追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

紺、周囲の様子に惑う_2(:紺)


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 さて、シューちゃんの美活動は置いておくとして、様子がおかしい子がもう一人いる。
 それはマーちゃんことマゼンタちゃん。私の可愛い後輩兼可愛いスリット仲間。
 過去に色々ある上に、最近はスイ君を狙っている発言と行動が多いマーちゃんだが――

「……うむ、やはりあの醜くも美しい彼女に弟が汚される前に話し合いをした方が良いな。美美々美々フフフフフ

 ……ともかく、マーちゃんだが、最近様子がおかしい。
 あまり長く接していないのでまだ違和感のようなモノなのだが、ここ数日のマーちゃんはなにかに警戒をしている。
 ちょうどレイ君達が帰って来た日だっただろうか。クロの屋敷に戦利品を分けに行った帰り道、何故かマーちゃんはクロの屋敷の屋根辺りを見ていたのだ。しかも僅かな敵意を見せながら。
 私が声をかけると敵意はすぐに沈めたのだが、あの時のマーちゃんは何処かスカーレットレット殿下ちゃんを彷彿とさせるような目であったのだ。

「あははは、特になにも無いよ。戦闘後だから変に敏感になってるみたい」

 私が聞いてもいつものように笑ってそう答えるだけだったが、やはり違和感はあった。確かに私も見ている方向になにか“ある”ような感覚はあったのだが、マーちゃんは違う意味で見ていた。
 誰も居ない場所に、まるで誰かが居るかを確信しているかのような目。あまりしておいて欲しくは無いのだけど、何処か成長を感じさせる目でもあった。その成長とはまるで――

「大丈夫だって。もしなにかがあっても、いざとなっても私がなんとかするし、必要なら協力もしてもらうから! なにせ皆は大切な家族だからね!」

 まるで、居場所を作る事が出来たから、今度こそは守ると言っているようであった。
 一度取り返しのつかない喪失を経験したから、二度と経験をしない様にするという、嬉しくも何処か危うい成長だったのである。

――……失わないようにするために、神父様のように独りで突っ走らなければ良いけれど。

 マーちゃんは救おうとする性格が何処となく神父様やメアリーメアちゃんと似ているし、自己完結をしなきゃ良いけど。
 私もなにか力になれるのならなりたいのだが、なにを抱えているか分からないと力になれないからね……

「と、いう訳でどう思う、アイ君」
「怪我でも無い事を俺に聞くな。というか、何故俺に聞く」

 と、言う訳で私独りで悩んでいても仕様が無いので、なにか話を聞けるのではないかとアイ君に相談してみた。
 ちなみにシューちゃんは「うむbiを発露したら敵に対する戦意が向上したぞ」と訳の分からない事を言ってマーちゃんを探しに出かけた。ので、代わりに祈りを捧げに来たアイ君を捕まえて相談しているのである。
 そして何故アイ君に相談したかと言うと、

「だってアイ君、マーちゃんの事よく見てるし」

 そう、アイ君はマーちゃんに恋をしていると思われるからである。
 私の知らない間に初会合を済ませたようなのだが、最近のアイ君はマーちゃんをよく見ている。普段であれば怪我にしか興奮しておらず、恋という感情を全て怪我に費やしているのではないかと思っていたアイ君だが、まさかのマーちゃんに熱い視線を送るのだ。
 アイ君にそんな感情を一抱かせるなどマーちゃんは本当に魔性の女だと思いつつ、何故見るようになったかも興味があるので、こうしてマーちゃんについて聞いているのである。要は野次馬根性で聞いている。あまり下世話な事はする気は無いが、協力出来るのなら協力したいしね。

「よく見てるのは確かだが、変わった事は知らん」
「そっか。でも見てる事は否定しないんだ」
「あの御方は美しいからな。目で追うのも仕様が無いだろう」

 ……これはまた意外だ。てっきり適当に誤魔化すかと思ったが、素直に認めるとは。そういった感情は表に出さないタイプと思っていたのだけど……教会の皆の様子と同じで驚くばかりである。……アイ君は一目惚れでもしたのだろうか。
 だけど二十代中盤の男性が、見た目成人前の女の子相手に一目惚れしたとなると……

「……何処かの鍛冶師みたいにならないでね?」
「貴様、喧嘩売ってるのか。誰がロリコンだ」
「大丈夫、あの子は何処となく大人の魅力があるからそうは思わない。けど、キッカケは些細だと思うから……」
「思うな!」

 まぁそれは冗談だが、なんにせよこの怪我興奮変態医者が恋を知ったのなら嬉しい事である。
 恋は時に悪い方向にも転がり落ちるものではあるが、なんというか……普段は独りで医者の仕事をこなし、怪我の治療のために本を読みこみ、時には後世に残すために本を書くような彼にも恋をする感情があったと思うと、不思議と嬉しいのである。どう嬉しいかと言われると、具体的に言葉にするのは難しいだが……ともかく、安堵のある嬉しさを伴うのである。

「だけどアイ君。あの子は誘えば迷わず身体の関係を持とうとして来る。それ自体は良い年齢のアイ君だから別に構わないのだけど、いざという時の責任は持ってね……?」
「彼女のそういった性格は知っているが、余計なお世話だ。というか俺の心配をするならお前の夫を心配していろ」
「神父様は大丈夫! それにしても夫……ふふ、夫……なんて良い響き……!」
「帰って良いか」
「まぁ待って。マーちゃんもそうなんだけど、神父様も含めてなにか気付いた事が有ったら言って」
「スノーホワイト? アイツも様子が変なのか?」
「ちょっとね。目が泳いでなにかを隠している感じ」
「……誰かの誕生日でもサプライズしようとしているんじゃないか?」
「それは違うと思う」

 というかアイ君にとってもそういう認識なのか。

「しかしスノーホワイトとマゼンタ様の様子が変、か」

 私の発言に対し、様子が変な理由になにか思い当たらないかを考えるアイ君。相変わらず口は悪いし怪我の事になると興奮する変わった性格だけど、アイ君はこういった時にキチンと考えてくれる位には面倒見が良い。
 ただ怪我をしていなければ誰であろうと口が悪くて、適当にあしらって異性相手だろうと雑に扱って、異性の裸を見ようが「はっ、貴様の裸程度で興奮するモノか」とわざわざ鼻で笑うような性格なだけで、結構面倒見が良いお兄さんなのである。……まぁ割とそれが致命的なんだけどね。
 というかマゼンタ様と言っている辺り、マーちゃんの正体自体は知っているようだ。……少女趣味だから惚れたとかでなくて良かった。

「ああ、多分アレか」
「え、なにか心当たりがあるの?」

 私がアイ君の性格について考えていると、アイ君がなにかを思い出したかのような表情と発言をする。
 私はなにが聞けるのかとアイ君の言葉に耳を傾け、

「マゼンタ様が全裸の女と一緒に“クロとハーレムプレイしようぜ!”と言ったのをヴァイオレットに正座で説教を受け、スノーホワイトは全裸の女に“踏んでくれ!”と土下座をしたらしいから、それが原因ではないか?」
「なにがあったん」

 そして、アイ君の言葉に耳を疑ったのであった。

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