追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

順序立てて、行動する。


 付き合ってくれと、堂々と俺に告白を着た少年は真っ直ぐこちらの目を見て逸らさなかった。
 小柄な身長を少しでも大きく見せるかのように胸をはって堂々と宣言する姿は、勇ましくはあるがその特徴から背伸びをしているようにも見える。
 そんな少年の特徴というと、クリームヒルト150cm未満よりもさらに低いと分かるほどには小さく。
 髪と同じ蒼系統のつり目はつり目ではあるが顔達などから可愛いという言葉が先行し。
 全体的に細くてもっと食べた方が良いのではないかと思う体躯であり。
 しかしながら立ち居振る舞いは、見ているだけでも教育が行き届いていると言えるような良い子だ。

――ブライさんが喜びそうだ。

 そんな、ブライさんが見たら興奮しそうなので彼には会わせない方が良いと思うような特徴の男の子だ。
 ……男の子を見て、特徴を把握した後に来る最初の感想がそれというのもどうかと思うのだが、個人的には重要な事なので仕様がないと思う事にしよう。

――さて、付き合う、か。

 先程言われた瞬間は混乱したが、彼の言う付き合うとはどういった意味か。
 まずスカイさんの件も有ったので連想して最初に勘違いした、恋愛的な意味での「付き合う」ではないだろう。
 一番可能性が高いのは前世ではよくあった「一色さんよぉ、ツラ貸せや。裏まで付き合え」的な呼び出しだ。
 何処かの第二王子が居なくなったので噂の源は無くなったが、悪評はそうすぐにはなくならない。故に悪名高いシキ領主を正義の名のもとに俺を退治しに来た。だから喧嘩に付き合え、という事もある。

――前もあったし、神父様も最初はそうだったからな……

 なにを馬鹿な、と思われるかもしれないが、俺は何度か経験がある。
 シキに来て領主になりたての頃の神父様も俺を目の敵に近い形で見ていたし、ヴァイオレットさんが来る前に何度か経験がある。
 不正を許せない冒険者とかが、虐げられた領民を救うために俺を倒そうとしたり、糾弾しようとしたりといった事だ。
 そしてこの少年はなんというか、俺に対して「戦うぞ!」的な視線を向けて来るのでその意味での“戦いに付き合え”なのかもしれない。

「付き合え、か。理由を聞いても良いでしょうか?」

 ……うん、どうするにしても、まずは相手の様子を見てから判断しよう。
 なにをするにしても、まずは相手の話を聞いて、彼の話に関して自分で考えるとしよう。

「えーと、貴方は……」

 そもそも彼が誰なのか分からない。俺を子爵と分かった上で喧嘩を売るなら俺より身分が上の子なのかもしれないし、あるいは悪であるなら身分は関係ないという子なのかもしれない。

「俺が付き合って欲しい、というのはですね。あ、というのはだな。それは……」

 そして少年は俺の名前を聞きたい気持ちとは裏腹に、最初に聞かれた付き合うの理由を言おうとする。
 意図的に無視しているという訳では無く、どうも自身の行動に興奮状態で余裕がない、という状態のようだ。無理して強がる言葉を使おうとして結局は敬語になっているし、あまりこういう事に慣れない子なのかもしれない。

「俺と決闘してもらう。そのために俺に付き合えという事だ!」

 そして少年は俺に向かって“ビシッ!”と指をさしそうな勢いで決闘を申し込んで来た。
 やはり付き合えというのは「ツラ貸せや」という意味であったようである。
 懐かしいな、この感覚。前世ではよく喧嘩を売られ、“個人対個人”から“数人体個人”になり、段々と“集団対個人”になっていったっけか。
 あの時の俺一人に集団で挑んでくる弱虫の輩と比べると、一人で挑んでくるこの子は勇敢で良い子に思えて来るな。

「分かりました。いつしましょうか?」
「え、良いの?」
「はい」
「……そ、そうか。では今日の夕方、迷惑にならないようにあっちにある広場……は、子供が居たし、ええと……」
「では教会前でやりましょうか。あの場なら護身符もすぐ用意できますし」
「教会……目立たないかな?」
「誰かに見られるのが嫌ならば、教会の裏手にでも」
「うん、じゃあそこで――じゃない、ではそこで決闘だ!」
「はい、分かりました」
「良いか、逃げるんじゃないぞ。俺は決闘で貴方に勝ってみせるからな!」
「その時間まで待機する宿屋を紹介しておきましょうか。宿泊費を節約したいのなら教会でも良いですが……あ、親御さんも含めて」
「ちゃんとお金は俺の分を宿屋の御主人に払ってある、気遣いは無用だ! ……でもお気遣いありがとうございます」
「いえいえ」

 うん、なんだろう。根は良い子なのがあざといくらいよく分かる。善良ではあっても自分の都合や生き様をまい進する何処かのシキの領民達とは大違いである。
 そしてこんな小さな子が宿屋に泊まるお金があるとも思えないが……“俺の分”という辺り、親御さんも居ないようだし、やはり何処か貴族の子で、なにかお忍び的な感じて来ているのだろうか。だとしても護衛やお付きが居ないし気配がないのは気になる所だが。

「しかし、私に勝ってどうするんです?」
「決まっている。俺は貴方より強いと証明するためだ!」
「はぁ、強い、ですか」
「そうだ! ではな、もし仕事の都合上戦えない場合は宿屋の五号室まで連絡を! 来なくても都合がつかなかったのだと諦める。晩御飯の食べた後くらいまでは待つからな!」

 めっちゃ気を使ってくれている。
 もしかして途中からアポなしで決闘を申し込んだ事を申し訳ない事をしたとか思い始めたんじゃなかろうか。

「……行っちゃったな。……強い、か」

 結局名前を知る事無く去った少年を見送り、俺は少年の言葉を呟く。
 俺は肉体のみ、武器有りだけの戦いならば大抵の相手に勝てる自信はある。
 以前の騎士団での戦闘で見た、素の身体能力で分身とか太刀を三方向からほぼ同時攻撃とか訳分からん事をしていたクレールさん相手でも善戦は出来ると思う。
 だが魔法を含むと俺より上は多く居る。騎士団相手では戦えたものの、多分魔法をふんだんに使ったクリームヒルトとか相手したら良くて押され続ける中逆転の一発にかけるくらいだ。

――彼、俺の事を知っているみたいだったな。

 けれど彼は俺の顔などはハッキリとしない中、俺の事を“強い”という確信をもって決闘を挑んで来た。でなければ俺を倒して強いという証明をしようとはしないだろう。
 それと、もう一つ気になる事がある。

「なんか、さっきのグレイと似ていたな」

 彼が俺を見る目や表情。それは先程グレイがカーキーの前に立っていた時と似たような感情を俺に向けていた。
 何処となく申し訳ないと思いつつも、その申し訳なさを上回る、あの時のグレイと同じ感情があるように思えた。だから無理をしてでも決闘を申し込んだんだと思う。そんな風に思える。

「……さて、仕事するか」

 トウメイさんの来訪、スカイさんのお見合い、最愛の息子グレイ達の帰郷。そして今回の決闘の申し込み。
 いきなり立て続けで起きて混乱するし、全てをこなすのは面倒で大変ではある。
 だが、どれかを疎かにして良いという訳でも無い。全てをこなすのは難しいが、全てをこなそうと順序立てて向き合わなければこなす事は出来ない。なんとなく全て上手くいった、などという事は無いのだから。

「……よし、この仕事終わったらヴァイオレットさんに癒されよう」

 そしてまずはそのご褒美のために頑張ろうという気力を持つ事にしよう。
 なんだか言葉が死亡フラグっぽいが、頑張るぞ、俺!

「おいクロ坊! ここに素晴らしき少年が居た気がするんだが、何処に行ったか知らないか!」

 よし、まずは何故か既に誰かと戦ってきた後かのようなこの男をどうにかする事から始めるとしよう。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品