追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
元王女と女神を○○させた16歳女性(:菫)
View.ヴァイオレット
「……ところでマゼンタさん。ここにはトウメイに用があって来られたのでしょうか」
マゼンタさんの発言は気になったが、発言を問い詰める気にはなれなかった。
今後の事を考えるとなにかを知っているだろうマゼンタさんに話を聞くべきなのだろう。が、彼女の表情を見ていると今問い詰めるのはなにか違う気がしたのである。
「うん、大体はそう。一昨日クロ君の屋敷の上で私を見ながら己が裸体を晒す女性が居たから、“これはヴァイス君の教育に良くない!”と思って探してたわけだね!」
確かにトウメイはヴァイスの年頃だと特に教育にはよろしくないだろうが、シアンとマゼンタさんの方も恐らく……いや、今問い詰めるのははやめておこう。
「そうしたら神父君が屋敷に近付くにつれて隠れていた気配を察知して、私の気配を殺しつつ駆け付けたらヴァイオレットちゃんが居てね。これはいけないと間に入った訳だ、ゼ!」
マゼンタさんはそう言いながらサムズアップした。ゼ、の部分がマゼンタさんらしくないが……シアンの影響でも受けたのだろうか。
「私、結構気配には敏感なのだがね。しかもお前……君には気を使っていたのだが」
「あははは、そうだろうなーって分かっていたから、魔力を地脈と同一化する事で気配を殺したんだよ!」
「……魔力はともかく、肉体的な気配は?」
「風とかの環境音に合わせて動いただけだね。慣れれば結構簡単だよ」
「…………」
簡単な事をしているかのように言っているが、恐らくその手のプロが長年かけて会得するだろう技術をなんなくやっているのだろう。マゼンタさんはそういう御方だ。
そもそも消す能力に長けているトウメイの気配を察知しここに来ていたり、屋敷から観察していたのを気付いていた時点で優れた能力を持っているといえる。だからこそトウメイはマゼンタさんの中にある夢魔族の血よりも、“マゼンタ”という存在自体に警戒心を抱いていたのだろうから。
「あはははー、ここ二日心配だった事もとりあえずは大丈夫だって分かったし、これから……クロ君達屋敷に居る事だし、グレイ君達も帰っている事だし……ヘイ、ヴァイオレットちゃん。あまぁくて楽しい事しない?」
「しません」
そしてトウメイとは違う意味で私の中でもマゼンタさんは変わらず警戒心を抱く対象だ。
女性よりは男性の方が好きなようだが、今のように変わらず私にも夜の誘い的な事をして来る。ヒトを選ぶし、シアン達のお陰で誰彼構わずという事はないのだが、まさに女性版カーキーである。いっそのこと二人が誘い合えば大人しくなるような気もしないでもないが、カーキーはマゼンタさんを王族という事で誘わないので叶わぬ願いである。
「?? あまくて楽しい事なのに、断るのかヴァイオレット。どちらも良い事だろう?」
待てトウメイ。何故急にグレイのような事を聞いて来るんだ。
本当は分かっているのに、私を揶揄って聞いて――は、居ないな。純粋に疑問顔で私を見ている。本当に意味が分かっていないようだ。
「え。……ええっと、それはだな」
……どう答えるべきか。
私とて恥じらいはあるし、同性だからといってそういった事を話すのが恥ずかしくないという事も無い。グレイに教えるような要領で話した方が良いだろうか……
「ふふふ、分からないなら私が教えてしんぜよう!」
……どう止めるべきか。
いや、マゼンタさんはとても優秀な御方であり、教官としても評価は高いと聞く。ここは任せた方が良いのかもしれない。
「私が実技でね!」
よし、止めよう。
「よく分からんが、口頭で充分だ。互いに信用していない以上、そちらの方が良いだろう」
良かった。トウメイはまともに対応をしてくれている。
……しかし、口振りから察するに、マゼンタさんも口だけで言って、本当にする気は無いようだ。やはり先程の敵意から察するに、相性が悪いというやつなのだろうか。
「ふ、言っておくけど口頭で伝えるよりも実技を見せた方が早いし、私が相手するのは貴女じゃないんだよ」
「ほう、つまりあまくて楽しい事をしている所を見せてくれるのか?」
「うん、そして実際にやってみると良いよ。教えて貰った事はすぐに実行するとよく覚えるからね!」
「その通りだな。やはり感覚を覚えた内に即実行が望ましい。そして反復練習をする事で身に着くものだ」
「そのとーり!」
む、なんだろう、なにやら雲行きが怪しくなってきた。
やはりここは私が口頭で教えて、即実行する事ではないと教えなければならないようである。
「だがどうするんだ? ヴァイオレットは望まぬようだし、誰に対してやり、教えてくれるんだ?」
「うーん、適当な誰かに勝手をするとクロ君に怒られるし、ヴァイス先輩もシアン先輩に怒られるし……」
「ならばクロが良いのではないか? 彼の監視下ならば、監視中の私も大丈夫と言えよう」
…………。ほう。
「うん、良いね。私はクロ君大好きだしね!」
「そうなのか?」
「うん、私に外を見る事を教えてくれたからね。とっても大切な男の子だよ。貴女は?」
「私か? 善良だとは分かるし、身体能力は見事なモノだと思っている。それにシキに受け入れられるように色々良くして貰っているからな。その点では恩はあるし……マゼンタ。彼にあまくて楽しい事をして彼は喜ぶか?」
「もちろん! なにせ気持ち良いからね! 貴女のその美しさなら喜ぶ事間違いなし!」
「おお、それは良い。ならば善は急げだ。早速しに行くぞ!」
「おー!」
………………。
…………。
うむ。
「ああ、でも。今はお見合い中でクロも忙しいから、こっそりと呼び出して――」
「マゼンタさん。トウメイ。――こちらを向け」
『――っ!?』
今まで私が出した声で、一番低い声が出た。
意識的に出した訳ではなく、今の私の感情に従って声を出したら低い声が出たのである。
「マゼンタさん。貴女がクロ殿に少なからず好意を抱いているのは知っていますし、今の行為も善意で行おうとしているのは分かります。ですよね?」
「う、うん。もちろんそうだけど……あ、あの、ヴァイオレットちゃん? なんだか様子が変じゃない?」
「気のせいです」
「でも――」
「気のせいです」
「……ヴァイオレットちゃんがそう思うのなら、そうなんだね!」
その通り、私の様子が変なんて事はない。
真っ当な理由で、真っ当な方法で、真っ当な感情を表しているだけだ。
「トウメイ。貴女に悪気が無いのは分かっている。けれど、キチンとした内容を聞かずに実技をしようなどというのはどうなのだろうか?」
「え。ええと、それはね」
「うむ、それは?」
「よ、喜んでもらえるなら良いかなーって。それに美しき私がやるんだから、クロも喜んで――」
「クロ殿が、なんだって?」
「よ、喜んで――ええと……」
「うむ。どうした、遠慮せずに言うと良いぞ」
「……なんでもないです。変に暴走しました」
「そうか」
私が淡々と聞き返していくと、トウメイは反省の意を示した。
……この位にしておくか。トウメイは乗せられただけであるし、悪気はない。ならばこの程度にしておき、“あまくて楽しい事”の内容を説明をしてこの場を解散させるべきであろう。
「ええと、トウメイちゃんだっけ。あまくて楽しい事というのはね。―――――で、――の、――を、――――にね?」
「え。……つまり――か?」
「そうだね」
ああいや、結局はマゼンタさんが口頭で教えているな。ひそひそ話のように話しているので所々で内容は聞き取れないが、どうやらトウメイもあまくて楽しい事は妄りにするべきではないと分かって――
「つまりヴァイオレットは夫を相手に仲間外れが嫌だったという事か。ならば四人でやれば問題無いという事だな!」
「そう、主導権は二人なら良いという事だね!」
「ああ、当世ではどのようになっているのかも見てみたいからな!」
よし、遠慮はいらないな。
相手が客人だろうと。国王陛下の妹君だろうと、クロ殿に関与するというのなら説教を惜しまない。思う存分やるとしよう。
「――二人共、そこに座れ」
そして私はさらに低い声が出て、二人は声を聞いてその場に大人しく座ったのであった。
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