い」
私は万が一も考え、気配を消して屋敷の中を捜索する事にした。杞憂で済むに越した事は無い。だが、万が一で不穏な状況であった場合、被害は私達だけで済まない可能性だってある。それにマーちゃんが「娘の気配!」と言っていたから“そっちの方面”の可能性もある。だから警戒心を強くし、不安の種を取り除くとしよう。
「“じゃ、慎重に行くよ”」
「“了解しました”」
周囲には聞き取れない魔法での会話をしつつ、私達は屋敷の中を慎重に進んでいく。
本当だったらスイ君には待機してもらい、私が戻らなかった時に応援に呼んで貰った方が良いのかもしれないが……今は個別で対応するよりスイ君の力を借りた方が良いだろう。二人力を合わせれば、どちらかが逃げ出す状況は最低でも作れるはずだ。
――さて、悪魔が出るか蛇が出るか。
出来れば悪魔の方が生きた悪意を持つ人間よりはマシだな、なんて思いつつ、一階を見て回った後二階に上っていく。
――誰かいる。
するとふと、ある部屋から物音がした
数は三、四……うん、四つほど。なにやらとある部屋で話し合いをしているようだ。そして少なくともクロ達の声や、大工集団の気の良い兄ちゃん達の声ではない。上手く聞き取れないが……多分、シキではあまり聞かない声だ。
「“あの部屋、中、覗くよ”」
「“分かりました”」
スイ君にそう言いつつ、私達は声が聞こえる部屋の前へと近づいていく。
会話の内容が聞こえれば良いのだが、無理はしない。気付かれてもすぐに逃げられるように、逃走経路の確保を最低限とした接近である。
――部屋の扉が開いている……?
そして近付くと同時に、彼らが居る部屋の扉が僅かに開いている事に気付いた。これなら見えにくくとも中の様子を伺えるというものだ。近付けば声も聞こえるだろう。スイ君も気付いたのか、私を見て黙って頷き二人で見れるような場所へと移動する。
深追いは決してせずに、安全を確保した状態で、相手の目的を知る。
それらを考慮しつつ、中に居るのが何者かを判断し、有害か無害化かを判断して――
――あ、これは……
……さて、話は変わるが私には一つ、先輩として果たすべき義務がある。
いや、正確には未成年の子を見守る年上として、その子の姉のように見守る存在としてなさねばならない義務というものがあるのである。
それは年齢に不釣り合いな大人の世界……率直に言うのなら、刺激の強い性の世界を見せない事だ。
純粋に育って欲しい、とは言わない。それはただの大人の我が儘だ。
性に関する事は不浄な物と避けるのではなく、間違った知識を与えないように教える事が大切なのである。だから性を変に避けさせすぎたりはせずに、見守り、時には見てみぬふりをする事も重要だ。
だがそれと同時に見せないようにする努力も必要だ。あまりに早い性の大人な世界は、子供に刺激が強すぎる事もあるのだから。
そして何故急にこのような事を説明し出したかというと――ようは未成年のスイ君には、中を見せない方が良いと思う内容の光景が、部屋の中で起こっていたからである。
「“スイ君、中を見ちゃダメ”」
「“え、なんで――うぷっ!?”」
「“良いから、見ないで。君にはまだ早い”」
「“――、っ、――!!”」
なので私は言葉で説明するよりも先に、見せないようにスイ君の顔を覆う事にした。
……どうしようかな、これ。
    備考 見せないようにスイ君の顔を覆う事にした。
    手ではなく、どちらかというと腕で覆った。そして腕で覆ったという事は……?
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