追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

お見合い後の戦闘_6


「つかれたー……」
「お疲れ様だ、クロ殿」

 普段は出来る限り人前では疲れたとは言わないように意識している俺ではあるが、流石に今は肉体的に大いに疲れたので言葉にしていた。
 その様子を見てヴァイオレットさん心配そうにしつつ、労いの言葉をかけてくれた。この言葉だけで充分な疲労回復効果は見られるが、今はもうちょっと欲しい所である。ハグとかキスとか。そうすれば今回のこの疲れに相応しい対価と言えるのだが。
 しかしそれほどまでに疲れたのには理由がある。強敵であった教会組と結局四連戦した、というのもある。朝食は片付けの前に軽く取っただけだからお腹が空いているというのもある。
 だが俺は身体は強めの方なので、それだけならばここまで疲れない。ならば何故ここまで疲れているのか。その理由は……

「父上、シニストラ家の方々などとの決闘、お疲れ様です。タオルをどうぞ」
「クロさん、お疲れ様。飲み物は飲めるだろうか。大分十連戦近く戦ったそうであるからな」
「ありがとな、グレイ、アプリコット。両方とも頂くよ」

 そう、俺は教会組のスノーホワイトに勝った後もさらなる連戦をしたのだ。
 元々他の皆が目覚め始める時間になりつつあった、というのもあるのだが、ヴァイス君&シュネー君戦の時の力任せによる地面の音。スノーホワイト戦の多数の武器が砕け散る音などで屋敷に滞在中の両家の皆さまが「なんだなんだ?」と見に来たのだ。スノーホワイトと戦っている最中には歓声も上がっていたほどである。その中にグレイとアプリコットも居て、今は一緒に俺を労ってくれている。
 そしてその様子を見たシニストラ家の方々……ようはスカイさんの父と母なのだが、その二人が戦闘意欲が湧いたらしく「私とも戦ってくれ!」と言ってきたのだ。コン子爵の方は体調が悪いのではとも思ったのだが、どうやら戦いをする分には問題無いらしく、勝負をする事になったのである。

『ふ、夫の無念は妻である私が晴らすサダメ。クロ子爵、勝負です!』
『お母様までなにを仰っているのです!?』
『スカイ。女には戦わなければならない時があるの。愛する夫の代わりに戦えずしてなにがシニストラ家の女か!』
『お母様!?』
『というか私は死んでないんだけどね』

 そして続けざまに起こる、夫の無念(?)を晴らそうとするルリ子爵との戦い。流石はスカイさんの母親と言うべきか、油断すれば身体事吹っ飛ばされる掌底とか打って来た。

『ほほほ、この老骨に鞭打つ時が来ましたかな。――一勝負を挑ませてもらいますぞ、クロ様!』
『爺や!?』

 そして何故か起こる、オースティン家の爺やさんとの戦い。あの御方は過去になにか暗殺術でも学んでいたのだろうか。一対一なのに気配を一瞬見失って背後に立たれたし、暗殺拳っぽいモノをうたれたぞ。防いだけど。
 ともかくそんなこんなでとても疲れる戦いが続いた。なんで俺はお見合いの締めにこんな事をしているのだろうか。今ではなんか教会や両家を交えた模擬戦を見ながら両家の観客が盛り上がっている。……本当になんでお見合いの締めにこんな事やってんだ。

「グレイとアプリコットは参加しないのか?」
「私めは見ている方が楽しめますので」
「攻撃魔法無しでは我はあの者達には足元にも及ばぬよ。ヴァイオレットさんはどうであろうか?」
「私も流石にあの条件では、な。それになにかあった時に領主が二人共動けない、というのは良くないからな」
「そうであるな」
「ところで父上達は何故庭で模擬戦などをやられていたのです? ――はっ、まさか両家を倒す事でハートフィールド家の傘下にしようと……!?」
「戦って勝てば爵位が上がる訳じゃないからな、グレイ」

 途中から戦ったオースティン家とシニストラ家達との模擬戦は予想外であり、目的を以って行った訳では無い。……いや、でもある意味では目的は達成できているのだろうか。思い返せば爺やさんも元々の目的のために模擬戦に参戦したのかもしれないし。だとしても暗殺拳は止めて欲しかったが。

「ちょっと行って来る」
「どちらにいかれるのです?」
「目的が達成しているかの確認だ。目的自体は……すみませんが、ヴァイオレットさん」
「私が代わりに言っておくよ。いってらっしゃい、クロ殿」

 俺はその言葉に感謝の言葉を言いつつ、この模擬戦の目的であるスマルト君の元へと歩いて行く。
 観客の数が数なので見つけるのが大変かとも思ったが、少し輪から外れた所で一人で居たのですぐに見つける事が出来、俺は近付いていって話しかける。

「スマルト卿」
「……クロ様。お待ちしていました。お疲れならばもう少し後でもよろしかったのですが」
「はは、丈夫なのが取り柄なので平気ですよ」
「そうですか、良かったです。爺やのあの一撃が当たっていたら、護身符越しとはいえもう少しダウンしていると思っていたのですが……そのご様子だと後から響く隠れたゴースト一撃インパクトも喰らわなかったのですね、流石です」

 あの爺やさんは何者なんだ。

「どうでしたか、スマルト卿。模擬戦をご覧になって」
「答えを見つけたか、ですか」
「はい」

 そう簡単に答えが見つかるとも思えないし、伝えたい事が伝わるかも分からない。場合によっては逆効果の可能性もあると思うのだが、スマルト君はどう思ったのだろうか。

「僕はまだ若く、成長の途中です。ですのでまだなにが出来るか、なにに向いているのか、というのが分かるのは先の話でしょう」
「そうですね」
「……ですが、皆さんが自分の戦闘スタイルを確立させて、自身の強さを出すと言うのを見ました」
「はい」
「多くの強さ、種類の違う強さ、単純な数値では計れない強さ。……どれも極められた強さならば、己が道を行く強さならば、如何なる強さであれ格好良いと思います。しかし……」
「しかし、なんでしょう」
「やはり憧れるのはスカイさんやクロ様のような戦闘スタイルです。僕がこの戦闘スタイルに才能があるかは分かりませんが、あると思って行動しなければ開花する事は無いとも思うのです」
「はい」
「……ですが」
「ですが?」
「一つの事に捕らわれて、憧れだけで突き進むのも良くないとも分かりました。憧れは大事な原動力ですが、時には視野を狭くするもの。クロ様が仰られた多数の武器を扱う事も含め、僕は僕らしい強さを見つけていきたいと思います」
「そして見つけるために色んな行動をする、という事ですね」
「はいっ。それがスカイさんと横に並んで歩んでいくための、格好良い自分への道になるでしょうから!」

 俺の言葉にスマルト君は何処かスッキリした様子で返事をしてくれた。その表情は年相応の可愛らしい笑顔である。
 ……こう言ってはなんだが思ったよりも答えを見つけているし、本当にグレイの一つ下なのか、と思ってしまう。俺が前世のスマルト君の年齢の頃なんて、もっと考え無しに遊んだり喧嘩してたりしてたぞ。……流石アッシュの弟、という事だろうか。
 ああ、そういえばアッシュと言えば……

「そういえばクロ様。僕はこれからスカイさんの所に行って、今の想いを伝えるつもりなのですが」
「はい、教会の皆が屋敷に来た理由の持ち主については、私が先に言っておきます」
「申し訳ありませんが、宜しくお願いしますねー!」

 スマルト君はそう言って礼をすると、スカイさんの元へ小走りに向かって行った。
 ……というかあの様子だと、俺と話すためにあえて一人でここで佇んでいたな。その辺りもアッシュに似て計画性があると言うかなんと言うか。

「で、弟君はもう行かれたので出て来て大丈夫ですよ。弟の強さを引き出そうと裏で手をうったけど、その弟にバレていたアッシュお兄様?」
「……気付かれていたんですね」

 そして俺はスマルト君と血を感じる、こっそりと陰から弟を見守っていたアッシュに話しかけるのであった。

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