追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

暇なの?


「ではルオさんを借りるぞ、義弟よ!」
「そして借りられた私はご夫婦の余暇をラブラブになるよう補助して来ます!」
「なんなんですかこれはああぁぁぁぁ――…………!」

 という、シキに行くと性格が変わって奔放になるという噂がまた流れ始めるのではないかという不安を煽る言葉を残し、義兄さん達とオールさんは屋敷を後にした。
 正直不安以外のなにも無いのだが、シロガネさんの、

「ええと、監視して来ます。いざとなれば私の従者生命をかけてでも無理にでも止めますので……」

 という覚悟とも諦めとも取れる発言を信じ、俺達は見送る事にした。シロガネさんが帰って来た時に従者として無事戻って来る事を願うとしよう。

「しかし、今日はソルフェリノ御義兄様が夫婦で余暇を楽しめる日で良かったですね」
「そうだな。今まで話し合いをするか、別の事をしたり雨で外に出られなかったりだったからな」

 彼らのシキ滞在はもう少しで終わるのだが、夫婦でただ外に行くというのは今日が初めてだ。
 ムラサキ義姉さんが初めて来た日にデートをしたと言えばしたのだが、あれは半分近くは今後の事や夫婦の溝を埋める話し合いに使われていた。そういった諸々の問題を終わらせ夫婦で余暇を楽しむために外に行く、というのは今日が初めてである。
 ……まぁその夫婦一緒に行くのに、若干不安になるお供がいたりしたけど、気にしないでおこう。

「やはり、先日の料理を作った時から一気に距離感が縮まりましたよね」
「そうだな。あの時のムラサキお義姉ちゃんとシロガネ以外の従者達の表情は、仕掛ける者としては楽しかったよ。アンバーも驚いていたからな」
「それは……はい。以前のソルフェリノ様はそういった事をされる御方では無かったので。それと私はサプライズ成功して得意気なソルフェリノ様の表情が印象的でした」
「ああ、確かに。兄様の漏れ出てしまった本音の表情とはこういうものか、と思ったものだ」

 先日ソルフェリノ義兄さんがサプライズでやった、一品料理の振る舞いとデザートとデコレーション作業。あれは驚きと同時にムラサキ義姉さんだけでなく、他の従者との距離感をつめる事にも成功していた。それは忖度などではなく、なんというか……いわゆる心からの交流を図る事が出来た、とでも言えば良いのだろうか。ともかくあの日の夜はパーティーのように楽しく食事が出来たモノである。

「だが本音を見せ上手くいった結果が今日の余暇に繋がったのならば、妹として嬉しい限りだよ」
「ええ、そうですね。では俺達はソルフェリノ御義兄様達が余暇を楽しめるように頑張るとしますか」

 ちなみにだが今日はソルフェリノ義兄さん達は従者も含め全員休暇状態である(シロガネさんだけは違うが)。ソルフェリノ義兄さんだけが働く、というソルフェリノ義兄さん自身の案もあったのだが、ムラサキ義姉さん達に「それをするなら私達が全員で徹夜で一緒に働きます」という脅し(?)により、休暇時間になっているのである。ソルフェリノ義兄さんには色々気を使われたが、「そもそもシキに居るこの状態で働かれても困る」という言葉により気にせず先程の調子になったのである。という訳で、俺達は彼らが心配しないように、いつもの調子で働くとしよう。

「それとすまないなアンバー。負担ばかりかけてしまって」
「いえ、御令室様達のお傍で働けるのが私共の幸福です。負担などと思いもしませんよ」
「そう言って貰えると助かる。兄様達がシキを出たら、休暇を与えよう」
「ありがとうございます。では休暇のために頑張るとしましょう。しかし、御令室様方も休暇が無い様子ですので、私達だけ休暇を頂く訳にはいきません」
「私は充分に休みつつ働いているからな。気にしなくて良い」
「そういう訳にはいきません、私は――おや?」
「どうしたアンバー――む」

 ヴァイオレットさんとアンバーさんの会話を聞きながら、多分アンバーさんは休暇といってもそこまで休もうとしないから、休暇を少なくとも数日とらせる方法を考えつつ、ヴァイオレットさんにもまとまった休みを取らせる方法を考えていると、誰かが近付いて来る気配を感じた。この音がならないように気を配る小さい足音は……バーントさんか。

「御主人様、御令室様。ご歓談中失礼致します」
「構わない。してなにかあったのか、バーント」
「はい。その、今の御二人にお伝えするのは御迷惑と承知してはいるのですが……」
「? どうした、早く言ってくれ」
「……はい」

 現れたバーントさんは何処か言い辛そうに、俺達の様子を確認しながら言い淀む。
 ……なんだろう、嫌な予感がするぞ。

「その……ルシ様と、レット様が来られています……」
『…………』

 ルシ様とレット様。
 はは、何処かの第一王子と第二王女が似たような偽名を名乗っていた気がするな、はは。まさかまた来たという訳では無いだろうな。王族なんだし、そう簡単に……

「……王族って暇なんですかね」
「……そんなはずはないと思うのだがな」

 ……ともかく、俺達が余暇を楽しむのはもう少し後になりそうである。

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