追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

黒のとある仕事_4


 彼女の思春期男子なら一度は考える(と思う)であろう「自分が透明人間になったら、エロい事に使うぜ!」的な妄想を繰り広げているのはともかく、彼女が目覚める前に考えなければならない事がある。

「エメラルドがモモさんとかを連れて来て、発見したのはエメラルドという事にして、診療所に運んだ方が良いだろうか」
「私を連れて来る時、私を担いで運んだりして目立ったからそれは無理だと思うぞ」
「……だよな」
「まぁあくまでも領主は呼びに行っただけで、見つけたのは別の誰かという事には出来るかもしれんが……」
「むぅ、難しいな。かといって正直に話すのもな……」

 元帝国貴族、現王国の王族である女性の裸体を、医者でも無い俺が見る。そのような事があれば、男爵や子爵程度など一瞬で没落する程には不敬な事である。事故なので情状酌量の余地はあるだろうが、あまりよろしくない事は確かだ。いくら俺の大嫌いな男の妻とは言え、そこは変わらない。
 ……いや、直系王族であるスカーレット殿下が「ロイヤルバスト揉めや!」とか言ったり、不可抗力でフューシャ殿下の胸を触った事はあるし……コーラル王妃とはサウナに入ってタオル一枚同士だったし、マゼンタさんは俺と積極的に身体の関係を持とうとして来るが、本来そのはずなんだ。

「どうした、領主。頭を抱えて」
「俺の周囲の王族女性の事を考えてちょっと思い悩んでいるだけだ」
「領主はこの国で一番王族女性の身体に触れたり、裸体を拝んでいるという事か」
「いや、うん……否定したいけど否定できない。なんでだろうな」
「知らん」

 こうなるとローズ殿下が本当に癒しだ。
 あの個性豊かな殿下面々をまとめ上げる、隙無し無駄無しの女性。ローズ殿下が居なければ殿下達はもっとバラバラになっていたんじゃないかと思う第一王女。あの貞淑さが俺にとってはありがたい。
 初めて会った時もあの淡々とした常識ぶりがありがたくて――

「どうした、領主。複雑な顔をして」
「なんで王族は護衛も無しにシキに来るんだよ……もっと大勢護衛を連れて安全を確保してくれよ……」
「そうは言っても、アイツらは護衛とかいう性格でないし、そもそもランドルフ家が筋肉バ――己が身は己が身で守れとか言う感じだろう。ようするにバカだ」
「言い淀むのなら最後まで言い淀め。しかし、うん……否定したいけど否定できない。なんでだろうな」
「知らん」

 よく思えばローズ殿下も最初に会った時、第四王子と護衛騎士スカイさん、そして第三王女の変装と、さらに変装をした第一王女とかいう、領主として怖い感じで来ていたんだった。一応隠れて護衛は居た事は居たらしいが……い、いや、アレはクーデターを騙すための策略だったんだ。だから問題無いはずだ! ……アレって思い返すと結構ノリノリだったんだろうか、ローズ殿下。

「ともかく、こっそりとアンバーさん辺りでも呼んできて口裏でも合わせて彼女が見つけた事にする。そして俺が運ぶよ」

 話は戻すとして、彼女を見つけたのはアンバーさんあたりにしておこう。そうすれば裸の中救ったとしても問題はそこまで大きくならないだろう。……もしそれでもなにか言って来るとしたら、その時は素直に俺が助けたと言うとするか。

「分かった。それまでにこの女が目を覚まさん事を祈るんだな、変態アブノーマル変質者カリオストロ領主ロードよ」
「おいそれを繋げるな」

 それだと俺が変態の長みたいじゃないか。
 ……あれ、合ってるのか?







 俺が変態の長かどうかの自問自答は、「そういうもんだよな!」とすぐに答えを出す事で無事終息させた。深く考える方が良くない事になりそうと直感が囁いたからである。
 ともかくこっそりと屋敷に戻り、アンバーさんに説明した後見つからない様に温泉に戻った。幸いと言うべきかオール嬢(仮)はまだ目覚めておらず、

『ふへへ……駄目よカーマイン。子供が見てる……殴り合いは余所でしましょう……?』

 という、なにを持ってその言葉に辿り着いたのか分からないうわごとを夢見心地で呟いていた。
 エメラルドはまだ服をオール嬢に着せていなかった(少しでも目覚めない様にしていたらしい)ので、アンバーさんの見事な手際により服を着せた後、アンバーさんがオール嬢を担ぎ上げた。
 意識も無い人間を強化魔法も無しに苦も無く持ち上げた事に驚く俺とエメラルドであったが、アンバーさんは冷静に、

『いついかなる時も、寝ている御主人様達を(寝息などを堪能するために)起こさぬように寝室まで運べるように鍛えておりますので』

 と言っていた。
 流石と言うか、本当に万能な従者さんで俺には勿体無いと思わずにはいられない。ただなんとなく寝てしまって運ばれないようにしようと思ったのは何故だろうか。身の危険を感じたような……いや、多分女性に運ばれるという状況にならないように思っただけだな。そうに違いない。
 ともかく、結局は俺の屋敷に運んで開いている部屋のベッドへと寝かせる事にした。
 あとは彼女が目を覚めるのを待つばかりであるが……

「……クロ殿は裸の女性に惹き寄せられる運命なのか?」
「やめてください」

 ……その前に、ヴァイオレットさんに対するフォローを優先しないと駄目だな。嫉妬する姿が可愛いとか言ってられないぞ、これ。

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