追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

流石にそこまで言われると照れもする(:空)


View.スカイ


「告白の返事、ですか?」

 告白。私がして一度失敗し、ずっと尾を引いていた代物。
 好きになるという事は世界の色を明瞭にすると同時に、世界を狭めて苦しませると思い知らされた物でもある。
 だがそれは私がした、叶わぬ恋の告白の話だ。
 スマルト君が言う告白は私の告白ではなく、先程の出会い頭のスマルト君が私にした告白の話だろう。

「……本気だったのですか?」
「本気、とは?」
「このお見合いは両家の顔合わせのような物です。無理に婚姻を結ぶ必要は無いのですよ?」

 しかしアレは告白ではあるが、私の告白とは違う告白だ。
 私の事をなにも知らないままの告白である。
 ティー殿下のように、見た瞬間に電流が走って即告白する、といった一目惚れの告白もあるだろうが、この子が私にするとは思えない。

「貴方はこれから素晴らしい女性に会う事でしょう。今日は婚姻という難しい事は考えず、このシキで色んな経験をしましょうか。どうです、私と手合わせとかして見ますか?」

 ティー殿下はクリームヒルトの可愛さと美しき気高さを見て告白したと言う。
 生憎と私はどちらも持ち合わせてはいない。美しさも可愛さも、儚さも可憐さも、凜とした内面も庇護欲を煽る外見も、僅かにはあるかもしれないが、一目惚れの要因にあるほどは無い。
 だからあの告白はお見合いという経験に舞い上がった結果だ。大人として優しく諭してあげて――

「なにを言っているのですか。スカイさん以上に素晴らしい女性など居るはずがないじゃ無いですか」

 あげ、て……

「私は貴女を見た瞬間に確信したんです。私は貴女以上に素晴らしく、美しい女性に会う事はないという確信を!」

 ……え、なにを言っているんです、この子は。
 …………んん? 素晴らしく美しい女性? 誰がです?

「二年前に見た時も美しかったのは知っていましたので、此度のお見合いでさらに美しくなられれているだろうと期待を胸に臨みました。しかしなんたる事か、貴女は私の想像をいともたやすく超える美しき女性へと成長されていたのです!」
「わ、私がですか?」
「そうです! 夜空のように美しい黒色で、星が輝くように艶のある髪に、今日の何処までも澄んだ青空のように引き込まれる瞳! そしてまさに騎士と言える凛とした佇まいが貴女の美しさを際立たせていて――そして、今日のドレスは貴女の可愛さをこれでもかと表現しています!」

 ……!?

「さらには目元が慈愛が籠って大人の色香に溢れて居まして、まさに見ただけで惚れるというやつです! 言葉を紡ぐ唇は美しいと言う他なく、それでいて可愛らしい。まさに魔性の唇でしょう」
「待ってください」
「それに顔が小さくて、立ち居振る舞いがこの庭に咲き誇る花々のように一本の筋が通っていて存在感がある。そして貴女という一輪の花は、この庭の数多くの花々よりも美しい」
「待って」
「故に私は貴女の表情を、全ての花よりも美しい笑顔を咲かせたいと望まずにはいられなかった!」
「待ってくださいと言っているでしょう!!」

 な、なんだというんだこれは。
 私は今なにを言われているというんだ。
 私が可愛いなどという世迷言であり妄言を言っている。
 ああ、そうか。最近雨が降っていたから気が滅入って幻覚を見ているんだ。そうに違いない。出なければ服を脱げば割れた筋肉が待っている私に言うはずがない。
 大人としてその幻覚を覚まさせてあげないといけない。

「お、落ち着いてくださいスマルト君。今はこの可愛らしいドレスのせいで錯覚しているかもしれませんが――」
「可愛らしいドレスと可愛いスカイさんが相まって、両方の可愛いをより際立たせていますよね」

 ええい話の途中で入って来ないで欲しい。さも当然のように言われると私も勘違いするではないか。

「コホン。それづの下は可愛さもなにもない身体を有しているんです。可憐さもなにも無い勇ましい筋肉があるんです」
「ああ、やはり。貴女の可愛らしくも騎士としての“芯”を感じられたのは、心身ともに鍛えたが故のものだったのですね。貴女の心を表すかのように綺麗であると思えますから」

 …………。はっ、イケない。騎士として褒められてしまい、ちょっと嬉しくなってしまった。違う、私はその程度の褒めでは勘違いなどしない!

「ちょっと程度では無いのですよ。スマルト君が本気でお腹を殴っても余裕で耐えられる身体なのです!」
「愛しのスカイさんを僕が殴る訳ないでしょう!」
「そこじゃないですよ! 可愛さもなにもない身体なんですよ私は! 見れば幻滅します!」
「み、見るだなんて……僕達そういうのは早いと思います!」
「論点そこじゃ無いです!」
「大体鍛えられた身体を見て幻滅ってなんですか。僕のような貧弱な身体と違うんですから、尊敬こそすれ幻滅なんてするはず無いでしょう、貴女の全てが可愛く美しいんですから!」

 くっ、手強い。手強いぞこの子。実際に見せる事で幻滅させるという手もあるが、今の私は上から下まで一体型のドレスだ。見せるとなればスカートを捲り上げてになるし、流石にそんなトウメイやシュバルツのような痴女めいた事は出来ないし恥ずかしい。
 しかしなんでこんなにも私を褒めるんだ。ここまで来ると社交辞令でもなんでもない様に思えてしまう。
 これでは本当に――

「僕は本気です。……以前までは、笑顔が咲く場所は僕の傍でなくとも良いと思っていました。貴女が幸せならそれで良い、と」

 本当、に……

「ですが今日お会いして、僕の傍で幸せになって欲しいという我が儘を抑えきれずにはいられなかった」

 …………スマルト君は、先程のように私の前に立つと片膝をつく。

「突然で信じられないかもしれんが、僕は本気です。そのために何度でも言いましょう」

 そして手を取って欲しいと言うように手を差し出すと。

「――どうか、僕と結婚してくださいませんか」

 変わらぬ意志と言葉で、私に求婚プロポーズをした。

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