追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

リクエスト話:それぞれがお酒を飲んだら

 ※この話は活動報告にて募集いたしましたリクエスト話(ifなど)になります。細かな設定などに差異があるかもしれませんが、気にせずにお楽しみ頂ければ幸いです。

 ※時期はご想像にお任せいたします。

リクエスト内容「それぞれがお酒を飲んだら」



 お酒アルコールの耐性は人それぞれだ。
 昔は飲めば耐性がつく、なんて言われてそうだが、これはどうにかなるものではなく、生まれつきの耐性に左右されるものである。

 俺が知っている中で一番アルコールに強いのはアイボリーだ。
 アイボリーは96度のお酒をジョッキで飲み干しても平然としている、文字通りのザルである。本人曰く酔った事が無いらしい。
 少々羨ましくも思うのだが、アイボリー自身は「酔いたくても酔えない」と、酔ってみたいと思う事もあるようだ。

 対して一番弱いのはクリームヒルトだ。
 前世では飲んでいる所を見た事無いので恐らく今世での体質だと思うのだが、成人したてでも飲めるような軽めのお酒でも酔いが回りすぐに吐く。下手をすれば料理などに入っている少量のお酒でも酔うそうである。
 基本は大抵の事を気にしないようにするクリームヒルトではあるが、その事は残念がっているようだ。……あと最近は特に、とある相手と一緒に飲めないという事を残念がっているように思える。

 俺は比較的強い方だが、あくまでも比較的なので酔う時は酔う。
 そして酔っても“酔っている自覚はあるし、記憶もある”という状態までしかいかない。要するに前後不覚になるよりも理性、あるいは気分の悪さがそれ以上の飲酒を止めるのである。あと、お酒で気分が高揚する自覚があるので、高揚しすぎて変な事しない様に自制が強くなって大人しくなってしまう飲み方をする。つまりお酒を飲む場において俺は、周囲の深酒を止めるストッパー的な役割を担う事が多い。ある意味飲み会を心から楽しめず、同時にお酒で失敗しにくい“飲まれない”飲み方をしていると言えよう。

 さて、長くなったが、何故急にそのような事を語ったかというと。それは目の前に広がる現状が理由である。

「イエーイ、皆、乗ってるかーい! 飲まれない事が大切だけど、楽しむ事も大切! という訳で無理のない範囲でどんどん飲んでいくぜフゥー!」
「おいスノーホワイト、お前の嫁がテンション高く飲んでいるが止めなくて良いのか。いつもの事だがあのスリット衣装で大胆に動いているが」
「うぅ……ひぐっ。アレがシアンらしいから良いんだよアイボリー……うう。普段は俺の行動に苦労を掛けているから、こういう時くらいは弾けさせないと駄目なんだよ……うぅぅ、ぐすっ……」
「ああ、もう涙を拭け。……チクショウ、強い酒を飲ませるんじゃなかった。泣き上戸なのかコイツ……」
「へいへい、アイ君も飲んで飲んで!」
「……チクショウ、この夫婦どっちもうるさい……こういう時こそ酔えたら良いというのに……」

「マ、マゼンタちゃん。飲み過ぎじゃないかな?」
王族ロイヤルな私は酔わないのだよヴァイス先輩! というかヴァイス先輩も飲んでないじゃん!」
「いや、僕まだ未成年だから飲めな――ちょ、なんで脱がせようとするの!?」
「あははは、お酒を飲んだらする事は一つ! お酒の力を借りた一夜の秘め事! さぁ、私の二人目の時のようにお酒の力でいっくよー!」
「二人目ってなに!? あ、シュバルツお姉ちゃん、助け――」
「美。美。美。……弟の純潔がこんな場面で奪われないためにも、私が一晩中抱きしめてやらねばな!」
「お姉ちゃんも酔ってる!?」
「おお、じゃあ三人でやろっか! 純潔を奪うのが実の兄弟だなんて、私とお揃いだねヴァイス先輩!」
「そんなお揃いは嫌だし、お姉ちゃんもそういう事を言っているんじゃないからねマゼンタちゃん!」

「――ぷはっ。……フゥーハハハ! どうしたシャトルーズめ。まさかこの程度で酔ったと言わんであろうな!」
「――ぷはっ。……当然だアプリコット。貴様こそ酔ったなど言い訳をするなよ?」
「フゥーハハハ!! 誰に物を言っているのだ! 僕は偉大なる魔法使いであるアプリコット! こんなもの飲んだ内に入らぬわ!」
「よくぞ言った、それでこそ俺のライバルだ! 決着がつくまで行くぞ!」
「応っ!!」
「アプリコット様、シャトルーズ様、頑張ってくださいー! ……おや、どうされました、フューシャちゃん?」
「えっと……二人は……なにをしているの……?」
「はい。飲み比べをしようとしたのですが、深酒は危険なので、どちらが多くのポタージュを飲めるかを競っています」
「何故……ポタージュ……?」
「さぁ? ところでフューシャちゃんは飲まれないので?」
「私が……飲むと……ラッキースケベイとやらが……無秩序に……起きそうだから……飲まないの……」
「なるほど?」
「あと……飲み過ぎると……脱ぎ癖あるみたいで……一応王族だから……裸体を晒すと……周囲が大変に……」
「なるほど。では今度は親しき私め達だけで飲みましょう。そうすれば飲めるはずですから!」
「え……うん……。……多分これって……私も飲めるように言っているだけで……変な意味は……ないんだろうな……」

「何処へ行こうというのです、クリームヒルトさん!」
「お願い。お願いだから私に付いて来ないでティー君! 今は貴方の顔も見たくないの!」
「なっ……!? ですが私は辛そうな貴女放ってはおけません! 辛いのならば寄り添って差し上げますから!」
「そうやって辛そうな所につけ込んで裏でなにかするつもりでしょ、エッチ!」
「私はクリームヒルトさんに対してならエッチでも構いません!」
「くっ、ティー君も酔っている……! う、香りだけで酔いが……吐く所見せたくないのに……くらえっ、恐ろしく速い手刀!」
「ぐはぁつ!」
「よし、このまま端に寝かせて……ごめんねティー君。私は裏で吐いて来る!」

「ロボさん。帝国では飲める年齢かもしれぬが、周囲の目がある今の貴女に飲ませる訳にはいかない」
「ウ……残念デスガ、ソウ言ワレタラ仕様ガアリマセンネ」
「分かって貰えて嬉しいよ。――だがロボさん。個人的に飲むのならば、オレが黙っていれば良いだけの話だと思うんだ」
「エ」
「今夜は……二人きりで飲まないか? 部屋は既にとってある。これから一緒に――ロボさん、何故オレの身体を掴む。大胆だな」
最大マキシマム解放リミッター極限テイク飛翔オフ!」
「!? ロボさん、何処へ行く!」
「ルーシュクンが酔っているようなので、冷ますためにシキまで往復飛翔しマスヨ! では、発進!」
「おお、ハネムーンか!」
「違いマス!!」

「うへへへへへ……エメラルドにハク。ハーレム……ロイヤルハーレムなんて幸せ空間だぁ。うへへへへへ……」
「おいスカーレット。後ろから抱き着かれると私が飲めないんだが」
「えぇ、良いじゃんー。もっとエメラルドをロイヤルに感じさせてよー」
「だからと言って抱き枕のように私をホールドするな。……はぁ。甘え癖があるのか、コイツ」
「そうは言っても満更でもなさそうだね、エメラルド。私じゃ無くて自分にだけ抱き着くのがやっぱ嬉しい感じ?」
「んなわけあるかハク。動き辛いのはお前も分かっているだろう」
「まぁ確かに動き辛いけど……」
「うぅ……へへ……あったかくて、気持ち良い……ふふ、ずっとこうしていたい……」
「私はこうして愛息子に抱き着かれるのは、悪くないと思っている!」
「そうか、良かったな。お前は良くても私は良くないぞ」
「あと、メアリーが言うには、この状況を“だいすきほーるど”というらしい。実際は正面からするそうだが」
「なんとなくだが、違うと思うぞ。後はメアリーにその姿を見られた事をシルバには言わん方が良いぞ」

「アッシュ兄様。酔った勢いの一夜の過ちとは良くない事とは思うのですが、時には策略として必要だと思うのです」
「急にどうしたスマルト。確かにオースティン家の教えでは相手の心情を吐露させる方法として学びはするが」
「僕は思うのです。アッシュ兄様に必要なのは己が欲望を少しでも前に出す事だと。そうでなければメアリーさんとの間柄に進展は有りませんよ」
「余計なお世話だスマルト。……大体、そんな形で結ばれたくはない。お前だってそうだろう?」
「そうですが……」
「私の心配をするのは分かるが、まずは自分の心配をしろ。今の――」
「ふふふふふふ、スマルト君は小さくて可愛いですねー。私と違って細くて綺麗で……撫でたくなっちゃいますー」
「……今の、愛しの相手に酔った勢いで抱きしめられて、異性とは違う形で愛でられるという状況をどうにかした方が良いぞ」
「ふ、嫉妬ですか兄様。自分が愛でられないからと言って、嫉妬をしているのですねアッシュ兄様!」
「やかましい。……確かに私の身長だとまずされないから、羨ましくはあるが……シルバも愛でられているようだし、身長を縮める方法を探すか……?」
「……兄様、敬語外れている時点で酔っているんだよなぁ……」
「酔ってないぞ。ただ私は愛でたくもあり、愛でられたいというだけだ!」
「酔ってますね。……この状態の兄様はメアリーさんに見せない方が良いな」

「メアリー様。こちらが右からジン、ウォッカ、ベルモット、キャンティ、コルン、バーボン、キール、ラムです」
「ありがとうございます、エクルさん」
「そしてこちらがテキーラ、ピスコ、カルバトス、スコッチ、シェリー、ライになります」
「おお、ありがとうございます!」
「……メアリー、エクル。やけに並べているが、それを全て飲むつもりか?」
「おや、ヴァーミリオン君。ええ、そのつもりですが」
「やけに多いが、なにか意味はあるのか?」
「はい、あります。二つ目の並びのお酒を飲むと死ぬか裏切りをするのですが、最初のお酒を飲めば生き残るか、裏切ってもバレないというお酒なのです!」
「なにを裏切るんだ」
「えっと……世界を牛耳る黒の組織……?」
「何故疑問形だ。というか、ここにあるモノは俺達は飲めない酒だから没収だ」
「ああ、そんな殺生な! 一口、一口ずつでも飲ませてくださいよー! 前世の時から飲みたかったお酒の一覧なんですからー!」
「ええい、駄目だ! 王族として法律に反する事は見逃せん! 大体こんなに飲んだら酔って倒れるぞ!」
「酔った勢いでアピールするつもりなんですから酔って良いんですよ! というかお酒を飲まずにはいられません!」
「なにを言っているんだメアリー!?」
「……ふぅ。上手く勧められずにいたからお酒を用意してあげたけど、メアリー様は相変わらず攻めが妙な方向に行くなぁ……でもそんなメアリー様も可愛いから良いけどね!」
「おいエクル、ブツブツと呟いていないで、メアリーを止めるのを手伝ってくれ!」
「私がメアリー様の意志に反する事をするはずが無いだろう! だから止めない!」
「ええいお前はそういうヤツだったな!」

 この状況を見て、俺は思うのだ。
 俺だってお酒に逃げてしまいたい時がある、と。
 けれど理性が「お前はこの状況を放ってアルコールに逃げる勇気があるのか!」と告げている。俺は出来ない。
 皆集まって飲み会をするという話になったが、強めのお酒が大量に入ってまさかこのような機会になるとは思わなかった。

「うむ、なんと言うか……カオスだな」
「ですね。……ヴァイオレットさんがあの中に混ざらなくて良かったです」

 そしてこちらは俺の横で軽めのお酒を飲み、今は水を飲んでいるヴァイオレットさん。
 ありがたい事にお酒にも雰囲気にも酔っていないので、このカオスな空間ではオアシスの如きありがたさである。
 ……仄かに酔って色っぽいヴァイオレットさんも見たかったと言えば見たかったが、今はそんな事言っていられないだろう。

「私に酔って欲しいのか、クロ殿?」
「え、口に出てました?」
「出ていないが、なんとなく視線でな。……それで、酔って欲しいのだろうか、クロ殿」
「ええと……まぁ酔って大胆になって色っぽいヴァイオレットさんとかは見てみたいですね」

 あれ、俺はなにを言っているんだろう。……イカン、俺もアイツら程では無いとは言え、酔っているようだ。気分が高揚し過ぎないように自制をせねばな。

「そうか。だがな、クロ殿。――私は酔わずとも大胆にいくぞ」
「え。ちょ、ヴァイオレットさん!?」

 ヴァイオレットさんはそう言うと俺に顔を近付けて――

「アイタッ!?」

 ――俺にデコピンを食らわせた。実際に痛くはないが、つい痛いと言ってしまう。

「ふふ、クロ殿も酔っているようだ。私の大胆な姿を見たいのは嬉しいが、あまりそういう事を言わないようにな」
「は、はい……」

 ヴァイオレットさんに注意をされてしまった。確かに先程の発言は良くなかっただろう。いくら妻が相手とは言え、アレでは酔った勢いでセクハラをするおっさんみたいだ。どうやら無自覚に酔っているようだし、気をつけねば。
 ……まぁ素面でもああいった発言をしないかどうかと問われれば、素面でもしそうだが……ともかく、気をつけよう。

「そういった事は二人きりの時にいくらでも、な」
「え。……ヴァイオレットさん、今なんと……」
「……ふふ、さてな。私もどうやら酔っているようだ。ちょっとばかり大胆になっているようだな。……ですが、偶にはこういうのも悪くはないでしょう、クロ?」

 そう言いながら俺の顔を覗き込み、いたずらっ子のように微笑むヴァイオレットさんは、何処か小悪魔じみた魅力に溢れていた。
 それが酔った勢いによるものなのか、酔ったふりをした事によるものなのか。

 ……お酒を飲んで酔った俺ではあるが、飲んでいなくてもその答えは分からないだろうと、何処か高揚した気分の中で思うのであった。

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