追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
陰から見守る関係者達(:菫)
View.ヴァイオレット
「とりあえずお互いを知るために……スカイさん、好きな食べ物はなんですか?」
「卵焼きと……へしこですね」
「へしこ?」
「私の地元の魚の郷土料理ですね。味が濃いのでヒトを選ぶかもしれませんが、美味しいですよ」
「おお、それは是非とも食べてみたいですね」
「ところでスマルト君の好きな食べ物はなんです?」
「ハンバーグとペリメニでしょうか」
「ペリメニ?」
「はい、お肉やお野菜を包んだ料理で――」
我が屋敷の庭にて、スカイとスマルトは楽しそうに会話をしていた。
スカイは今まで私が見てきた騎士として表情をあまり変えない様に小さく笑うモノや、何処か意地の悪い笑顔ではなく、微笑ましく相手を見守るような優しい笑顔であり。
スマルトの笑顔は愛しの相手と話せて心から楽しんでいるような、先程のアッシュをマネしたような貴族としての振る舞いとは違った、年相応の笑顔であった。
「……どうなるかと思ったが、あの様子だと大丈夫なようだな」
「ですね」
そんな二人の笑顔を見ながら、私とクロ殿は安堵の表情を浮かべ屋敷の陰から二人を見守っていた。
先程までは、再びスマルトが膝をつき告白し、スカイが断ると言うシーンを見て私達にも緊張が走ったが、今はこうして話せているようなので本当に良かった。
「……スマルト、本当にスカイの事好きだったのですね。兄として全く気付きませんでした……」
そして同じく陰から見守っていたアッシュは、安堵したと同時に複雑そうな表情で二人を見ていた。恐らく事が良い方向に進んでいるのは良いのだが、弟の成長に気付けなかった事が兄として複雑なのだろう。
とはいえ、弟があのように好きな相手との関係が上手くいっている事に関しては素直に喜んでいるようだ。そうでなければ弟が心配で陰から見守る、なんて事はしないだろうからな。
「しかし、スマルトはあんなにも情熱的だったんですね。あの大人しいと思っていた弟が、なんと大胆な……」
「アッシュ卿に対して色々言ってから、説教の途中でも抜け出してスカイに会いに行くほどですからね」
スマルトはどうやらお見合いの出会い頭の事に関して諫めていたらアッシュに反論して部屋を出て行ったそうだ。さらには好きな相手に好きな相手がいると聞いて、策略を練ってシキに単独で乗り込んだ事を考えると、好きな相手に対しては情熱的かつ盲目なのだろう。ある意味アッシュとの血の繋がりを感じる。
「というか、スマルトにあんな風に思われていたとは……ふ、ですが言われてもおかしくは無いのかもしれませんね……ふふ」
「あー……アッシュ卿、気にされないでください。スマルト君も悪気があった訳では無いでしょうから……」
……アッシュが妙に落ち込んでいるが、なにを言ったのだろうか、スマルトは。痛い所を疲れたとばかりに落ち込んでいるが。
「ところでアッシュとしては、スカイとスマルトが結ばれる事は良いのだろうか?」
アッシュが妙な形で落ち込んでいたので私は話題を逸らす。
今の質問の具体的内容は言わないが、私の問う内容は「没落間近のシニストラ家との婚約は侯爵家として問題無いのか」という事だ。あまりこういった内容は問いたくないが、どうしても付きまとう問題だろう。年の差以上に話題に上がる事であろう。
表面上はあまり感じさせないが、貴族の身分差にうるさいアッシュとしてはどう考えるのだろうか。
「弟が今まで見た事ない笑顔を見せる程に好きな相手との仲を引き裂くほど、心が無いつもりはありませんよ。結ばれる際には祝福しますし、うるさい輩は黙らせます。それに……」
「それに?」
「大きな問題があっても、あのスマルトなら大丈夫だと思えますからね」
どうやら私の心配は要らぬものであったようだ。アッシュもメアリーの影響で変わってきている、という事か。
「大体私の方が身分差が大きいのですから、とやかく言えませんからね……」
……確かにそうだな。メアリーは影響が大きすぎて忘れがちだが、平民であるし場合によってはクリームヒルトのように家から廃嫡されそうとも聞く。それにそのメアリーと結ばれた訳でも無いのにとやかく言える立場ではないか。
ともかく、アッシュの言う通り今のスマルトならばどのような逆境があったとしても、スカイのためなら立ち向かっていけそうだとは思える。問題はその逆境の一番がスカイを惚れさせる事が出来るかどうか、という点ではあるが……それさえ乗り切れれば、残りの逆境は大丈夫だとは確かに思えるな。
――しかし、ナニカが混ざっている、か。
だが、楽しそうに会話をする二人を見て気になる事が一つ。それはトウメイが言っていた「スマルトにはなにかが混ざっている」という言葉。見ている限りではなんの変哲もない可愛らしい子供ではあるが、どうしてもそれが気になってしまう。
とはいえ、同じように反応をしたマゼンタさんやヴァイスだって問題はないと言えるのだから、混ざっていた所で害を為さなければ問題が無いと言えば問題はない。ただの個性と言える。しかしハッキリさせないと気になってしまうのも事実ではある。
兄であるアッシュはなにか知っているかもしれないが……今聞くのではなく、ここから離れて聞いた方が良さそうだ。あるいはトウメイが今ハッキリと見ればなにか分かるかもしれないが、彼女は今頃部屋で退屈を持て余して――
「おいコラトウメイさん。部屋で大人しくしてると言ったのに、なに出て来てんですか」
……と思ったら、どうやらトウメイはこの場にいるようだ。
誰も居ない所に話しかけているので、傍から見たらクロ殿が危うく見えるが、そうではないという事だ。
「え。ミズ・トウメイ、居られるのですか。というかメアリーのようにクロ子爵もお見えになられるので?」
「ええ、見えますよ。今も裸マントで“ぐふふ、恋力に反応して来て見たら、良いモノが見れた”と痴女ってます」
「誰が痴女だ誰が」
「!? ……相変わらず慣れませんね」
「私の素晴らしき裸体は慣れる事無く素晴らしいと感じ続けるんだよ」
「そういう事ではありません」
相変わらず痴女という言葉に対してだけは否定をするトウメイが、クロ殿が見ていた先に浮いた状態で現れた。
どうやら大人しくしているつもりであったが、スカイとスマルトの恋力とやらを感じてこっそり見に来たようだ。……こうなると、今後もこういった事をしそうだな。
「彼がスマルトとやらか。こうして近くで見ると……」
しかし今はスマルトのナニカについて考えるとしよう。混じっていると言ったトウメイ自身が現れたのだ。一昨日に見た時は遠くて分からなかったそうだが、近くで見れば分かるかもしれない。
「…………。アッシュ、君は彼の兄らしいが、少々良いかな?」
「なんです? 言っておきますが弟の前にはいかせませんよ。変な興奮を与えたく無いので」
「そういう事じゃない。彼の体質なのだが」
トウメイめ、アッシュに直接聞くのか?
いきなりそのような事を聞いても大丈夫なのかと私とクロ殿は不安になるが、止めても無理に聞きそうだ。
「スマルトの体質ですか?」
「ああ、彼は……魔法を使うと目の色が変化するのだろか」
む、どういう事だろう。遠回しに聞いているだけなのだろうか?
「よく分かりましたね。スマルトは魔法を使うと属性に応じた瞳の色へと変化するんです」
「なるほど、彼は魔法適性が高いんだな。将来有望と言えるだろう」
「ええ。ただ珍しい体質であり、本人は他と違う事を気にしているんですがね」
「そうか。兄である君に言うまでも無いかもしれないが、あまり気にしないように言っておくんだぞ」
「ええ、分かっています」
「ああ、それと。精霊と契約している君と違い、ただの人間である彼の体質は、発作を起こしやすいから気をつけたまえ」
……ただの人間?
それはどういう意味だろうか。もしやスマルトにナニカが混ざっていると言ったのはただの勘違いであった、という事なのだろうか。
「もしやあの体質に詳しいので?」
「昔似た体質のヤツが居てな。その時に色々知ったんだよ」
「差し支え無ければその件に関してお聞かせ願っても――」
だがもし勘違いは勘違いでも、違う意味での勘違いであればどうだろうか。
そう、例えば――
――ナニカが混ざっている対象が、違う者だったという可能性がある、という事。
と、いう可能性だ。
おまけ 説教を食らっていたスマルトが部屋を出ていく前のアッシュとの会話の一部始終
「――スカイに一目惚れをしたかもしれません。ですがあのような想いの告げ方はよくありません。分かりますか、スマルト?」
「…………」
「聞いていますか、スマルト。好きという感情を伝えるには、もっと段階が――」
「……僕は、アッシュ兄様のようになりたくないのです」
「なんですって?」
「僕は、アッシュ兄様のように互いにけん制し合った挙句、好きな相手にはぐらかされて告白を伝えられないなんて事にはなりたくないのです!」
「ぐっ!?」
「ア、アッシュ坊ちゃま、大丈夫ですか!?」
「アプリコット様、アレが図星を突かれた反応というやつなのですね」
「正確には目を逸らしていた事を言われて痛い所を突かれた、だな」
「おい息子達、ちょっと黙ってろ」
「僕はスカイさんが大好きなんです! 恋や愛はまだ分かりませんが、この感情を抑える事は出来ないのです!」
「ですが、いきなり告白は――」
「好きになってアプローチを始めて、一年間も進展がないアッシュ兄様のようになりたくないのです!」
「ぐふっ!?」
「アッシュ坊ちゃま、お気を確かに!!」
「アプリコット様、アレは正に――」
「うむ、言葉の暴力であるな!」
「おいコラ息子達」
「確かにいきなりは良くなかったのかもしれません。ですが僕の気持ちは抑えられない! フラれるにしてもキチンと伝えてから諦めたいと思うのです! 決してアッシュ兄様のように告白も出来ずにいてもなお、“だけど彼女と過ごす日常が愛おしい”とか日和りたくないんです!」
「ぐぅ!!?」
「ぼ、坊ちゃまー!?」
「では僕は愛しいスカイさんに会いに行きますので、邪魔しないでくださいね、では!」
「ああ、スマルト坊ちゃま、お兄様をこのまま放置されないでくださいー!?」
「……どうするのだ、クロさん」
「……とりあえず俺は追い駆けるから、ここを頼む」
「了解した」
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