追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

幕間的なモノ:明青はこんな感じにシキに来ていました


 幕間的なモノ:明青はこんな感じにシキに来ていました


 僕の名はスマルト・オースティン。
 ヘリオトロープ侯爵を父に持つ、オースティン侯爵家の次男である。
 オースティン家は代々殿下の近侍バレットとなり、時には国王陛下の右腕として働く、王国内でも小さくない力を持っている一族である。
 そのような一族に生まれた以上は、生半可な能力である事は許される事は無い。
 知識、知恵、身体能力、魔法、経営、政治。
 全てを綺麗なやり方と、汚いやり方を学んだ上で、“王国貴族らしく”優秀かつ優雅に振舞わなければならない。
 この一族では優秀な事は当然であり、貴族らしくある事は義務なのだ。
 多くの民を導くために。貴族としての誇りを忘れぬように。
 誇り高きオースティン家の者として、王国に尽くす必要があるのである。

――そのためには、我が身の結婚も政治的道具の一つだ。

 貴族の結婚、と言うのは実に便利な政治的手段だ。
 なにせ血という他の何物にも代え難い事に介入することで、時には不利益な事も融通が利くし、優遇も優先して確約出来るのだから。我が身一つでオースティン家へのさらなる発展に繋がるのならば、これ以上の奉仕は無いだろう。
 しかし、その代え難さ故に慎重にならなければならない手段でもある。不手際に結べば不利益を被る事だってある。
 故に下手な相手を見つけないようにしなければならない。恋愛という一時的な熱病にうなされて婚約し残りの貴族としての生を棒に振るなんてもってのほかだ。
 結婚は相応しき相手と、相応しき時に、相応しい選び方をしなければならない。……例え好きな相手がいたとしても、利益がないのならば陰で祈っているだけにしておくべきだ。

 それが貴族としての在り方であり、宿命なのだから。







「え、シニストラ家の御令嬢とお見合い話が来ている? それは本当か、爺や。よし、僕が受けるぞやっほう!」
「スマルト坊ちゃま!?」

 まぁ貴族の義務とかそういうのは置いておくとして、それでも好きな相手と結ばれる可能性があると言うのならば全力で頑張る。貴族の宿命とか知った事か。というか相手も貴族だし、最近アレなアッシュ兄様が相手をしているという平民のお嬢さん相手よりは大分大丈夫なはずだ!

「お、落ち着かれてください。此度の話は因縁にも近い形で話が上がっているだけなのです。断れば良い話ですので、スマルト坊ちゃまが無理に出る必要は……」
「だがその因縁も断るには難しい内容ではあるのだろう? とりあえず受けた方が波風は立たないと思うのだが」
「確かにそうですが……!」
「ならば相手が令嬢である以上は姉様は無理であるし、兄様はなんか最近アレであるし」
「アッシュ坊ちゃまがアレ……」
「だったら僕が受けるしかないな。ではお父様達に直談判してくるからねいやっほぅ!」
「スマルト坊ちゃまー!?」

 そして僕は爺やを無視して屋敷に戻っていた父様と母様に直談判。
 熱い思いが通じたのか、なんと応援してくれると言ってくれた。
 ただしあくまでも応援と言っていたので、婚姻を結ぶために協力するのは僕次第と言った所だろう。ようは明言はしないものの、この婚姻がオースティン家に利益があるモノだと納得させてみせろと言っていたのだと思う。

「スマルト坊ちゃま、御主人様達に認められたのならば爺やはこれ以上言いませんが……よろしいのですか? 坊ちゃまは結婚とは貴族の政治的手段と普段から仰っていたのに……それにシニストラ家は政治的手腕が……」
「うん、そうだな。貴族として上を目指すためにも、スカイさんと仲睦まじい夫婦になって、幸せな家族を作らないとな!」
「駄目です、聞いてないですね……」
「今までオースティン家は冷たい血の一族と揶揄される一族であったから、身分差諸々を超えて婚姻した仲の良い夫婦としてアピールする事で、今までとは違う貴族と交流を図れる! 政治的手腕に優れて無くとも一部貴族には評判高いし、そこを取り入れる事で兄様姉様達とは違う貴族勢力を引き込むんだ!」
「あ、考えておられるんですね」

 まぁそんな政治的理由なんてスカイさんと結婚出来るという事と比べたら些事である。
 あの凛々しく美しく、今までどのような美しい絵画や美術品を見ても心動かされなかった僕の心を動かしたスカイさん。
 彼女が騎士なのであると思わずにはいられなかった、内面を表すかのような立ち居振る舞いは、まさに僕にとっての戦乙女騎士ブリュンヒルデ
 彼女と結婚する可能性が出来たのならば、僕は全力で頑張るぞ!

「あ、そのスカイという女だが、シキの領主であるクロ・ハートフィールドという男が好きだそうだぞ」

 そして僕の意気込みは、とある女性によって打ち砕かれた。
 金髪に、見る角度によって色が変わる不思議な色をした、虹のような瞳を持つ謎の女性。
 曰くその女性は冒険者らしく、その女性と会ったのも偶然であった。スカイさんに会うための服を選びに行商人が行きかう市場に行った所、珍しい物を扱う女性が居ると聞いて会いに行った。
 そして噂通りの品揃えであり、ふとお見合いの断片情報を漏らしてしまった。とはいえ、あくまでも「騎士候補の女性と会う」程度のものだったのだが、どうやらスカイさんとこの女性は知り合いらしく、もしかしてと言う感じで言ったらまさかのピタリで言い当てたのである。

「ど、どういう事ですか!?」

 いや、経緯はどうでも良い。今はスカイさんに好きな男性が居るという事の方が重要だ。

「どういう事もなにも、スカイという女は昔からクロという男を好いている。それだけだ」

 聞くとスカイさんは変態アブノーマル変質者カリオストロという強さの異名を持つクロ・ハートフィールド子爵が幼少期から好きだそうだ。
 本来ならその程度は眉唾物として掃いて捨てるような内容であるのだが、女性が語る内容や、思い返せばスカイさんと初めて会った時もそのような男性が居て、やけに慕っていたなどを思い出して、捨てられるものでは無いと思った。

――スカイさんに、好きな男性が居る。

 そしてその情報が僕の中でグルグルと回る。
 え、なにそれ。
 どういう事。
 あ、駄目だ。
 その事を考えるだけでなんだか涙が出て来る。
 スカイさんも十六歳だから恋の一つや二つするとは頭の中では理解していたのだけど、実際に可能性があると考えると涙が出て来る。なんだろうこの気持ちは。

「その状態の事を私の弟子から聞いたのだが、脳が破壊される。あるいはBSS状態と言うそうだ」

 女性の言う事はよく分からないが、確かにこれは脳に来る。
 こんな状態をどうすれば良いんだ。
 ええい泣くな僕。この程度で泣いていては、オースティン家の名折れだぞ。
 ……でも、僕はどうすれば良いんだ。僕はスカイさんと結ばれたいけど、なによりも願うのはスカイさんの幸せだ。スカイさんには好きな相手と結ばれて、幸せになって欲しいと願っている。
 例えスカイさんの好きな相手が既に婚姻済みで、結ばれる事は無いとしても。クロ・ハートフィールド子爵を好きという感情がスカイさんがある内は、僕と結ばれて幸せな夫婦になるなんて出来ないじゃないか。うぅ、どうすれば……

「若いな、少年。少年がするべき事は簡単だろう」
「え、でも……」
「良いか、スカイという女がクロを好いている理由はなんだ?」
「え? 頼れる年上の男性だから……?
「違う! 変態アブノーマル変質者カリオストロという異名を持つほどの強さを持っているから、騎士として強い男性に惚れこんでいるからだ!」
「そ、そうなのですか!?」
「そうだ! ならばお前がその男より強いと証明すれば良い! さすればスカイはお前に興味を示し、惚れるだろう!」
「!!」

 な、なんと言う事だ。その手があったか。
 確かに彼女は騎士だ。騎士ならば強さを求めるし、強い相手に惚れるのも無理はない。
 ならば僕がそのクロ・ハートフィールドさんよりも強いと証明すれば良いのか!

「ありがとうございます、瞳が綺麗な親切なお姉さん。これはお礼として取っておいてください!」
「ありがとう、では頑張れよ少年! 強さをアピールだ!」
「はい!」

 そうと決まれば話が早い。早速シキという地と、クロ・ハートフィールドという男を調べなければ! というかお見合いの地がシキだった気がするな。丁度良いし、早速向かうとしよう!
 よーし、まずは馬車の手配とアリバイ工作、情報統制で僕がまだ屋敷に居ると誤認させて爺や達を騙しつつ、一日でも早くシキに行くぞー!

「待っていろよ……クロ・ハートフィールドさん!」

 貴方より強いと証明して、スカイさんを手に入れてみせますからね!





「……ゴルド様。ああなると分かっていて煽りましたね」
「……シキで一悶着あると分かっていかせたでしょう」
「なんの事だ、シュイ、イン。私はただ少年の恋を応援しただけじゃ無いか」
「ゴルド様はまったく性格がお悪い……」
「仕様がないよ、イン。ゴルド様は自分の恋はとっくに破れて叶わないから、応援するしかないんだ」
「ああ、なるほど。おかわいそうに……」
「おいコラ」

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