追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

紺、周囲の様子に惑う_4(:紺)


View.シアン


「と、いう訳で乗り込みに来た訳なのクロ!」
「と言う訳でじゃねぇよ乗り込むなよ」
「それで、トウメイという女性は何処!」
「聞けよ。屋敷の右手奥二階の突き当りだ。アンバーさんに案内させる」
「ありがとー。あ、これ急な来訪のお詫びの品ね」

 と、色々言いはするモノの、私の事を信用してくれているクロはあっさりとトウメイの元へと行かせてくれた。理由が理由だけに私の無鉄砲さは呆れるが、気持ちは分からないでも無いので後は私の裁量に任せる、と言う感じであった。

「……まぁスマルト君も今は居ないし大丈夫だろう」

 あと、私が去ろうとする前にクロはなにか呟いていた。
 なんとなくだけど、私が会ったらマズいような状況になる子が居たかのような様子であった。具体的に言うと……スイ君のような反応をする子が居た、という感じである。その子に私が近付くとその子がお見合いに集中出来なくなるから、その子が居る間は私を屋敷に呼びたくなかった、とクロは思っているように感じた。

――そういえばスイ君と言えば……

 そういえば最近神父様やマーちゃんほどではないけれど、スイ君の事も気になる事がある。私に対して距離を取っている気がするのである。
 マーちゃんに対して気を使いつつ色々とやろうとし、結果マーちゃんに色々と狙われる事となったスイ君。そしてスイ君も自分から誘った手前引くに引けないので、マーちゃん色々アピールに逃げずに立ち向かい、結果蠱惑的なマーちゃんの魅力に可愛らしくタジタジになり照れるのである。
 それはあんまり良くないけど、まぁ良い。けど何故かマーちゃんの誘惑が始まってからスイ君が私に対して何処か避けるようになってきている気がするのである。
 私はマーちゃんの誘惑に対して落ち着くように励ましたり、一緒に運動をして気持ちのリフレッシュに付き合ったり、マーちゃんからの護衛の意味も兼ねて一緒に近くで仕事をしたりしているというのに、なんだか今までより距離が遠くなっている気がするのである。
 せっかく可愛い後輩で弟のような存在が出来たというのに、このままでは訳も分からぬまま距離が開いてしまう!

「……シアン、当然だが励ましをするのにはその服でやっているだろうし、一緒の仕事とかも前の窓修理みたいに、掃除で高い所に上ってやったりして無いか?」
「? まぁそうだけど」
「お前……もっと気を使ってやれよ……」
「気を使ってるじゃない。怪我をしない様に、率先して危険な高所の仕事をこなしているじゃない!」
「違う、そうじゃない。……その服で高い所に上ったら見えるだろうが」
「見えない様に気を使っているし、大丈夫。私だってそこの所は気を使うって」
「違うんだよ……見える見えないじゃ無くて、見えそうになるのが男の子にはなぁ……というか、多分マゼンタさんの誘惑もそれ系だから、より想像が出来てしまうんだろうなぁ……」
「??」

 なんだろう、トウメイの元へ行く前にクロにスイ君の事を相談してみたのだが、どうやら頭を抱えて悩んでいるようである。なんと言うか、「俺が注意するべきなのか、イオちゃんに頼むべきなのか、スイ君を励ました方が良いのだろうか」と思っているかのようである。

「どうぞ、シアン様。トウメイ様はお会いになられるとの事です」

 私がクロに相談している間に、先に状況を説明するために敵の根城に行っていたアンちゃんが根城から戻って来て、私に着いて来るように促した。どうやら彼女は急な来訪にも関わらず会ってくれるようだ

「ありがと、アンちゃん。じゃ、行ってくるねクロ! あとでスイ君について教えてね!」
「ああ、頑張って来い。少年の純情に曲線を描こうとしているシスター」

 それはどういう事だろうか。普段はそれなりに読めるクロの心情が不思議と読めない。
 と、その件は気にはなるが、今は神父様を誘惑したかもしれない女性に会って、神父様を誘惑出来る方法を教えて貰う――じゃない、敵かどうかを見極めなければ。
 さぁ、どんな相手が出て来るのか。先程からトウメイが居るという部屋に近付くにつれて妙な気配も強まっているように感じるし、相手は只者では無いという事が伝わって来る。
 だけど只者であろうと悪魔であろうと蛇だろうと、もし敵と言うのなら私は戦わなくてはならない。
 私にとって神父様は何物にも代えがたい大切な存在だ。彼のためなら世界を敵に回そうと私が立ち向かう。
 さぁいざ行かん、私は彼女に――

「君があの教会に住まうシスターか。はじめましてだな」

 彼女に――

「ふむ、あの三人が居る中に住まう一般女性と聞いては居たが……ああいや、失礼。私の名はトウメイだ。私の体質に関してはクロ辺りから聞いているだろうが、この姿で相対す事を許して欲しい」

 ――彼女は、あまりにも透明な存在であった。
 先程のシューちゃんの、絵画のような美しさとは別次元の美しさ。
 そしてこの場合の別次元というのは、どちらかが劣っているという話ではない。
 彼女は私達にとってあまりにも立っている世界が違っている。

――ああ、神父様が“そうした”のも頷ける。

 もし私がに不遜な態度――先程のこの部屋に入る前にやろうと思っていた行動をとった後に気付いたとしたら、私は罰を受け入れる覚悟がある。
 それで許されるのならば安いものだ。というか、むしろ罰を受けた方が罪を犯した事に対する贖罪として気が休まる程である。
 私達にとって、この御方はそれほどまでに特別であるのだから。

――よし。

 そうと分かったなら私のするべき事は一つだ。

「どうかしたのかな、私になにか――」
「お願いいたします、神父様を誘惑するのはおやめください、私は彼の妻なんです!」
「んん?」
「貴女様の存在の前では、私など風前の灯火にも似た存在なのです! どうか――どうか! 踏むという欲求ならば私が引き受けますので!」
「待ちたまえ。なんか色々誤解が酷――土下座をしようとするのはやめたまえ! なに、教義ではそれが謝罪スタイルなのか!?」

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品