追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
少年達よ、健やかであれ_1(:灰)
View.グレイ
私にとっての初の公務とも言える、貴族としての仕事。
スカイ様とスマルト様との出会いをサポートし、お見合いを滞りなく進ませる。その仕事自体は半分以上が終わったと言っても良い。
とはいえ、私自身はほとんどなにもしていない。会話が途切れそうになった際にアプリコット様と共に会話に入ったり、両家の話に同調したり、フォローをしたり。多少なりともそういった事はしたが、滞りなく……上手くいったのは、偏にスマルト様自身の力によるものだろう。
――素晴らしい告白でしたからね。
スマルト様の、出会い頭の堂々とした愛の告白。その堂々とした様は私も見習いたいと思うような素晴らしいモノだった。なにせ私の公務は彼の告白のお陰で成功したと言っても過言ではないモノだったのだから。
感情を包み隠さない本音の直球勝負。もし社交場などで印象に残った出会いや告白を語る時が来れば、迷わずに話して素晴らしさを語り継ぎたいと思うほどである。そして貴族の中で素晴らしき出会いをした夫婦として語り継がれるである!
「あー……悪いけれど、それは止めて貰えるか」
しかし何故かスマルト様には止めるように言われた。
現在、私は件の素晴らしい告白をしたスマルト様と、修道士見習いの服を着られたヴァイス様とレインボーのテラス席にて話をしている。
話している理由……と言っても大した事ではなく、待っている間の時間つぶしだ。
元々私とヴァイス様が年齢が近いという理由でスカイ様とスマルト様のシキの案内をしていたのだが、スカイ様がなにやらアッシュ様に連れられて何処かへ行かれたのである。なにやら学園とシニストラ家の話であり、私達はあまり聞かない方が良い話との事だった。
そして現在、待っている間の暇つぶしも兼ねて私達は三名で話している訳なのである。
「何故でしょう、スマルト様。素晴らしい告白でしたのに……?」
「流石に恥ずかしいし、というか結果的に上手い方向に行ってはいるけど、その告白自体は保留……いや、断られた訳だからな……」
と、話している理由はともかくとして、私が熱く語った「告白を語り継ぎたい!」という想いはスマルト様によって断念する事となった。残念だが、流石にご本人が嫌と言うのならやめた方が良いだろう。
……正式に結婚された際には、立ち会った者として事細かに思い出話として語ろうとしたのだが、この調子だとやめた方が良いようだ。
「しかし、断られたとはいえ、私めはあの告白を見習いたいものです。あのような大胆に想いを告げるという告白はやはり憧れます」
「へぇ、誰かしたい相手とかいるのか?」
「アプリコット様です。この私めの溢れんばかりの感情を、真っ直ぐに、大声で……あとは、木の上から飛び降りて告白とかも見習いたいです! ……ところで、スマルト様はスカイ様が居る事に気付いてこっそり登られたのですか? それとも木の上で待機されて通りかかるのを待ったのですか?」
「……聞くな」
「?」
よく分からないが、聞くなと言うのならば聞かないでおこう。
しかしどうしようか。木の上からシュタッと飛び降りるのはアプリコット様もよくやられて格好良いという事は知っているのだが、不意打ちで飛び降りるとなると至難の技である。なにせ通るルートを予測して待機するにしろ、木の近くに居るのを見てバレないように登るにしろ、失敗したら目も当てられない状況になる。だから是非どうやったかを知りたかったのだが……残念である――おや?
「…………」
「ヴァイス様、どうかされましたか?」
「あ、いや、なんでもないよ――ですよ」
ふと、ヴァイス様が私達を見てなにか聞きたそうにしていたので話しかけたのだが、なんでもないと言って微笑むだけであった。
私と入れ違いのようにシキに来られた修道士見習いの方で、シアン様の後輩。肌がとても白くて綺麗で、赤く輝く目は宝石を彷彿とさせる綺麗さだ。あと日光に弱いらしい。
と、それ以外はあまり詳細を知らない御方である。ので、今は話す良い機会であるのでこれを機に仲良くしたいのだが、私達に遠慮しているのか先程からヴァイス様は先程から積極的に話されないのである。
「ヴァイス様、遠慮なく話されて良いのですよ。今は案内の小休止なので、無礼講で宴状態です。大人の社交場ならぬ、子供の社交場。存分にどつき合いましょう」
「グレイ、それなんか違わないか?」
「ほら、スマルト様も良いと仰って――いませんね。ともかく、自由に話されて良いのですよ? 一番年上のなのですから、年下の私め達に気を使う必要は無いのです!」
「まぁその意見には賛成だけど……グレイって結構天然だよな」
「? はい、人間も自然と共に生きる者ですから、私めは天然自然な存在ともいえるでしょうね」
「違う。そういう意味じゃない」
スマルト様がなにやら私を「疑う余地なく天然だな」というような視線を向けた気がする。しかし天然とは良い言葉であるし、スマルト様は私を高く評価しているという事なのだろう。
「……まぁ良いや、気になる事があるなら遠慮せずに話して良いぞ。グレイの言うように身分は気にしなくていい」
「は、はぁ。お気遣いありがとうございます。ですが大した事ではないんです。僕……私は前に好きな女性がいまして。もし好きな女性に堂々と告白出来る前向きさがあったらな、と思っただけなんですよ。……告白する前に、相手に好きな相手がいると知り諦めたので。……ごめんなさい、暗い話をして」
「いえ、謝罪なされる必要は無いのですが……」
どちらかといえば謝罪すべきはこちらの方である。スマルト様も聞くべきでは無かったと思ったのか紅茶を飲まれながら気まずそうにしている。
……むぅ、ここは明るい話題に話を変えなければ。
「ヴァイス様はシキには慣れたのでしょうか。シキの領主の息子として、気に入って頂ければ嬉しいのですが」
「う、うん気に入ったよ。皆ちょっと……うん、ちょっと個性的だけど優しい方々ばかりだからね! ……あ、ばかりです」
「敬語を無理に使う必要は無いですよ」
「そうそう、というかグレイも必要ないぞ?」
「私めはこちらの方が気楽ですので」
「そうか? なら無理には言わないが……というか、僕はあまりシキの方々と交流していないんだが、個性的ってどんな感じだ?」
よし、話題を良い方向に変えられた。
この話題に乗れば後は簡単だ。シキに住まう誇るべき領民の方々を紹介するだけで、皆さんは明るくなる事が出来るのだから!
「そうですね。例えば――」
そうと決まれば早速領民を紹介しよう。
まずはこのレインボーの店主様と、その妻であるレモン様に忍術をお見せしてもらうのも良いかもしれない――おや、あれは……
「なんたる事だ……俺は今は約束の地へと踏み入ったのか……? 素晴らしき少年達が一カ所に固まって談笑をしている……ああ、何処だ……この光景を見せて頂いた感謝を何処に捧げれば良い……!」
あそこに居るのはブライ様。なにやら感極まって泣いているように見えるが、どうしたというのだろうか。
「なぁ、あの男、衛兵に突き出した方が良いんじゃないか? なんか危うい気がするんだが」
「うん、私も最初はそう思ったんですが、ただ私達みたいな年頃の少年を目にすると情緒が不安定になるだけで、大丈夫です。見守るだけで手は出してこないから大丈夫だと最近分かったから大丈夫ですよ、うん」
「それを危ういと言うんだ」
「そんな事ありませんよ。父上もブライ様は定期的に発作が起こるだけで後は優秀だし、実害は無いから大丈夫と仰っていました」
「ちなみに彼はあの性癖のせいで帝国を追いだされているそうです」
「本当に大丈夫なんだろうな!?」
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