追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

黒のとある仕事_10(:黄金)


View.オール


「よく分かりませんが、私を観察したいのですね?」
「ええ、出来る限り素の貴方を。なので一人称や口調も素で、あるがままを曝け出す勢いで居て下さると助かります」
「結構グイグイ来ますね」

 結局私達はクロ様に見つかった。
 どうやら【空間保持】と【認識阻害】をかけてもなおクロ様は「誰かに見られているような……?」という違和を感じていたらしく、白い少年(後で聞いたがヴァイス君というらしい。可愛い)を撫でながら周囲を探って私達を見つけたようだ。これが野生の勘、というやつなのだろうか。案外これも夫の愛に関わっているのだろうか。こう……勘を避けるために入念な準備をした、とか。

「あとアンバーさんを怒らないで下さると助かります誠に申し訳ございません。彼女は一切悪くないのです」

 それはともかく、キチンと謝罪はしておこう。
 状況からして私は責められる事しかしていない。誠心誠意謝罪をしないといけないだろう。別件ではあるが先程も謝罪をしたので効果は薄いだろうが、だからと言ってしないのは違うだろうから。

「ええと……私としてはオール様もアンバーさんも責める気は有りません。ただ、体調に問題無いのなら構わないのです。そこは大丈夫なのですね?」
「はい、元気です。謝罪のために隣町まで往復する罰も受けられます」
「私をなんだと思っているんです。なら良いのですが……私の素の仕事ぶりを見たい、ですか」
「はい。貴方様をよく知りたいのです。知って貴方のように皆から好かれる女になりたいのです!」
「ええ……」

 クロ様は私を見て複雑そうな表情をしていた。
 恐らくだが、私の発言に引いているのもあるが、私がそのように言う理由もなんとなく分かっているような気がする。

「まぁ私――ええっと、俺は構いませんが、色々する事があるのであまり対応できませんが、よろしいですか?」
「はい、問題ありません」

 それでいてなおクロ様は断りもしないし指摘もしない。
 クロ様は明確に、そして激しく夫を嫌っている。その夫のために私が行動している事に言いたい事もありそうだが、指摘はしない。……恐らくだけど、嫌っている相手が関わっている事であろうとも、それが良い方向に向けようとした行動ならば別に構わない、という所だろう。……こういう所は大人と言うべきか、割り切っていると言うべきか。

「というより、良ければ手伝いますよ?」
「いえ、お客様にそのような事をさせる訳には……」
「気にされないでください。私はランドルフ家に嫁いだ優秀な女……王族の激務をこなす私は力になれますよ!」
「は、はぁ、優秀な御方なのは知っていますが……」

 まぁ夫に関心を持たせるために、意地というように子供を卒業後に二人産んだので、大半は妊娠期間と産後で激務はこなせはしなかったけど。けどそれなりに働けるとは思う。

「手伝われるというのならば手伝って下さると助かります。お願いします」
「分かりました!」
「アンバーさんもお願いできますか?」
「承りました、御主人様。しかし、お仕事となると……」
「ええ、お見合いの締めの確認です」

 お見合いの締め?
 お見合いと言えばオースティン侯爵家次男と、シニストラ家長女のお見合いであろう。意外な事ではあるがこのお見合いは上手くいっているらしく、今夜もクロ様の屋敷で夕食を両家で行うとは聞いている。そして明日の朝にアッシュ様を除くオースティン家がシキを発つらしいので、今夜は最期の語らいというのは分かるが……はっ、まさか!?

「もしや上手くいっている両名を、若い二人で盛り上げる仕込みをし、あわよくば既成事実を……?」
「いや、あの……オースティン家のスマルト卿にそういうのは早いかと……」
「ですがシニストラ家の先代はそういった方法で子爵家になったと聞きますし」
「マジですか。スカイさんのお爺さんはそんな事を……っていうか違います違います。そもそもお二人は良い感じに清い交際を始めようとしているんですから、そういうのは逆効果ですよ」

 それもそうか。少年を手玉に取った女性、というイメージがあったのでつい似たような本の展開を想像したが、清い交際をするに越した事は無い。なにせ恋愛の大抵は薄汚れているから、清い交際が出来るのならそれに越した事は無いでからね!
 ……でも、違うとしたらなにをするのだろう。先程から資料とか渡していたりしてなにかの準備と段取りをしているようだし……サプライズでケーキでも用意するのだろうか。

「ふふふ、なにをするかと言いますとですね。ねぇアンバーさん?」
「ふふふ、それはもう楽しみな事ですよね、御主人様?」

 ……怪しげに笑う二人ではあるが、一体なにをするのだろう。手伝って良いのかな、これ。
 だがクロ様は夫が愛した男性だ。このような笑みをこぼす様な事をするのならば、普通の事ではないだろう。だからこそ夫はクロ様に興味を持ったのだから。
 そう、お見合いという大人の社交場を素晴らしくするような、大人の計画をされているに違いない……!







「という訳で、こちらがお見合いの締めに使う、夜空に輝く打ち上げ花火ですやっほう!」
「花火ですねやっほう!」

 子供か。
 いや、花火を扱う以上は危険なので大人にしか出来ないのだが、喜び方が子供のそれである。

「こちらシキに住むオーキッドなどの職人が用意してくれた魔法花火でしてね。なんと空に打ち上げられて七色に綺麗に光るんですよ。それはもうロマンチックに!」
「良いですよね、七色に光る花火。私としてはハートマークとか夜空に浮かぶサートゥルヌス様(※土星)の形とか好きです」
「俺はカムロが好きですねー」
「地表へと垂れ下がるヤツですよね?」
「ええ。最後にキラキラーと光るとなお良しです」
「分かります。流れ星みたいで綺麗ですよね!」

 ……うん、なんというか。
 お見合いを盛り上げるためとは言っているが、もはやこの両名が見たいがために口実にしていたりしないだろうか。

「あはは、もちろんお見合いのためですよ。私的に見たいと言うのは有りますがね!」
「御主人様と同意見です!」

 この両名、本当に楽しそうである。

「追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活 」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く