追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

開放的な三人衆!(:紫)


View.ムラサキ


 国が違えば文化も変わる。

 例えば私が着ている故郷の服。
 クロ義弟ちゃんは何故か直す事が出来たが、この国の服とは布も構造も違う。そして露出がとても少ない。これは女子オナゴが妄りに肌を見せるものでは無い、という風潮によるものが大きい。この国でもそういった風潮はあるのだが、私の故郷だとより厳しい、とでも言うべきだろうか。特に私達のような貴族は庶民の方々と比べるとより厳しくなる。

――なので、すかぁとなるモノを見た時は何事かと思いましたね……

 この国では貴族、民関わらず、学園に通うと着る事になる【すかぁと】。人によっては学園以外でも着る御方もおり、とても短くされている御方もおられます。
 私も留学で学園に通い、身に着けていた時期はあったのですが……私としては何故あのようなひらひらした服を平然と他の女子オナゴが着られるのかが疑問でなりません。しかも人によっては激しく動かれます。足や下着を露出させようがお構いなし……という訳でも無く、異性に見られると恥ずかしがったりします。本当に解せません。
 解せぬは良いとして、ともかく文化の違いは、その国に馴染むのならば受け入れるべきだとは思う。なにせ文化とは歴史の積み重ねによるもの。それを否定する事は国を否定する事となる。
 ならばこの国の貴族となった私は、国の文化に馴染むべきである。だから私もこの国に相応しき服を着る事もあるし、女子オナゴが胸の谷間を覗かせようと、足を覗かせようとも否定したり慌てたりするほど頭は固くはない。今では国の中での相手の個性として受け入れる事が出来ている。

「イエーイ、トウメイさん! これが私の新たなる浄化魔法、【水浸しウォーター最大浄化魔法サンクチュアリ】だよ!」
「おお、水魔法を混ぜる意味は全くないが、水が綺麗で浄化を更に神々しい物に!」
「あははは、そしてここに私が火魔法とかを混ぜる事によって!」
「なっ、虹を作りだした――だと! すごいぞシアン君、マゼンタ君! 光と相まってまさに神々しい!」
「トウメイさんが神々しいと言うとなにか違わないかと思うけど、ありがとうございます!」

 ……だけれども、この光景はちょっとどうしたのかと問いたくなる。
 ここは他の教会と比べても立派な教会前の広場なのだが……妙な三人組が居た。
 一人は紺色髪の修道女さん。修道服の下半身部分に切れ目を大胆に入れて太腿が大いに露出している。教会関係者は下着着用を禁止しているので少し動けば見えそうである。
 一人は桃色髪の修道女さん。同じく切れ目を入れて、大胆に動かれている。しかも敢えて水に濡れて身体に服を張り付かせ、幼くも何処か艶めかしい雰囲気を漂わせている。
 あともう一人。布を羽織った全裸の女性。こっちは動くとか以前に普通に見える。
 なんだここは。花街か。それとも辺境のおおらかさではこんな感じの光景が当たり前なのか。

「いきなり遭遇した……」
「してしまったな、クロ殿……」

 後ろの二人もなんだか「あぁ、出会ってしまったか」というような反応を示している。反応からしてあの格好は普段からの格好のようである。
 ……シキは色々あった方々が来る場所と聞いているので、彼女らは、その……そういった事をしてシキに来た方々なのかもしれない。ならば部外者である私は触れない方が良いかもしれない。

――ソルフェリノ様はともかく、あの子はシキに来させなくて正解でしたね。

 クロ義弟ちゃんには悪いが、あのようなせくしぃな女性は男性にとっては目に毒であり、我が子にとっては教育に悪い。シキに来させないで本当に良かった。
 あのような格好の女性には周囲も相応の目で見られているだろうし、子供達も教育に悪いとあまり近付な――

「わー、水飛沫が綺麗だねシアンお姉ちゃん!」
「にじ、キラキラして、すごいねマゼンタおねえちゃん!」
「トウメイおねえちゃーん。おそらへはこんではこんでー!」
「おー良いよ子供達! お姉ちゃん達の綺麗な魔法を見よ!」
「あははは、もっとサービスしちゃうけど、あまり近付き過ぎないようにね!」
「はーい、私と一緒に浮きたい子は順番に二人ずつだぞー。喧嘩をしたら、やめちゃうからなー。良いな、子供達!」
『はーい!』

 とても、懐かれてる……!?
 子供達はあの謎の痴――開放的な女子オナゴ陣と無邪気に遊んでいるし、とても慕われている……!
 ……いや、あのような性差を知らぬ幼き子供だからこそ、懐いているのだろう。大人が見れば、相応の反応を――

「あらあら、遊んで貰って良いですねぇ」
「ええ、シスターさん達とあの格好がちょっとワンパクな女性と遊んでいて良い事ですねぇ」
「あの子達は本当に子供好きで助かるよ。安心して子供を任せられる良い子達だからねぇ」

 認められている、ですと……!?
 あの女子オナゴ陣の格好を気にする事無く、女子オナゴ陣も含め元気な子達を見るようにシキの領民の方々は微笑ましく見守っている……!
 一体どういう事なんだろうか。もしや幼い時からあのような格好の女性に慣れさせることで、大人になってからも耐性を得られるようにする教育方針、というやつなのだろうか。恐るべきかなシキの教育方針……!

「ムラサキ義姉様。アレは特殊な反応ですし、変に見る方が相手に失礼と開き直った結果に近いです」
「あ、そうですか。ありがとうございますヴァイオレット様」
「いえ、勘違いを正しただけなので」

 どうやらこっそりと近づいて耳打ちされて戻ったヴァイオレット様からして、私の疑問は疑問として正しかったようである。良かった。

――とはいえ、あまりソルフェリノ様には見て欲しくないですね……じっくり見はしないでしょうが。

 疑問は疑問で良かったが、出来れば妻として夫に、目の前で別の女性に目移りして欲しくはない。
 ソルフェリノ様ならば如何に美しき女性の裸身であろうとも興味を引く事は無く、あの切れ目から覗く太腿や、辛うじて隠れているような格好の女性を興奮して見るような事は無いだろうが、やはりチラリと見たとしても思う所がある。まぁソルフェリノ様に限ってじっくり見るなんて事は無いだろうが――

「…………ふむ」

 じっくりと見られている――!?
 ソルフェリノ様があの透明感溢れる美しき裸身の女性をじっくりと見られている! しかもなにやら納得されているかのように、観察しながら目に焼き付けようとされている!
 馬鹿な。学園でも女性に全く靡かず。ハニートラップらしきものを受けても一切引っかかる余地もなく、「あれ、この御方もしや私を偽装婚として利用しようとしている……?」と思う程に女性への性耐性がお強いソルフェリノ様が興味を持たれている!
 く、やはり如何に耐性があろうとも、あのように露出をさせれば興味を持つという事か。私も真似をすれば興味を持たれて――いや、私が彼女らの真似をしても上手くいくとは思えない。第一に恥ずかしいし、それに――

――良いなぁ、綺麗な輪郭。

 ……それに、彼女らは羨むほどの健康的で美しい身体だ。私のようにこのみっともない胸で不均衡な身体では無い。私には無理な試みというやつなのだろう。

「……ソルフェリノ様は、あのような開放的な女子オナゴがお好きなのですか?」
「ああ、すまない。あの浮いている女性に関して気になる事があってな」

 そういえばあの女性はなんで浮いているんだろう。子供達を肩に乗せて浮いているし、どういう魔法を使用しているのだろうか。……あの浮いている魔法、局地的に発動とか出来ないだろうか。出来れば私も習って、このみっともない胸にかけてみたい。

「透明感のある、美しき女性ですものね、彼女は」
「む? ああ、そういう事ではない。何処かで見た事があると思ってな」
「何処かで見た事があるですか。私としてはあの桃色の髪の女性の方が何処かで見た事があると思うのですが……」
「あの御方に関しては私は知ってはいるが……」

 おや、ソルフェリノ様が“あの御方”などと評するなど珍しい。という事は彼女はやはり何処かの身分の高い女性なのだろうか。
 そういえば先程彼女の名を呼ばれていたが、その名と同じ名前をこの国で聞いた事があるような――

「だが、今語るべきではないし、あまり彼女らを見るのも失礼だな。では、行くぞムラサキ」
「はい」

 む、どうやらここを離れる様だ。
 確かにここだと話す事も話せないし、離れるべきだろう。彼女が誰かは心の片隅に置いておくとして、私はソルフェリノ様の後ろを歩こうと――

「それと後ろを歩くな。横を歩け」
「はい? いえ、そのような訳には――」
「歩かぬというのなら、手を繋ぎ横を歩かせるぞ」
「――――――!?」

 え、手、手を、つな、引っ張、なに、え、私、手を握られて、え――

「ソ、ソルフェリノ様、何故――」
「何故と言われても、折角のデートだ。ならばデートらしい事をしていこうではないか。では行くぞ」
「――ぁ、ぃ、ソル、え――!?」

 急な行動に思考が追い付かず、言葉も上手く発せられない。
 今までとは違う種類の強引な行動に対し、私の頬は熱くなるのを感じていた。

――ソルフェリノ様の手、大きくて温かい。

 上手く回らない思考と言葉の中、私はそんな事を考えるのでやっとであった。
 ……ソルフェリノ様が、よく分からない。

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