追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
元王女と女神を○○させる妻を見る20歳男性
「では、御両家共々、ご歓談の程を。そして短い間ですがシキをお楽しみください」
俺はそう言い、礼をしてから部屋を出た。
部屋を出た後は響き過ぎないように、だが去ったという事は分かる程度の足音を立てながら部屋を離れていく。
――説明も上手くいって良かった。
お見合いの全てはまだ終わってはいない。だが、お見合いは充分に成功したと言えるだろう。
俺がお見合い前にスマルト君に提案した作戦の大半は、スマルト君が初手告白という大胆な行動のお陰で吹き飛びはしたものの、結果はそのお陰で上手くいったとも言える。
余計を考えない、予想外の言葉だからこそスカイさんのガードを崩せたように思えるし、スマルト君の気持ちにも火が付いたのだろう。だからこそ両家とも今後仲良い関係を繋ぎ合うという結果になった。
――結果論と言えば結果論だが。
しかしそれらは偶然上手くいったにすぎず、俺と戦うために色々と誤魔化して単独でシキに来たり、スマルト君の兄であるアッシュに妙な流れ弾が当たったりしたので褒められた内容では無いかもしれない。そこは反省すべきだと思う。……が、そもそも恋愛が上手くいく事自体が偶然の重なりに過ぎないとも言える。ならば上手くいった以上はとやかくは言わないが。
――それに、スカイさんの御両親も納得してくれたようで良かった。
そして今しがたお見合いの両家への説明をしていたのだが、その説明も上手くいった方と言えるだろう。
オースティン家の結構発言権が有りそうな執事のお爺さんもアッシュの説明に納得してくれたようだし、シニストラ家の方々はにわかに信じられないようであったが、説明の途中で入って来た当事者の説明を聞いて「今後とも交流を深めていく」という事に納得し、スカイさん自身も無理に納得したという事もないので、コン子爵やルリ子爵も喜んでいたようであった。
――一番はスマルト君が熱心だったお陰だけど。
俺の説明や、アッシュの説明もあったのだが、一番皆を説得し納得させたのはスマルト君自身だ。彼の熱心さが言葉に信憑性を持たせたのである。
執事のお爺さんもどうやらアッシュの御両親から「如何に好きであろうとも、納得させるような物言いを出来なければ婚姻は認めない様に」と言われていたのだが、スマルト君の様子は充分に認めるに値すると判断したようである。と、周囲に聞こえないようにアッシュに言っているのをこっそり執事のお爺さんから聞いたのだが、その後に「アッシュ坊ちゃまも早く私達を納得させてくださいね」という発言を聞いたので俺はそれ以上は聞かないように気を使い、今こうして部屋の外に出たのである。
――まぁ、後は俺がなにかしなくても良いだろう。
結局俺がした事などお見合いの場を整えたのと、スマルト君達が来る前に説明をしたくらいではあるが、これ以上は協力では無くて無粋になる。後は息子と娘、従者達に任せてなにかあったら対応するくらいの受け身でだ丈夫だろう。……まぁシキの観光で彼らが変な方向に行かない事を願うとしよう。スマルト君はシキの領民の変な所をまだ見ていないようだし、コン子爵はロボを「後で紹介して貰えます?」と、浪漫をもう一度みたい冒険者のようにキラキラと目を輝かせていたからなぁ……
――というか、ヴァイオレットさんどうしたんだろう。
そして彼らがシキの常識に染まらず、困惑する程度に留まれば良いなと思っているとふと、ヴァイオレットさんの事を思い出した。
説明に忙しくて忘れていたのだが、ヴァイオレットさんはトウメイさんとアイコンタクトを交わして俺から一時的に離れていた。それから結局戻らなかったが、今なにをしているのだろう。
「……ま、途中で入っても説明し辛いし、様子を確認して入らないようにしていただけかもな」
と、そんな風に納得しつつも、なにかあった可能性も踏まえてヴァイオレットさんを探す事にした。なにせトウメイさんは格好はあのような感じだがアプリコットも認める魔法使いであり、ヴァイス君とマゼンタさんの混ざっている血を見抜く程度には観察眼には優れている。
そんなトウメイさんのスマルト君への発言も気になるし、先程婚約締結の儀を結ぶために来ていた神父様(まだ正式に結んでいないので祝福の言葉だけかけた)に言われたのだが、ここ二日マゼンタさんがなにやら警戒した様子であるとの事(なお、それに気付いたのはシアン)。それを思うと不安にもなる。
「そうだぞヴァイオレット。私はだな――」
と、思っていると、トウメイさんの声も聞こえてきた。
場所的に先程ヴァイオレットさんが向かって行った屋敷の裏手辺りであるが、あれから動いていないのだろうか。
「あのねヴァイオレットちゃん。これは――」
さらには何故かマゼンタさんの声が聞こえて来る。
そして発言の内容からしてヴァイオレットさんも居るようだ。一体なにがあったのかと思いつつ、気付かれないように裏手に近付いていく。
「わ、私は! 外の世界を見せてくれるように教えてくれたクロ君のために、この身体でお礼をしてあげようとしただけ! イヤらしいだけで不純な動機は無いよ!」
なにを言っているんだマゼンタさん。
いや、マゼンタさんはある意味いつも通りなのかもしれないが……
「わ、私は! これからお世話になっていくクロ君にエロい事を教えてもらおうとしただけなんだ! 私だって興味はあるんだし、一線は超えないから大丈夫だしで、イヤらしい気持ちなどない純粋なエロへの探求だ!」
なにを言ってんだトウメイさん!?
まさかマゼンタさんの影響を受けて性へのハードルが低くなったとかそんな感じか!?
「だからヴァイオレットちゃん、クロ君に私達三名で攻める事で良い思い出を作る事が出来るんだよ!」
「そうだぞ、美しき我らであればクロも喜ぶはずだ!」
喜ばねぇ。
綺麗な女性陣のハーレムとか男の本懐かもしれないが、絶対終わった後に俺のなにかが崩れるよ。そんな俺をヴァイオレットさんが好いてくれるのかと思い悩むよ。
――は、早く止めよう。
どうしてそのような話題になっているかは分からないが、聞いたからには止めなければならない。
ヴァイオレットさんも国王陛下の妹君とお客人相手だと強く出れないかもしれないし、ここは俺が出てフォローを――
「クロ殿が喜んだとしても、私が嫌なんだ。――まだ反省が足りないようだな」
――……。我が妻が、怖い。
出ようと思った足が、彼女を見た瞬間に止まってしまう位には怖い。
「私の愛する夫に働こうとする不貞者二名……マゼンタさんに対しては今までスルーして来たが、良い機会だ。まだ反省が足りないようなのでもっと言わせて頂こう」
「ええと、ヴァイオレット。私はだな」
「なにか?」
「なんでもないです」
…………ヴァイオレットさんが、圧力だけで二人を正座させている。凄い。
正座している二人共格好が格好だけに妙な感じにはなっているが、ともかく凄い。
――しかし、なにがあったのかは分からないが……
この凄い状況を作った原因は分からないが、この光景を見て、一つ思う事があるとすれば。
――ヴァイオレットさんが新鮮で良いなぁ……!
あまりあのような圧を放つヴァイオレットさんは見たくないが、それはそれとして我が妻は愛おしいな。そのように思ってしまうのである!
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