追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
綺麗な観察_2(:透明)
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「トウメイさんの痴女行動はもう良いとして、出るのは構いませんよ」
「誰が痴女だ。しかし、良いのか?」
「ええ、シアンからも貴女は信用できる相手だとお墨付きを受けましたし。明日には自由にして良いと言うつもりでしたからね」
クロ君はそう言って私の外出を許可してくれた。
どうやらあのシアン君はクロ君にとってとても信用出来る相手のようであり、彼女が良いと言うのならその判断に疑いはない、と言った様子であった。
確かにあの子は良い子だったし、色々な気の使い方も出来る子であった。なにより信仰に対して真っ直ぐであったし、私との話も真摯かつ丁寧であった。アレなら信用出来るのも頷ける。……ただあのスリットについてはどうなんだろう。もう一人のあの子も同じようにスリットを入れていたし。アレが現代における信徒の在り方なんだろうか。まぁもっと露出過多な私が言えた事ではないが。
「あ、ただ出来ればオースティン家やシニストラ家の方々に見られるのは避けてください」
「分かってるよ。無用なトラブルは避けて欲しい、という事だろう?」
「お気遣いありがとうございます。それ以外のシキの方々には……見られても大丈夫でしょう」
「え、大丈夫なの?」
私が言うのも変な話ではあるが、それで良いのだろうか。
例え私の全裸(with.マント)が体質上仕様がない事であるとはいえ、私が姿を現せば混乱を招く事くらいは理解している。
なにせ美しき私だ。男女問わず劣情を抱く事請け合いだろう。
「ここ数ヵ月奔放な女性が多いと言うのもありますが、シアンやマゼンタさん……二人のシスターの慣れているような輩ですし、最初は戸惑ってもすぐに慣れるでしょう」
「ようは早いタイミングで見せれば、その分受け入れられる日も早くなる、という事かな」
「そういう事です」
「……劣情を抱いたりしない?」
「抱く輩も居るとは思います。ですが大抵は“あらあらわんぱくねぇ”や“ハハ、健康的で元気だな!”って感じになるかと」
私が言うのも変な話ではあるが、それで良いのだろうか、シキ。
昔の私は英雄《せいじょ》として崇められる事があったから「そんな相手に邪まな感情を抱くなど失礼だ!」みたいな感じであったが、そういうのを無しに受け入れるという事だからな。……なんか複雑だな。見られたい訳では無いが、女性として魅力が無いと言われているようだ。
「まぁ男女の元気な頃って、服を着ていようがどんな格好だろうが、綺麗な異性というだけで劣情を抱くものだからね。例え服を着れても劣情を抱かれるのは皆変わりないか」
「いや、うん……否定はしませんが」
私の場合は異性に興味を持ち始める年頃に戦いに明け暮れていたのでよく分からないけど、そういうものだとは聞いている。
「だから私は堂々と外を闊歩し多くの者に劣情を抱かせてば良いんだな! なんて罪な女だ!」
「外出許可取り消しますよ」
「冗談だ。しかし、そういう意味では……」
「どうされました?」
「ううん、なんでもない。クロ君も慣れるの早いな、ってちょっと思っただけ。劣情……とまでは行かないが、既に私が姿を表しても動揺もしていないようだしね」
私が姿を消しても何故が姿を認識出来る目の前の男性、クロ・ハートフィールド。そんな彼は私の身体を見てもそこまでの動揺は見られなくなっている。
彼は同じく姿を認識出来る他の三人と同じで、魂の形が不思議である。特別と言うほどではないが、他とは違うという事はハッキリしている、と言うのだろうか。私が今まで見た事無いので詳細は語れない。
「いや、普通に動揺してますよ。私だって身体は健康的な若い男ですし興味は湧きます。ただ、愛する妻への不貞になるのでただそうしないようにしている、というだけですよ」
「ほう、それは良い事だ。だが、最初から割と私に興奮や照れとかはしてなかったよね、クロ君。もしかして元々女体を見慣れてる?」
「見慣れてる、というほどではありませんが、まぁデッサンで裸体も多く見ましたし、妹も居ましたし」
「え、身近にいる妹で女体耐性を作ったというのか! 兄である事良い事に色々としたというのか!」
「その言い方だと誤解を生むんでやめてください! そういう事じゃないんで!」
ただ会話をして分かるのは、彼は特別という訳ではなく、今を生きる普通の男性、という事である。とてもではないが特殊な存在とは言い難い。
この個性的な者が多いシキで領主をやり慕われている、という事自体は特別な事かもしれないが、あくまで彼がやっているのは自分に出来る事を出来る範囲で無理をせずに必死にやっているという事。誰でも出来て、誰もが出来る訳では無い特別で普通の事だ。
ある意味では私が戦いに身を投じてまで守りたかった人々の善性というのは、彼のような事を言うのかもしれない。私にとっての彼の感想はそんな所だ。
――ただ、心配なんだけどね。
……同時に気になる事は、彼が私を見る事が出来る他の三人と同じで外れた部分があるという事。並外れた身体能力、という事ではなく精神性の問題だ。
何処となくクリームヒルト君と似ているが、彼女ほど表面化はしていない。しかし他に優先する事、夢中になる事があるから誤魔化せてはいるが、間違いなく“抱えている”。抱えている物が表面化したら、今のような優しい表情とは違う別の表情を見せる事だろう。
その辺りを誤魔化しつつ、今日シアン君に聞いたのだが、
『あー……確かにシキに来た時にレイ君……彼の息子が居なければ、クロは荒んでいたでしょうね。なんだかんだでアイツは自分を大切にするために他者を大切にするお世話好きですから』
との事である。シアン君もなんとなく察しはついているようだ。
ただ今は大切な家族や友人が居るので、その抱えている物は表面化しないだろうとも言っていた。あるいは個性的な領民が居る間は大丈夫とも。
……大変そうではあるが、ここの領主は彼にとってある意味天職なのかもしれないな。
「まったく……ただでさえ最近目のやり場に困る女性が多くて困っているんです。俺の耐性も結構脆いんですし大変なんです。今日だって……」
「ああ、そういえば今日も裸の女性を救ったんだったか。彼女は美しき色気のある人妻だったからな。妹で培った耐性では駄目という事か」
「何故知っている。そしてそういう事じゃない」
「君はそういう星の元に生まれたんだろう。よっ、色男! 幸運エロに恵まれた魂の形をしているよ!」
「魂の形!? 変な形を俺に作らないでください!」
「ふふ、ごめんごめん」
「まったく……というか、魂の形って分かるモノなんです?」
「私が勝手に名付けているモノだけどな」
他の人には見えなくて、私にはなんとなく見えるモノをそう言っているだけだ。実際に魂かどうかは分からないし、知る気も無い。
「もしかしてですけど、俺の魂の形って、トウメイさんが姿を消していても見える他の三人と似ていたりします?」
「若干な。あ、でも他にクロ君と似ている子がいたなぁ」
「へぇ、どんな人ですか?」
「この国の王族で、大人しそうな女の子……あ、フューシャって子と共通した魂の形の部分があるな」
「……え」
私がそう言うと、クロ君は何故か動きが固まった。……なんでだろう。
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