追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

お見合い後の戦闘_7


「何処から気付かれていたのでしょう」
「俺はシアンと始める前でしたね。スマルト卿は分かりませんが」

 突如現れた教会組。シアン達は突如現れてもおかしくない性格をしているが、流石に違和感があった。そもそも先程まで花火の片づけを一緒にして、別れた後であったというのに、わざわざ俺の屋敷に全員が現れたのだ。妙と言う他ないだろう。
 そこでふと巧妙には隠してはあったが視線を感じ、その視線の元を見るとアッシュがこちらを見ていたのだ。それで教会組が屋敷に来ていたのはアッシュが呼んだからと分かったのである。

「昨日の内にここで二人が模擬戦するというのを聞いた、という所でしょうか」
「ええ、そうですね。今朝頼みに行きました」
「ですがなんのためにでしょうか」
「それは貴方がスマルトにやろうとした事と同じですよ。彼らの動きを見て意識改革を出来ればな、とね。スマルトは私や妹とは違う強さの持ち主ですから」

 まぁ俺がちょっと打ち合っただけで分かるのだから、長年見てきた兄であるアッシュも気付くのもおかしくはないか。
 ……だが、隠れて見ていたり、こっそりと教会組を呼んで回りくどい事をしている辺り、弟に対して素直になれていなかったりするのだろうか。普段は厳しく接している分、優しくする接し方を分からずにいる……とかだろうか。結局スマルト君に隠れているのを見破られて「宜しくお願いしますねー」とか言われている辺り、スマルト君も分かってはいそうだが。

「しかし、教会組を全員呼ばずとも良かったのでは? そうすれば俺やスマルト卿も気付かなかったでしょうに」

 神父様だけであればある意味戦い方も似ているだろうし、違和感も無かったと思うのだが。

「……神父様だけ呼んだはずなのですが、気付けば“面白そうだね!”とマゼンタ様が……」
「ああ、なるほど……」

 アッシュもそこは流石に理解していたのか。けどマゼンタさんに気付かれたのが運の尽きだったというか……アッシュが様子を見ていなければ気付かれなかったかもしれないが、結果的に弟にバレてしまったようである。
 ……まぁマゼンタさんはそこも分かって敢えて行ったかもしれないが。“気付かせる事でこれから兄弟が遠慮なく話し合えるように!”とか思っていそうだ。

「そしてあの御方、シキでシスターやっているのは知っていましたが、なんでスリット入れているんです?」
「それは俺も知りませんよ。お陰でシキのシスターはスリットを義務付けているように思われそうだったりするので、正直俺も困っているんです」
「……貴方も大変ですね」
「……アッシュ卿も大変なようではあるそうですが」
「……ええ、そうですね。大変ですが、頑張ってます」

 なんでも最近学園にシキ領民の影響を受けた面々がいるらしく、その対応をアッシュがしていたら、“奇妙な行動をする生徒→アッシュに任せよう!”という図式が出来上がりつつあるようだ。そのせいでアッシュは精神的に疲れる事が多いとアプリコットから聞いた。……なんというか、俺が悪いという事ではないのだが、申し訳ないとしか言いようがない。

「大変ですが、メアリーの笑顔さえあれば頑張れるんです……!」
「メアリーさん、笑顔向けてくれるんです?」
「“一人で抱え込まないでくださいね?”と背中をさすられつつ見せてくれますよ」
「同情されてませんか、それ」

 笑顔は笑顔でも困った様な笑顔だろうな、それ。

「頑張ってくださいよ、アッシュ卿。俺はメアリーさんが誰と結ばれるかに関して、特定の誰かだけを応援はしませんが、応援自体はします。……同情を利用して結ばれる位のやり方で、メアリーさんと恋仲になると良いですね」
「そのようなやり方で結ばれるのは望ましくないと言いますか……」
「ですがこのままだと弟君に言われっぱなしのままになりますよ」
「うぐ」

 弟の方は先程も愛を素直に言えて、相手を照れさせる事が出来るのに、このままだと先を越される……というか、既に先を越されている気もする。
 一昨日スマルト君に言われたように、一年近く誰も恋仲になれぬまま天然であしらわれているだけだからなぁ。グレイから聞いた話だと、シャトルーズが今まで以上にメアリーさんと急接近しているそうだが、アッシュはそういった様子はないとも聞いている。……本当、誰と結ばれるんだろうな、メアリーさん。というかメアリーさんは誰か特定の相手を好きになったとして、恋仲になったりするのだろうか。
 あ、そういえば。

「そういえば最近メアリーさんの様子がおかしいとアプリコットから聞きましたが、どうなんですか?」

 なんでも最近生徒会でも誰かと一緒になる事を避けているように振舞い、何者からか逃げているように見えたとか。
 メアリーさんも学園やシキで馴染み、慕われる位には人タラシではあるが、彼女がそのように逃げるように振舞うとはちょっと想像が出来ない。なにかあったのだろうか。

「私も詳細は不明なのですが……シキに来る前に“ふふ、悪女、悪女……ミステリアスで相手を手玉に取る小悪魔的悪女……アハーン、とか言うべきなんでしょうか……”と、よく分からない事を言っていました」

 なにがあったんだろうか、メアリーさん。

「それとは別に、メアリーの魅力が一層上がったと思うんです」
「そうなんですか?」
「ええ! メアリーの笑顔がいつもより眩しく、性格も今までより明るくなっているんです! さらにはこれ以上の綺麗さは無いと思っていたメアリーがより綺麗になり、私の心はより奪われメアリーへの好きが深まったんです。私が完成された魅力だと思っていたのはまだ未完成であり――いえ、この言い方は違いますね。未完成だからこそ、惹き寄せられるあの美しさが、」
「うるせぇ」

 その想いは俺にではなくメアリーさんに伝えろや。伝えられても困るだろうが。

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