追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

お見合い後の戦闘_5


 ヴァイス君の戦い方は自己補助系等の魔法が多い。俺と同じように自己強化バフのようなもので、自分にかける魔法を得意としている。相手にかける補助魔法も苦手ではないと思うのだが、帝国ではあまり人と接して来なかったので加減が分からず相手にする補助魔法は不慣れであるそうだ。今は他の皆に教わりながら勉強中ではあるが。
 そして元々彼は誰かを傷付けるという事を好まない優しい性格の持ち主。攻撃魔法系もあくまで自己防衛を主として使うために、戦闘向きではない。ようはヴァイス君自身は戦闘に向いていないのだ。

「ワタシから行くぞ、クロさん!」
「重っ!?」

 だが、ヴァイス君の吸血鬼の側面であるシュネー君に関しては話が別となる。
 同じ身体なのだが、シュネー君に入れ替わると身体能力は何故か跳ね上がる。理屈としてはシュネー君に代わると吸血鬼の血になるそうなので身体が強くなるそうだが……まぁそういうものだと思っておこう。
 しかも最近知ったのだが、ヴァイス君とシュネー君の魔力は別として扱われているそうだ。つまりヴァイス君の魔力を使った自己補助魔法が、シュネー君にとっては魔力消費無しで補助がかかる感じなのである。ズルい。いや、ズルいというのも変ではあるが、そう言いたくなるのも無理はないと言いたい。
 そしてダブルで身体能力の上限を上げたシュネー君は大分強い。なにせ手を思い切り振ったら地面に爪痕が残る様に抉れるという、「なんか漫画で見た事ある!」というのをやってのけるのである。くそ、何処の真祖の吸血鬼だ。格好良いな俺もやりたいぞ!
 ともかくマトモにやり合えばまずその身体能力に圧倒されるだけではあるのだが――

「この程度の威力が効くかぁ!!」
「なにっ!?」

 俺は生憎と身体能力……特に筋力が強い相手は慣れている。その程度では負けはしない!

「まだまだ甘いなシュ――ヴァイス君! それでは折角の身体能力が泣くぞ!」
「流石はクロさん。だが、ワタシのラッシュにいつまで耐えられるかな!」
「ふ、教えてやろうヴァイス君。俺の妹はジャブで弟を吹っ飛ばす女だ」
「はい?」
「本気で壁を殴ればそこにある木とかへし折れる力の持ち主であり、俺は妹の力調整のために何度も手合わせをした。――つまりその程度では俺は負ける事は無い!」
「な、なんだって!?」
「だからいくらでもかかって来いヴァイス君! 戦闘経験の少ない君が俺に簡単に勝てるとは思わない事だ!」
「ふ――よくぞ言ったな。では行くぞ!」

 俺の今世の妹であるクリは、俺の知っている限りでは一番の力の持ち主。妹相手だと抱きしめられるだけでも下手したら骨がバキバキに折れるんだ。そんな妹を悲しませないように一緒に訓練し、力を受け流す技術が今世でさらに上がった俺に勝てると思うなよ!
 ……まぁ護身符があるとはいえ、普通に大きな力相手は怖いんだけどね!

「ヴァイスって戦闘になると性格変わるんだな……というか凄いですね、ヴァイス。あんな戦闘力を持っていたとは……」
「……ええ」
「? どうさかされましたか、スカイさん?」
「彼は細身ですよね」
「え? ええ、かなり細い部類かと」
「私より細いのに私以上の力を出す、というのが少々思う所がありまして……私の身体は割と筋張った女らしくない肉体なので、そこまでしても及ばないと思うと、つい思う所が……いえ、失礼な話ですね。忘れてください」
「…………?」
「? どうかされましたか、スマルト君?」
「いえ、スカイさんはこれ以上になく美しく女性らしい身体だと思いますので、何故そのような悩みをと……いえ、失礼。女性の悩みを否定するなど宜しくありませんね」
「ふふ、ありがとうございます。ですが服で隠れた所は筋肉量が多いんですよ。見られたら幻滅されると思います」
「ではスカイさんの服で隠れた場所を僕が見る事になるのは数年は先でしょうから、それまでに幻滅されるかも、と気にされないくらいに僕は貴女を愛しますので、そのつもりでお願いします」
「え。……は、はい。…………はい?」

 そして俺が連戦をしている間にあっちはイチャついてるな。いや、イチャつきというよりスマルト君が強いと言うかなんと言うか。あの感じを彼の兄が出せればメアリーさんともっと仲良くなるだろうに。……いや、メアリーさんはのらりくらりとかわしそうだな。

「しかし、うん……なるほど。純粋な身体能力は確実にヴァイスが上でも、完全に上なのはクロ様……うん……なるほど……」








 神父様……スノーホワイトの戦闘スタイルは武器の種類で押し通るスタイルだ。
 押し通る、というのは文字通りで、スノーホワイトの得意魔法【創造魔法クリエーション】によってあらゆる武器を作り出し、作り出した武器で多種類の攻め方をする。正直やりにくいし、護身符があっても怖いったらありゃしない。
 なにせスノーホワイトのやつは武器の扱いを“平均程度に使える”に留めてある。武器を扱う者はその武器を主武器として扱う以上は“型”が出来るのだが……スノーホワイトにはそれがほぼない。
 当然スノーホワイト自身に癖はあるのだが、武器を創造しては一撃で壊す勢いで振って壊して新たな武器を手にして攻撃して壊して新たな武器を――なんて、やられるので通常の“武器に対する対応”はまず意味を成さない。だからやりにくくて、怖い。
 けれど――

「――、――――。――ハッ!」
「――――。――、――ハッ!」
「相変わらずやるなぁスノーホワイト!」
「そちらこそ連戦とは思えないなクロ!」

 けれど、とても楽しい。
 武器を多く作り攻められるとはいえ、壊れる前提で創造するのだがら俺が殴れば武器も壊れる。だがそれをスノーホワイトも理解している。
 攻めに利用する武器は強度を上げて創造し打ち合いに利用し。
 壊れる前提の武器を大量に作り、持たずに俺の拳と身体の間に出現させる事で盾の代わりとする。
 上に放り投げて落下衝撃のみを与えて行動を制限させたり。
 創造した武器を地面に突き立て、誘導した後破壊した際に起こる魔力の衝撃を爆弾のように扱う。
 まさに多種多様。スノーホワイトと戦うと他とは違う戦いを出来るので、本当に楽しい。
 ……ただ、この武器創造は本来スノーホワイトの力じゃないらしいが……まぁ、そこは良いか。楽しいには変わりないし、スノーホワイトと戦っていると、前世で何度も想像した戦いの相手をしているようで嬉しく思うのだ。

「行くぞスノーホワイト。武器の貯蔵は充分か!」
「急にどうした」

 ごめん、なんか言いたかったんだ。俺が憧れた前世の主人公の戦い方と似ているから、なんか言いたくなったんだ。

「ヴァイオレットさん」
「どうした、ヴァイス?」
「今ほどの“武器の貯蔵は充分か!”とはどういう意味ですか?」
「それは恐らく……クロ殿がかつて憧れたという物語の主人公の言葉だな。今のクロ殿を形成する上で大きな部分となった、大事にして根幹ともいえる。かつて魔法を使えるようになったクロ殿は彼のマネをよくしたようだ」
「そうなんですね……!」

 ごめん、ヴァイオレットさん。冷静に解説しないで、恥ずかしい。

「…………多数の武器、か」





備考 唐突な筋力順位(現在居る模擬戦組)
1.シュネー
2.クロ
3.スカイ
4.マゼンタ
5.スノーホワイト
6.シアン
7.ヴァイオレット
8.スマルト
9.ヴァイス

 ※ただしダメージを与える力トップはクロとマゼンタのツートップな模様

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