追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

お見合い後の戦闘_8


「おや、戻ったかクロさん。理由は聞いたぞ、クロさんも――どうした、先程より悠久へ片足を踏み入れているように見えるが」
「そうだな、ちょっと精神的に疲れてしまったんだ。具体的に言うとメアリーさん症候群の男に愛を披露された」
「いつもの事であるな」
「いつもの事だな」
「いつもの事ですね」
「そういう事だ。なのでヘイ、俺を癒してくれ愛する妻と息子と息子嫁」
「扱い的に我は娘なのであるから、せめてそう呼んでくれ」
「クロ殿は疲れているんだ。見逃してやってくれ息子嫁」
「ヴァイオレットさんまでか!」
「父上、母上。あまりアプリコット様を困らせないでください」
「グレイ……!」
「すまない、グレイ。確かにあまり言い過ぎると反発をしたく――」
「将来的に私めが正式に告白して確定した時に改めて言って下さい!」
「グレイ!?」
「そうか、分かったぞグレイ。すまなかったなアプリコット!」
「そうだな、あまり言い過ぎも良くなかったなアプリコット!」
「ここに来てそう言われると我の名が嫌味に聞こえてくるのだが!」
「はは、本当にすまない、アプリコット。冗談が過ぎたな」
「確かに言い過ぎた。すまなかった」
「はぁ。……別に構わぬ。が、もう少し頻度を落としてくれ」
「頻度を落とすだけで良いんだな」
「構わぬさ。その度に我はクロさん達に弟か妹を要求する」
『!?』
「?」
「で、どうなのだ。我達が居なくなった途端に夫婦仲が良くなり、我達が二年になる頃には報告を聞けると聞いたが、どうなのだ?」
「だ、誰だ。誰に聞いた!」
「シアンか!? なにか達観したような目で見られた時があったが、シアンから聞いたのか!?」
「…………カマをかけただけであったが、本当にそうであったのだな。夫婦仲は変わらず睦まじいようでなによりである」
『……っ!』
「夫婦揃って顔を赤くして黙り込むでない。相変わらず妙な所で初々しさが抜けぬな、お二人は」
「ええと、アプリコット様。つまりはどういう事でしょう?」
「我達は来年には叔父と叔母になるという事だ」
「なんと、それはめでたいお話です!」
「そうだな、めでたい事である。な、クロさん、ヴァイオレットさん!」
「そうだな。俺達の初孫よりは早いだろうからな」
「私達の初孫はいつ見られるんだろうな、クロ殿」
「……流石に初孫より遅いのはどうかと思うぞ、ご両人」
「はい。私めは学園生である前にまだ成人前。責任のとれぬ内からのご期待はご遠慮くださいませ。そのような男にはなり果てたく御座いません」
「グレイ、それはなにか違わぬか」
「? なにがでしょうか、アプリコット様。私めはおかしな事でも?」
「いや……うむ、そうだな、立派な心掛けだ」
「? はい、そのように言って頂き、嬉しいです! 責任を取れるようになってから頑張りましょう!」
「……意味分からず使っておるのであろうな……ともかく、恥ずかしいからと言ってその返しはどうかと思うぞ、新婚夫婦よ」
「……うん、ごめん」
「……すまない、大人げなかった」
「で、揶揄いは出来るだけせぬようにな。別にするなとは言わぬが、自分達も返されると思ってくれ」
「……そうだな。お見合いで良いカップルが出来そうになったからつい舞い上がってしまったようだ」
「うむ、反省だな、クロ殿」
「分かってくれたならば――」
「つまり、揶揄われる覚悟を持ち!」
「夫婦仲を見せつけるくらいなら揶揄ってもダメージは無いという事だな!」
「確かにそうかもしれぬが、その結論で良いのか!?」
「ふふ、俺達は愛し合っているからな。今更乾揶揄われた所でどういう事はみゃい」
「うむ、私達は自他共に認める愛し合う夫婦。今更言われても恥ずかしくはみゃい」
「夫婦そろって同じように噛むでない。動揺を隠せておらぬぞ」
『ふ、フフフフフ』
「夫婦そろって不敵に笑って誤魔化そうとするでない」
「?? なにが起きておられるのでしょう……?」
「あー……気にするでないぞグレイ。ちょっとした見栄の張り合いの舌戦が起こっただけである」
「そうなのですね? あ、そろそろ模擬戦が終わるようですよ。私め達も朝食を食べに行きましょうか!」
「そういえばまだだったな」
「軽くは食べたが、色々あって小腹は空いたな」
「うむ、そして食べ終わったら若きドン・キホーテ達を見送り、その後円卓のアラウンド守護者フォックス一族を見送るのだったな」
「そういう事だ。もうひと踏ん張り頑張ってもらうぞ」
「分かっておる。最後までが我達の最初の貴族ノーブルの仕事ファンタズムであるからな」
「はい、最後まで頑張りましょうね!」
「そうだな。頑張ろうな」
「……しかし、今更ながら我達は何故その仕事の終わりに模擬戦を見ているのであろうな」
「お見合いとはそういうモノなのでしょうね」
「グレイ、その認識は良くないぞ。お見合いの最後はもっとこう――」




「…………」
「おや、どうかしましたか、スマルト君。クロ達の方を見て」
「……なんと言いますか、クロ様達って貴族らしくないのですよね」
「そうですね。ですが締める時は締めますし、上に立つには“らしい”かと思いますよ」
「そうなんですが、それとは違って……あんな風になりたいな、と思いまして」
「あんな風、とは」
「家族仲良く笑えるような風に、です」

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