追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

いぇいいぇーい!


「ムラサキ、言っておくが私のこれは噂のシキの影響ではない。単に素を出した時にシキに居たというだけだ」
「なにを訳の分からない事を堂々と言っているんです」
「お前への好きを表面化したのが今日この日だから、記念日にしようと言っているだけだが?」
「内容変わっていますよね!?」

 ムラサキ義姉さんは言葉を濁したのに、堂々とシキの影響とか言いだしたソルフェリノ義兄さん。そして同時にイチャイチャに繋げようとしている辺り、なんかヴァイオレットさんの兄なんだと思う。対してムラサキ義姉さんは顔を赤くして慌てているが……俺達も傍から見たらこんな感じだったりするのだろうか。

「ソルフェリノ御義兄様、その噂ってなんの事です?」

 というか噂のシキの影響ってなんだ。大体想像は出来るのだが、一応確認はしておくとしよう。そして場合によってはソルフェリノ義兄さんに噂を消す用お願いするうとしよう。

「先程王族のシキへの未確認情報があると言っただろう?」
「はい」
「そちらと別の話で、ここ一年の殿下達の様子が変わられたという話が多い。成長もあるが、政務を今まで以上にこなし、憑き物が落ちた様にヒト当たりが良くなった、ともな。それらがシキの影響であるという話だ」

 確かにルーシュ殿下とスカーレット殿下はシキに好きな人がいて個人的なやり取りもしている。
 バーガンティー殿下はシキで好きな相手を見つけたし、フューシャ殿下は引きこもり気味であったがシキで友達を作って外に出るようになった。
 ヴァーミリオン殿下もわざわざ“元婚約者が治める領地に自ら赴いて、問題を解消した”という行動をした。
 これらを総合し、ソルフェリノ義兄さんにように情報を集めればシキでなにか影響を受けた、という判断をしてもおかしくはない。ならばこの噂は放置しても良いだろう。“性格が良くなるパワースポット!”とか言われて来られても困るが、別に悪い噂という事でもあるまい……って事も無いか。殿下達を変えた“なにか”があるのなら、弱味なにかを握ろうと来る可能性があるし、放置も良くないかもしれない。

「安心しろ、義弟」
「はい?」
「殿下達を変えたなにかを知ろうとシキに来るかもしれない、と思っているのかもしれないが、その心配は無い」

 ……この人、ムラサキ義姉さんに対してはヴァイオレットさんの兄という感じがするが、この辺りは兄というより、“なにかが見えているソルフェリノという男”という感じである。
 まぁ、それより、心配がないとはどういう事だろう。実は他に情報が行かない様に手をうってある、とかだろうか。

「殿下達が変わったという噂もあるが、シキの噂は主に“あそこに行くと変態に毒されるか、毒耐性が付く”という噂が主だ。肝試しの要領で行くべきかと噂になっているぞ」
「まったく嬉しくない情報をありがとうございます。ですが、安心ですね」

 複雑ではあるが、そっちの方の噂が大きいのなら心配はいらないな。なにせお陰で殿下達の影響がその毒の源のようなアイツらの影響なんて思わないし、思った所で弱味として使おうとか思わないだろう。というか、思う位だったらそいつも既に毒されていると思う。

「ヴァイオレット義妹ちゃん。安心なのですか、あの噂は。毒された対象が全員毒ならば、弱味を握られてもその時は同じ毒仲間だから弱みにならない、的な感じではありませんか?」
「どちらかというと、毒を突きつけられても、毒を毒として認識しないから意味がない、という感じかと」
「……まるで蠱毒を生き延びたかのようですね」

 蠱毒か。否定は出来ないが、シキの大半は一応受け入れるだけで変態ドクではない領民が大半だったりするんですよ。……それもある意味では蠱毒の一種なのかもしれないが。

「とはいえ、噂は噂だ。シキが必ずしも影響があるという訳では無い。例えばバーントとアンバーという従者が今は義弟達の下で働いているが、見た限りでは変わらずに過ごせている」

 いえ、その二人はシキに来る前から変態性を隠していただけなので、影響がないように見えるというだけだと思います。

「結局は当人の気持ち次第という訳だ。シキにはなにかがあるのかもしれないが、無いかもしれない」
「どっちなのですか」
「さて、な。それこそ自分の中で決める事であろうよ。少なくとも私はシキに来て良い方向に変われたよ」
「影響はなかったのではありませんか?」
「素を出した事に影響はなくとも、素に影響を受けたというだけだ」
「……あまり変わり無いのでは?」
「そうだな。あまり変わりないが、違いはあるという事だ」
「そうかもしれませんね。……良い影響を受けた――いえ、良い影響に成ったのならば喜ばしいです」

 ……ええと、義兄達の会話はよく分からないが、悪く言っている訳では無さそうなので良しとしよう。多分どちらに転ぶか分からなったものが、良い方向に行って良かった、とかそんな感じだろう。

――待てよ、そうなると……

 ソルフェリノ義兄さんはヴァイオレットさんの変化を偶然見かけて、自身の停滞した心に気付く事が出来たと言っていた。
 それとは別に、ムラサキ義姉さんが「ソルフェリノ様は王都から帰られてから少し様子が変わり、なにかを考えるようになった」と言っていたのを温泉で話しているのを聞いた。
 この二つは別に矛盾はしない。多分マゼンタさんの一件があった時の王都でヴァイオレットさんを見かけて、それで自身の感情について考えるようになり、ムラサキ義姉さんとの一件があった。と考えるのが普通だろうが……

――なんか、少し違う気がする。

 どちらも嘘ではないとは思う。ソルフェリノ義兄さんの見かけて気付いたというのも、ムラサキ義姉さんがなにかが変わった、と思うようになったのも。だからこそムラサキ義姉さんは“成った”と表現したのだと思う。
 けれど間になにか、もう一つクッションがある気がする。……具体的な根拠は無いのだが、ソルフェリノ義兄さんの影響にはなにかが明らかになっていないと、そう思うのである。

――ちょっと聞いてみるか。

 具体性は無いが、軽めに聞いておくとしよう。もし違ったら違っただし、今の雰囲気なら聞けるだろう――

「ひゃっほーい! 今日は野生のキノコが大量だったねシロガネ君!」
「ふふふふふ、カナリアさんの教えが素晴らしかったからですよ!」
「ふ、エルフだからね。キノコに対する教えは良いモノになるんだよ!」
「なるほど、さっすがカナリアさんですね! 私はキノコの声を聴くなんてまだまだかかりそうです……!」
「シロガネ君は筋が良いから、いずれ分かるようになるよ。そして目指せ、キノコマスター!」
「はい、精進してまいります!」
「では一緒に叫ぼう。せーのっ!」
『キノコいぇいいぇーい!!』

 聞いてみようと思った矢先に、なんか楽しそうな土だらけのカナリアと、シキの影響(?)を受けたような、同じく土だらけのシロガネさんが現れた。二人共野生のキノコを大量に持っている。
 ……とりあえず、うん。シロガネさんが楽しそうで良かった。カナリアも楽しそうで良かった。というかお前達、シキの案内で周っていたんじゃ無かったんかい。

「……ソルフェリノ様。どう思います?」
「シロガネが一皮むけた様に、弾ける事が出来て良かった。友としてあのような表情を引き出せなかったの悔しいが……ふ、アレが恋というやつなのだろうな」
「あ、そういう判断なのですね」

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