追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

黒のとある仕事_12(:黄金)


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 夕食後、屋敷の外にて。私とクロ様は話し込んでいた。

「私も別に悪人になりたい訳じゃないんですよ。けれど禁止されているからこそやってみたいという興味が湧くんですよね」
「気持ちは分かりますが、禁止されている事には禁止されている理由がありますからね……例えばどんな悪い事ですか?」
「裸で外を闊歩するとか?」
「そう来ましたか。覗きとか傷害とかではないんですね」
「培った力を試してみたい、という意味での傷害や、油断した姿を見たいから覗きたい、という気持ちはありますが……正直そういったのは誰も傷付かない本の世界で充分です。実際にやろうとは思っても、実行出来てしまったらこう……申し訳ないという気持ちが先行すると言いますか」
「ああ、馬鹿をやる過程が楽しい、的な。妄想までに留めていく的な感じですね?」
「その通りです! 他者に迷惑をかけるのは出来ればちょっと」
「でも全裸闊歩は良いんですか? いえ、良くは無いですけど、周囲に少なからず影響を与える事は確かですよ」
「分かっていますよ。ですが興味があると言いますか、どう言えば良いんでしょう。誰かの居る所に行きたいけれど、誰かに影響を与えたくないと言いますか……」
「……もしかしてですけど、“見られたくないけど見られるかもしれない”というドキドキ。“普段皆が日常を過ごす中で私は脱いじゃってる!”みたいな感情を味わいたい……とか?」
「あ、そう、その通りですね! 何故分かるんですか!?」
「まぁ昔よく見たジャンルと言いますか、なんと言いますか……」

 クロ様はやはり同好の士であった。
 話してみると妄想の話題が合うと言いうか、私の中にあった興味を見事に言語ジャンル化してくれる。まるで今まで変態の国に居て、その本を読み漁ったかのように私の知らないはずのジャンルなのに何故か知っているかのように話してくれる。
 これは普段から似たような妄想をしているに違いない。あるいは私と違って身近に話す存在が居たのかもしれない。いや、もしくは――

「もしやクロ様は普段から実行を!?」
「してません!」

 違ったか。実体験を伴うが故の話かと思ったが、あくまでもクロ様はそういった本を読んだことがあるというだけのようである。
 しかし――くっ、その本を読みたい。その本と成人前くらいに出会っていたら、私はより深みに嵌まれたかもしれないと言うのに……!

「……随分と仲良くなったんだな、クロ殿とオール様は」

 そして私達の様子を見て、話に入りきれていないヴァイオレット様が複雑そうに言ってきた。会話に入りたいが内容が理解しきれず、楽しそうに話す夫を微笑ましく思いたいのだが、内容と話す相手が私という事にどう感想を抱けば良いのだろう、といった様子だ。

「ご安心くださいヴァイオレット様。今のクロ様と私は性別を超えた同好の士。同性同士で思春期特有のエッチな事を話す仲程度に思って下さい!」
「思って良いのですか、それ」
「良いんです。むしろそれがありがたいんですよ。いままで話せる相手がいませんでしたからね……」
「まぁ……王族の婚約者相手に話す勇気のある相手はいないでしょう。ね、ヴァイオレットさん」
「返答に困るが、確かに居なかったな。私が苦手だった、というのもあるが。耳に入れば睨んでいたからな」

 私の場合は外見のせいでこういった話が苦手と思われて避けられていた、というのもある。そして耳に入れば興味を持って“私も話したい!”と思い見るのだが、それが睨んでいると思われたので次第にする相手は居なくなったのである。

「だが、クロ殿はクリームヒルトやメアリーとも似た系統を話すし、私も話せるようにした方が良いのだろうか……」
「あの二人とはジャンルが違う気がしますが……無理をなさらなくて大丈夫ですよ」
「そうそう、大丈夫ですよ、ヴァイオレット様。男は大きなおっぱいが大好きです。仮に揺れ動かされたとしても、いざとなれば埋めればすぐに虜になってしまいますよ!」
「おっ――!?」
「おいコラ俺の妻になに言ってんですかオール様」
「え……?」
「なんでそこで不思議そうな表情が出来るんですか」

 不思議そうもなにも、私は当たり前のことを言っただけではある。
 母性の象徴ともいえる膨らみ、柔らかい胸。
 それは男性にとっては持ちえないものであるからこそ求めてしまう代物。
 それは千差万別同じモノは二つとないオンリーワンなバリエーション。
 それは大きい小さいにも関わらず男性を魅了する。
 しかし大きいモノは他よりも存在感があるが故に、より惹き付けられる。
 とりわけ思春期男性、性を覚え始めた男性は女性の象徴とも言える大きなおっぱいに思考を支配されてしまうのだ――!

「という訳で、男性はおっぱいが大好きでつい見てしまうんですよね」
「否定はしません」
「クロ殿!?」

 やはりか。私もそれなりにあるが故に、見られる事も多かったからな!

「ですがそれが全てを支配する訳では無い事も事実です。……そうでなければ、オール様だって、シキに来てまで観察して学び、喜ばせたかった相手をもっと簡単に篭絡出来るでしょう?」
「ぐぅっ……!」
「ク、クロ殿。それを言って良いのだろうか……?」
「良いのです。流石に否定する要素を言っておかないと……」

 ……確かに男性がそう単純だったら私は苦労していないなー。
 いや、まぁ、私がドレスで胸元を少し開けただけでチラチラと見てきたことを思い出すと、おっぱいを前にした男性相手は割と単純な気もするが、カーマインさんは単純じゃ無かったからなー。……反省。

「父上、母上ー!」

 私が反省をしていると、クロ様達を呼ぶ可愛らしい声が聞こえて来た。
 声変わりもまだな、純粋無垢といった表現が似合う男の子。先程料理をしている時にもちらっと見た、クロ様達の養子であるグレイ君である。後ろには養子(?)であるアプリコットちゃんも居て、さらに後ろにはアンバーさんとバーントさんも居る。…………。

「オール様。グレイに先程の話や女性の胸をどう思うか的な事を聞いたら怒りますよ?」
「なんのことでしょうねー」
「純粋な子に性的な事を教えて戸惑う姿を見たいとか思ってません? あの子になら私でもマウント取れる、的な」

 何故分かる。くっ、クロ様が昔見たジャンルにはそんな事もあったというのか。本当に読みたいな、そのジャンル。そして同じように話をしたという将来の義妹候補にも話を聞くとしよう。

「あ、オール様。こんばんは、今宵は良い月夜ですね――どうされたのでしょう?」
「気にしてやるな、グレイ。それはそうとここに来たって事は……」
「はい、準備完了いたしました!」
「スカイさん達も所定の位置に誘導済みだ」
「二人共、ありがとう」

 私が将来の同好の士について思いを馳せていると、クロ様達はよし、というように頷き合った。
 ……さて、楽しかったが今宵はここまでにしておかないと。

「ではクロ様達、私はこれで失礼します」
「あれ、オール様は私め達と一緒に来られないのですか? 良い場所をご案内いたしますよ?」
「ふふ、ありがとうグレイ君。だけど家族水入らずを邪魔する気は有りませんよ。私は安静に部屋から眺めてますから」
「そうですか……」
「はい、そうなのです。むしろ部屋から見える花火なんて贅沢なんですから、気にせず楽しんでください。私を気にして楽しめなかった、なんて方が私にとっては嫌ですから」
「……はい! では楽しんできます! では行きましょう皆様!」

 私が笑顔(のつもり)を作ると、グレイ君は楽しそうに手を振り、そして花火が楽しみで仕方ないと言わんばかりに私以外の他の皆を早く行くように促していた。本当に可愛らしい子である。…………。

「では俺達もこれで失礼します。オール様も楽しんでくださいね」
「はい、ありがとうございます」

 そして去り際にクロ様は私に笑顔を向けて一礼してから去っていった。
 そのせいで他の皆より少し遅れたので、グレイ君がクロ様の手を引っ張って早く来るように促し、その様子を見て周囲の皆は微笑んでいた。

――本当、私にも気を使うんだから。

 こんな私に対しても、楽しんで欲しいとクロ様は心から言っている。
 先程少し手伝った時に分かったのだが、あの“皆に楽しんでもらうための仕事”の“皆”の中に私も入っている。
 それが当たり前であるかのように、当然の事のように。

――羨ましい。

 私はそれを羨ましくも思う。
 私にも息子と娘が居る。まだ赤ん坊ではあるが、愛する夫との間に生まれたカルミヌスとヨウコウだ。
 いつかは我が子達も含めてあのように仲の良い家族になりたいとも思うが、同時に無理だとも思うし、資格も無いと思っている。

――けれど、羨んで自分に当てはめて想像するくらいは許されるはずだ。

 実際に叶う事は無い。カーマインさんがクロ様のようになるのは無理な話だ。
 けれど、私が望んだのは、あのように心から楽しめる間柄の家族になる事だったのか。
 ただ愛する夫が傍に居ればそれで良かったのか。
 ……どちらにしろ、もう遅い事か。

「あー、やめやめ。さっさと部屋に戻って花火を見たら寝よう」

 どうやら夜という事と、幸せな姿を見てネガティブな気持ちになっているようだ。
 こんな時は早めに寝てしまうに限る。
 寝る前にクロ様のここ最近の仕事の集大成を見て、さっさと寝るとしよう。うん、そうしよう。
 あ、でもやっぱり花火で盛り上がったカップルとかが木の影とかに居ないか、見て回ってから部屋に戻ろうかな――

「――お前、何故安静に寝ていない。医者の言う事を聞けない愚患者が」

 ――よし、逃げよう。

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