追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

断章 -決闘後の作戦会議前-


 断章 -決闘後の作戦会議前-


「体調は大丈夫でしょうか、スマルト君。痛む所は?」
「大丈夫です。すみません、治療と回復までして貰って、しかも教会の一室で休ませて頂いて……」
「ああ、それなら神父様に感謝をしてあげてください。治療した方も彼が呼んだので」
「決闘の審判を受けた者として、当然だ」
「ありがとうございます。……ところで先程僕を治療したあの方、顔が見えなかったんですが気のせいでしょうか」
「気のせいじゃないですよ」
「……何故顔が見えなかったんです?」
「黒魔術です」
「……なんて?」
「黒魔術です」
「…………」
「そんな目で俺を見るな、スマルト。俺もオーキッドが顔が見えない理由はよく分からないんだ」
「良いんですか、それ」
「そう珍しい事でも無いからな。それとすまないな、スマルト。本当なら正式な医者を呼びたかったんだが、今のアイツは別件で集中していてな」
「別件ですか? 誰か怪我でも?」
「目の治療をしながら息を荒げて興奮していてな」
「……なんて?」
「私の娘と言える存在が目の治療をしてましてね。その治療です」
「何故興奮を?」
「そういう医者だからです。……ところで神父様」
「なんだ、クロ」
「アプリコットは助けを求めて無かったか?」
「見られはしたが、治療中に割って入る訳にもいかないから流石に助けられなかった」
「そうか。まぁ良いや」
「良いんですか!?」
「良いんですよ。腕は確かですし、治せるのならばそれで良いんです、ええ、多分」
「多分なんですね」
「はい。……ところでスマルト君」
「なんでしょう?」
「君はスカイの事が大好きなんですね?」
「ごふっ!? ……な、ななな、なんの事でしょう」
「スマルト、ここには俺達しかいない。そして他言しない事を誓うから、隠さずに話しても良いんだぞ。俺達は協力出来るのなら協力したいからな」
「ええと……それは、その……」
「それに下手に好意を隠すモノじゃ無いですよ。そうしないと“好き”という言葉を伝えず数ヵ月経って、初めて言葉にした時に愛する妻に泣かれる、なんて事もあります」
「そうだぞ。相手が鈍感なせいで好きという態度を示しても気付かれず。結局直接伝える事をしなかった結果、“ああ、俺も妹のように好きだぞ!”と家族のような態度しか向けられない、なんて事もあるからな」
「なんだかよく分かりませんが、その言葉に重さがあるのは分かりました」
「うん、事情があるならまだしも、ですがね」
「……そうですね。それにもう言ってしまいましたし、隠し立てする必要も無いですね」
「という事は……」
「はい、僕はスカイ・シニストラ子爵令嬢が好きです」
「おお、ハッキリと言いますね」
「はい。……そして気が付けば僕の好きな女性は、別に好きな男性を好きという事を聞いていました」
「お、おお……」
「昔パーティーで好きになり、でも立場的に気持ちを封印するしかないと思っていたんですが、突如舞い降りた絶好のチャンスであるお見合い。これを逃すまいと父様達に直談判をしたらまさかのOK。好意的に進めて貰う事になりました」
「へぇ、そうなのか?」
「ええ。僕がそこまで言う相手がいる事が嬉しかったようで。そしてこれでまた会えると喜んでいたら、彼女には好きな男性が」
「…………」
「好きな、男性が、居ると、聞き」
「…………」
「僕は絶望のどん底に突き落とされました。なにせ彼女に見てもらいたくても、彼女が別のヒトを見ているんですから」
「…………」
「クロ、目を逸らすな、なんか言え」
「無茶言うな」
「そしてその男性は今回のシキの領主と聞き、僕は色々駆使してシキに来ました」
「駆使……もしかしてだが、独りで居るのはあまり良く無かったりしないか?」
「はい、後で間違いなく怒られます」
「怒られるんだな」
「はい。それでも僕は会って勝ちたかったんです。スカイさんに僕は魅力的だと伝え、そして婚約を結ぶために……!」
「うーん、クロに勝っても伝えられるかは微妙だが……しかし、怒られるのを覚悟で来るとは、スカイの事を本当に好きなんだな」
「当然です! 僕は……僕はあのヒトの美しさと強さに惚れたんです!」
「強さ?」
「はい! バーガンティー殿下を護衛なさるあの凛とした佇まい! 敵に対して素早く対応出来る戦闘力! それもあの美しい筋肉によるものなんです! 暴漢から殿下を守られた時のあの表情と、チラッと見えた腹筋……本当に格好良くて可愛らしいんです!」
「お、おお。そうか。(……大丈夫かクロ。スカイは少年の性癖を歪めて無いか?)」
「(腹筋、という所に危うさを感じるな。けど大丈夫だ。普段隠されている異性の腹筋が見えるのは、男女問わず好きなんだよ)」
「(……そうだな)」
「(スノー、今シアンを思い浮かべて納得したな?)」
「(……してなくもない)」
「(したんだな)」
「どうされたんです。二人共?」
「い、いえ、なんでもありませんよ」
「そうですか?」
「ええ、褒めるのに躊躇いが無いから、スカイを好きなんだな、って思って話していただけです」
「はっ!? ……僕だけ話すのはズルいです」
「ズルいと言われてもだな……」
「けど分かりますよ、私は。私だって私の妻を好きなあまり、褒める事には全力を尽くしたいと思いますから」
「そうだな。俺も妻を褒めるのならば、言葉と行動で全力で示したいと思う。けど、難しいんだよな、自分の気持ちを伝えるって」
「そうなんだよな……ヴァイオレットさんに気持ちを伝えたいと思うと同時に、変に伝わっても嫌だという気持ちもあるし、引かれないかとか思うし……」
「クロでも悩むんだな」
「俺だって悩むさ。ヴァイオレットさんが大切だからこそ、慎重にもなるし、大胆にもなるってだけだ」
「……そうだな。負の感情を抱かせたくないけど、正の感情を自分の手で作りたい。大好きだからこそ難しくて辛いんだろうな」
「ああ。けれどその難しさの見返りは確かにある。辛いを行うのは結局弱みというやつだ」
「はは、惚れた弱み、か」
「そゆこと」
「…………。あのクロさん」
「なんでしょう、スマルト君?」
「クロさんは、スカイさんの事をどう思って……」
「魅力的な女性だとは思っています。……そして、俺は彼女に告白されたのも事実です」
「…………」
「ですが、私は妻を愛する身なのです。彼女の想いに応える事は出来ないのですよ」
「愛人などにもしない、と?」
「……他家がそういった関係を持つ相手がいるのは構いませんが、私はそういった関係は一切望みませんので」
「……そうですか」
「だから個人的にスカイが……スカイさんが、好きな相手と結ばれるのならば嬉しいと思っています。ですのでスマルト君」
「はい?」
「今回のお見合いを成功させるために、まずは――」

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