追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

幕間的なモノ:兄弟とは


幕間的なモノ:兄弟とは


 私が貴族としての初仕事を終え、シキから戻ると、早速お見合いがどうだったかをクリームヒルトちゃんとメアリー様に尋ねられた。お見合いを実際にしたスカイ様以外に聞くのは悪いと思ったのか、「可能な範囲で良いので教えて欲しい」と、何処か遠慮しつつも気になってしようがないといったご様子であった。

「お見合いは上手くいったのですね。良かったです」
「あはは、良かったね!」
「はい、良かったです!」

 しかしスカイ様には「生徒会の皆さんには遠慮せずに言って良いですよ」と、許可は得ていたので素直に話すと、お二人共とても嬉しそうに喜ばれた。クリームヒルトちゃんにはハイタッチを求められたので、「イェイ!」と互いに言いながらタッチもしておいた。

「しかしスマルト君ですか。どんな子か会ってみたいですね。整っているとアッシュ君からは聞いてますが……やはりアッシュ君に似てるのでしょうか」
「アッシュ君自身としては複雑らしいけど、よく似ているとは言われるらしいよ」
「複雑、ですか?」
「本人としては“そこまで似ているかな?”って感想なのに、似ているって言われるから複雑みたい」
「そういうものなんですね?」

 確かに似ているかどうかと言われれば似ていたけれど、そこまで似ていただろうか――え、アッシュ様の昔を知っている御方に良く言われる? ……なるほど、スマルト様も成長するとアッシュ様のようになるという事か。
 しかしお二人はスマルト様をあまり知らないようだが、あのかさす? やらでは出て来なかったのだろうか。

「妹と弟がいる……という事は明らかになってたよね。あれ、ちょっと出たんだっけ?」
「エンディングで絵無しでちょっと出てましたよ。特徴はよく分かりませんが」
「……あ、思い出した。確かイチャイチャしたいのに弟達のせいで出来ない! みたいな感じだよね」
「良いシチュですよね。こっそりと手を握るスチルとか大好きです」
「あはは、そうだよね。けどそのシチュをさせるために弟達を生やした疑惑あるよね」
「……言いたい事は分かりますが」

 よく分からないが、お二人でも詳細は知らない、という事だけは分かった。
 ……というよりも弟や妹というのは生まれるのではなく生やすモノなのだろうか。いわゆる日本NIHON語だとそう表現する、とかそういうのだろうか。
 あ、そうだ。弟や妹と言えば。

「そういえばお二人にお聞きしたいのですが」
「どうしました?」
「来年には私めに弟か妹が出来るくらい父上達がラブラブしているのですが――」
「ちょっと待ってグレイ君。魂の兄のそういう事聞くのに心の準備が居るから、ちょっと待って」

 よく分からないが待つとしよう。……普段はなにかとラブラブぶりを揶揄われているクリームヒルトちゃんであるが、改めて聞くとなると複雑なのだろうか?

「よし、大丈夫。続けて?」
「はい。私めにも弟か妹が出来そう……生えそうなのですが」
「その言い方は止めた方が良いですよ。それがどうされたのです?」
「はい、兄になる、というのはどういう感覚なのかと思いまして」

 先日私めに弟か妹が出来るだろうという報告を聞いたのは良かったのだが、その事を馬車の中で思い返していると、ふと兄というのはどういうモノなのかと思った。というよりは弟や妹を持つというのはどんな感覚なのだろう。貧民街スラムに居た頃は年下の浮浪児仲間は居たのだが……そういうのとは違うだろう。そう考えると気になって仕様が無かったのである。

「うーん、私は前世も今世も弟は居ますが、前世は一度も会って無いですし、今世でも仲が悪くて姉らしい事はしてませんから……実体験としてのアドバイスは出来そうにないですね……」
「実体験以外だとあるのですか?」
「はい、私にはよく色んな弟が画面や紙の向こうに居ましたからね!」

 何故だろう。自信満々のようだが、メアリー様にこの事を聞くのは間違っているような気がする。

「兄……私だと姉かぁ。私も一応姉ではあるんだけど……」
「え、そうなのですか? ……まさか前世のお母様が……?」
「あはは、違うよ。今世。この前実家の村に帰った時があったんだけど、お母さんのお腹が大きくなってたからねー。多分そろそろ生まれてるだろうから、血の繋がった弟か妹はいるだろうね!」

 何故だろう。この事に関してはクリームヒルトちゃんにあまり触れない方が良い気がする。

「うーん、残念ですが私達にはアドバイスは難しいですね。やはり実際のお兄さんかお姉さんキャラに聞くと良いですね」
「エクル兄さんに聞いてみる? 前世では弟居たらしいし、今世でも私という妹が生えて来たし」
「やはり弟や妹は生えるのですね……!」
「違いますから。他だとヴァーミリオン君やアッシュ君、ティー殿下に……フォーン会長さんって弟や妹居ましたっけ?」
「どうだろう? 実際に聞いてみないと分からな――」
「ああ、私には妹が居るよ。私の姉も含めて三姉妹だね」

 おお、それは丁度良い。早速フォーン会長様に話を聞いて――聞いて……?

「!? 生徒会長、いつからおられたのですか!?」

 フォーン会長様の突然の登場に、私達は驚愕のリアクションをとる。気配を一切感じなかったが……今偶然通りかかったのだろうか。

「え、最初から居たし、最初からお見合いの話も聞いてたけど……?」
『……っ、全然気づきませんでした……!』
「そっか……」

 突如フォーン生徒会長様が現れたかと思ったが、ずっとおられて聞いていたようだ。気付かないとは、私もまだまだである。

「コホン。ともかく、弟や妹が出来ても、最初は実感なんて良く分からなかったかな」
「そうなのですか?」
「うん、段々と“こうした方が良いー”とか思う感じだよ。自然と気付くと言うか……なんとなくでなる感じだね」
「ほう、そうなのですね」
「兄という自覚を持つのも大事だけど、ああいうのは……経験しないと分からないものだよ。抱きしめたり温かさを感じたりして、ね。後は……普通に近寄ったのに突然目の前に現れた事に驚かれて泣かれたりしたからあやしたり、とか……」
「なるほど」

 最後は特殊な気もするが、やはり実体験に勝るものは無く、感覚は直に感じないと真に理解するのは難しい、という事のようである。ううむ、難しそうである。だけれど父上達に子供が出来るのは喜ばしいし、難しくとも頑張らなくては!

「あはは、しかし元とはいえ同級生に子供、か。おめでたいけど不思議な感覚だね」
「“元同級生は人妻”というだけでもそちら系の漫画っぽいですからね」
「つまりヴァイオレットちゃんがエッチィ感じに……ただでさえ健康的になって来たのに、ラブラブ度が増してエッチィさと色気を身に着けたらどうなるんだろうね!」
「“辺境で旦那様に溺愛されて、私は大人の色香を身に着けます”。……TLでありそうですね」
「あ、メアリーちゃんも見るんだそういうの」
「多少は、ですがね」
「あの、フォーン会長様。御二人の会話がよく分からないのですが……つまり母上は父上に愛されて大人な女性になるのが喜ばしい、という事でしょうか」
「私も良く分からないけど、多分違うんじゃないかな……?」

 むぅ、難しい。クリームヒルトちゃんとメアリー様の会話は良く明からない事が多いが……それでも理解を諦めたら駄目だ。キチンと話をして理解を深めていかないと。差し当たっては【てぃーえる】なるものを理解しよう。どうやら父上と母上の関係性を言っているようだし、今度帰ったら「父上と母上はてぃーえるという関係性なのですね!」と言えば良いという事だろうか。

「彼女らの言葉の意味は分からないけど、ともかく、兄とか弟とか、なにかあったら遠慮なく聞いてくれて良いよ」
「はい、ありがとうございます、フォーン会長様。しかし……よろしいので?」
「答えられるかは分からないが、兄になるという未知の事に対して不安を覚えて、そのままにしておくのは良くない、という話さ。話して少しでも不安を和らげさせる事が出来るのなら、それに越した事は無いよ」
「……はい! ありがとうございます!」
「はは、どういたしまして。これでも一応まだ生徒会長だからね。生徒の悩みを聞くくらいは出来るつもりだよ」

 フォーン会長様はそう言うと私の頭を撫でて来た。目を合わせるのを避けてはいるが、何処かそのご様子は……生徒会長というより、姉と言うような感覚を覚えた。不思議ではあるが、説明の難しい“姉さ”を感じたのである。……こんな風な雰囲気を出す事が私にも出来るようになるのだろうか。ちょっと不安ではあるが、頑張っていくとしよう。

「ま、いざとなればお父さんにも聞くと良いさ。確かカラスバ先輩とクリ君の兄なんだよね?」
「そうですね。では前世と今世の二度にわたる魂の兄である父上に、今度帰郷した際にでも聞いてみます」
「はは、そうすると良い。そしてヴァイオレット君は……兄が二人だっけ」
「そうですね」
「うーん、彼女が姉という事ではないにしても、そっちに聞くのは難しいか」
「そうなのですか? 確かに母上はあまり実家の御方と仲は良くないようですが……」
「まぁ彼らはなんと言うか、とても――」

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