追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

深々と心に(:紺)


View.シアン


 さて、相変わらずの夫婦は置いておくとして、私達は勤めを果たすとしよう。
 困っているヒトがいないをかを見回りつつ、ついでに魔物除けが機能しているかを見に行く。イオちゃんが来た頃のようにモンスターが畑を荒らしても困るし(アレの一部はシューちゃんの策略だったようだが)、キチンと見回って安全を確認しないとね。

「そういえば、シキって孤児の子とか居ないですよね」

 見回りながら平和にシキを歩いていると、スイ君がとある空き屋敷を見ながら話題を切り出して来た。家を見て家族を連想し、そこから子供などを連想した、という所だろうか。
 先程「別の教会だと孤児院がある」とは述べたが、シキの教会が孤児院として成り立っていない訳では無い。国に申請も出しているので、すぐにでも孤児院を始める事自体は出来る。

「確かにね。私がシキに来てからも、孤児はほとんど居ないよ。居てもすぐ引き取られるし」
「そうなんですね?」

 しかしシキの教会が孤児院として機能した事は、私がシキに来てからはほとんど無い。
 理由はいくつかあり、まずは私と神父様しか居なかったので、単純に管理者不足という事。そしてもう一つが……

「あと、シキを知っている周囲の教会から、“シキに子供を預けられるか!”と言われてるからね。孤児が一時的に居ても、シキに居なくなると言うか」
「……引き取られる、ってそういう意味ですか」
「うん、誰かの別の家族の子になる、って事じゃなく、そういう事」

 もちろんシキの領民は優しく責任感が強い方々が多いので子供として引き取ってくれる、という方々も居るのだが、大抵の理由はそれである。
 領主会議に行っているクロの話だと、教会関係者が「良心がシキに子供を預けて良いのかと訴えている」や、「子供の将来を守る私達は、責任を持たねばならない」などという事を言っており、結果的に「シキに行かせるくらいなら私達が孤児たちを守るぞ!」と、孤児院の環境改善に繋がっているとかなんとか。お陰でその領主会議に参加する領地の孤児院関係は王国でもトップクラスに評価が良いとか。
 ……色々言いたい事はあるが、孤児達が劣悪な環境で育たない手助けになっているのなら良い事だ。納得はいかないけど。

「ですが、孤児……」
「どうしたのスイ君?」
「いえ、私も孤児だったんですが、もし自分が面倒を見る立場になったら見られるかな、と思いまして」
「スイ君なら大丈夫だとは思うけど」

 気配りも出来るし、優しくそして厳しくもある。駄目な事は駄目だと言える強さも持っているし、良いお世話係になると思う。

「シスター・シアンとかみたいになれれば良いんですが」
「私?」
「はい。シスター・シアンは幼い子供に好かれやすいですし、なにより見ていて子供が好き、って分かるような振舞いですから」

 確かに子供が好きかどうかと言われれば好きである。文字・勉強を教える事も好きであるし、一緒に遊んだりするのも好きだ。偶にイタズラをしたり、我が儘を言う子もいるけれど、それらも含めて一緒に過ごすのは楽しい。失敗する事もあるけれど、諭したり促したりして成長を感じさせるような行動を見ると、かなり嬉しくなる。

「けど、見習うなら神父様の方が良いんじゃないかな?」
「確かに神父様も子供好きで、子供にも好かれてますからね」

 そして神父様も子供は好きだ。
 自分や他者の機微には疎く、それは子供相手でもそうなのだが、それを含めても神父様は私には無い子供に対する愛がある。機微に疎いのでどうしたら良いかと慌て、悩むのだが、それでも真っ直ぐ向き合う姿は正に“神父様”である。本当に格好良い。好き。大好き。

「私、神父様子供と遊ぶ姿を見るの好きなんだよね」
「確かに、見ているとなんだか“父”って感じがしますよね」
「そうそう、いやぁ、神父様は絶対良いお父さんになるよ!」
「確かにそうですね。シスター・シア――」
「うん、絶対良いお父さんになる! こう、たくさんの我が子に囲まれて、揶揄われ、困りながらも幸せそうに接する姿が想像できるから!」
「シスター・シアン?」

 神父様は我が子相手に強く出られず、泣いたりすると困った顔で右往左往するけど、持ち前の真っ直ぐさで子供のための行動をし、神父様自身も子育てというのを学びながら子供の成長を促していくだろう。
 そしてたくさんの我が子に囲まれつつ、慈愛に満ちた目でお父さんの顔をする神父様……うん、想像は出来るけど、絶対実際に見たい!

「神父様って子供に囲まれている姿が似合うんだよねー、ふふ。絶対可愛い……!」
「シアンお姉ちゃーん?」

 不器用だけど真面目だからいつも必死で、必死だけど子供達と過ごす事がなによりも楽しそうで……ああ、そんな神父様を見てみたい。子供に囲まれて、お父さんをしている神父様を見てみたい!
 そしてそんな神父様を見るためにはまず、妻である私が――私、が……子供をたくさん……?

「………………」
「あれ、シアンお姉ちゃんが急に黙っちゃった」

 うん、そうだね。神父様が我が子に囲まれるという事は、そうだね。
 私が妻なんだからつまり神父様の子は私の子なんだから、そういう事もする必要が、ね。うん。
 私だって夢見る事は何度もあったし、もう少し経てばある結婚式をあげれば正式に夫婦になる訳だし、別におかしい事ではないんだけど、うん。
 ……うん。

「……ふ、私はさっき見た何処かの領主夫婦のようにはならないんだよ……!」
「どういう意味なの、シアンお姉ちゃん?」
「それは、まぁ……」

 結婚してからキスまで五ヶ月近く掛かったりとかそういうのだけど、この場合はもっと先の……

「よし、スイ君、あの空き屋敷を見に行こうか。勝手に誰かが住んでいたりしたら困るからね!」

 駄目だ、想像してはいけない。そ、そういうのは正式に結婚をしてから考えるべきだもんね、うん!

「あの空き屋敷を見るのは分かったけど……シアンお姉ちゃん。一つ言っても良いかな」
「なに?」
「いつまでも目を逸らし続ける事は出来ないモノだよ」
「……はい」

 何故だか分からないけど、スイ君の言葉は実体験を伴うような重みがあり、私の心に深く突き刺さったのであった。

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