追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

実家のような安心感(:灰)


View.グレイ


「しかし、大変だな貴族も。私には分からない世界だ」
「トウメイ様はそういった事にあまり関わりが無いのですか?」

 一応とは言え貴族私達が護衛をつけるのだからそれなりの身分の方だと思ったのだが、この口振りから察するに貴族でないと言っているように思える。

「私は今までの人生の半分以上を戦いに明け暮れて来たからな。あまりそういった事は分からないんだよ」

 それは意外であると言うべきか。戦いとは無縁そうな綺麗な身体と性格であるので、その言葉には驚いてしまう。
 やはり今のようにふわふわと浮きながら全裸で戦ったのだろうか。防具など無しに己が身のみで戦うトウメイ様は私が思っている以上に凄い御方なのかもしれない。

「だが、恋力は大好きなんだ」
「コイヂカラってなんですか」
「それはな、スカイ。空虚な心を満たしてくれる万物の力だ。恋する、愛する力。すなわち恋愛。他者を愛する様を見てニヤニヤするのが、私の望む平和な世界の在り方なのだよ!」
「そ、そうですか」
「そして私は姿を消せるからね。間近の特等席で見る事が出来るんだよ、やったね!」
「ろくでも無い事はしないでくださいね」
「好きな関係は両片想い! 早く結ばれろと言いたくなる関係を見つけたら迷わず間近で眺めるさ!」
「ろくでも無い事はしないでくださいね!?」
「アプリコット様、これ知ってます。恋愛脳、ってやつですね? メアリー様から聞きました」
「今回は……うむ、合っているな」

 なるほど、アプリコット様が正しいと言うという事は、トウメイ様の語る内容は恋愛脳。
 そして私も恋愛を見る様は大好きなので、私は恋愛脳だ。帰ったら私は恋愛脳であると父上達に伝えるとしよう。

「ああ、そういえばスカイ。今回のお見合いの相手はどんな相手なんだ?」
「どうしました急に」
「私は貴族の見合いもよく分からんし、スカイにとってあまり望まぬ見合いのようだが、良縁の可能性もあるからな」
「良縁だったらニヤニヤして眺めるんですか?」
「望むのは恋愛初心者がやりがちな、初心なたどたどしい会話だ」
「望まれてもしませんからね!」

 おお、普段の仕事モードであれば冷静に対応するのにも関わらず、スカイ様がトウメイ様に大声をあげている。
 このように取り乱すのは珍しい――はっ! まさかトウメイ様はスカイ様がお見合い前で緊張している事を悟り、解すためにわざとあのように言っているのではないだろうか。流石はトウメイ様、常時裸で己が肉体に誇りを持ち清廉潔白であるが故の、他者の感情に向き合えるという事なのか! 

「グレイよ。恐らく今考えているのは違うという事は分かるぞ」

 だけどなんだかアプリコット様に違うと言われた。何故だろう。

「だが、そういえばスカイさんの彼方の夢噺モンテクリストの相手は詳細は聞いてなかったな。アッシュさんの弟とは聞いてはいるのだが」
「モンテ……? ええ、アッシュの弟ですよ」
「昔からの知り合いであろうか?」
「知り合い……というには難しい、昔ちょっと会った程度の間柄ですね」

 スカイ様の話では今回のお見合いの相手とは、過去にシャル様経由の関係で出た数年前のお茶会で出会った事はあるそうだ。
 名前はスマルト様。年齢は来月で十一。私は先月誕生日を迎えたので、私の一つ下になる。その時の印象では大人しい子であったそうだが、彼と出会ったのが数年前となればあまりあてにはならない印象だろう。さらには、

「それにその時の私、無自覚ですが初恋したてで、スマルト君の事も含めその時のお茶会の相手とかよく覚えてないんですよね」

 と、いう事らしい。……スカイ様の初恋については聞いてみたいが、今は我慢だ。
 ともかくその程度の間柄であり、スカイ様的には相手の年齢も含めてこのお見合いは格好だけのものだろうとの事だ。
 スカイ様の御祖父様がなんらかの方法でオースティン侯爵家と見合いを取り付けた結果、侯爵家は長子であるアッシュ様はなく、幼いスマルト様を出す事で一先ずのお見合いという形を作っているのではないか、という話である。それほどまでに今回のお見合いは相手に利益が無いので、むしろ父上……クロ様とヴァイオレット様との繋がりを得るための建前見合いではないか、とスカイ様は仰った。

「しかしそうなると……スカイ様はティー君の護衛の仕事を続けられる、という事でしょうか」

 スカイ様の仰ることが正しければ、お見合いで婚約が結ばれる事は無いのでスカイ様が以前から不安の材料であった、“相手の家に嫁ぐため、ティー君の護衛の仕事は外れる必要がある”というのが無くなるのではないだろうか。

「そう簡単だと良いんですが、私の場合は下手に断られたり、御爺様のやり方次第では貴族でなくなりますから、それはそれで護衛から外れるんですよ」
「無理に取り付けた弊害、というやつであるな」
「そうなります」

 むぅ、難しい話だ。つまりはスカイ様は色んな相手に板挟みになりながらも、現状を崩さぬように方々に良い印象を残しつつお見合いを流さなくてはならない、という事か。スカイ様がここ最近いつもより覇気がない理由が分かった気がする。

「まぁ、私の事は私が頑張りますよ。アプリコットとグレイは公休で故郷に戻れてラッキー、くらいに思っていれば良いんですよ」

 スカイ様はそのように仰るし、実際問題スカイ様の問題なのだろうが私もアプリコット様も、協力出来る事は協力しようとは考えている。差し当たってはスカイ様のお見合いが悪くならないように、クロ様達と協力して良いモノに仕上がるよう料理や装飾を頑張る予定だ。

「しかしシキか。どういう地なのか楽しみだ」

 相変わらずふわふわと浮き、マントがたなびかせて綺麗な肌が見え隠れするチラリズムと大胆を行きかう魔性の女性であるトウメイ様がスカイ様のお見合いの話を聞き、これ以上は今はあまり突っ込まない方が良いと判断したのか話題を変えて来る。適当に変えた訳では無く、トウメイ様自身気になっていた内容ではあるようだ。

「君達の故郷だそうだが、先程の反応的に良い土地であるように思えるが」
「はい、とても素晴らしい場所です!」
「はは、良い返事だ。詳しく聞きたいが……」
「お話しましょうか?」
「ありがたいが、前情報を少なくして実体験で味わいたいからな。この目で見てから説明を頼むよ」
「はい、分かりました!」

 スカイ様のお見合いも大切だが、こちらも大切だ。
 トウメイ様はしばらくシキに滞在される予定のようであるし、気に入ってもらえるように案内を頑張るとしよう。

――それに、皆様と会えるのがやはり楽しみです!

 シキを離れてから半年も経っていない期間ではあるが、それでも私がシキを離れた期間としては一番長い期間だ。この程度で懐かしくなっていては独り立ちする力に乏しいと言えるかもしれないが、やはり楽しみである。
 なにせ首都では大人しい方々が多く、シキでの騒がしさが懐かしいですからね!







「いやー、ごめんねオーキッド君。あのままだとキノコが大繁殖して一本の木となり、キノコ大樹となって周囲一帯に胞子を撒き散らす所だったよ」
「ククク……例には及ばないさカナリア君」
「ところでさっきの大きな口はなに? 食べたみたいだけどお腹壊さない?」
「黒魔術により亜空間に繋げて開いた際に出た、亜空間の捕食者さ。全てを消化する生き物だから大丈夫だよ」
「なるほど……エルフだから理解したよ!」
「ニャー(エルフ関係無くない?)」

「ち、違うんですよアイボリーさん! これは怪我では無いのです、愛する刃物を愛でた事による愛の証なんです!」
「やかましい怪我は怪我だ! この身体に刃物を巻きつけて怪我をする刃物好きめ! 大人しく治させろ愚患者めが!」
「嫌ぁ変態! 夫が居るのに手を出すなんてー!」
「そこに座れ愚患者。大人しく座れば俺の医療行為を変態扱いにし、性的扱いにしようとした事を不問とするが、しなければ最も痛いやり方で治す」
「あ、はい。ごめんなさい、調子に乗りました。全部脱ぎます」
「分かれば良い。あと全部は脱がんで良い。――はぁ、はぁ、怪我……!」
「うん、やっぱり変……いや、それよりも脱いでも身体に興味を持たれないのは……うん、なんだろう……」

「なんだか俺の生きる希望の少年が帰って来た気が……」
「なんだか素晴らしい声を持つ方が帰って来た気が……」
「なんだが興奮する香りを持つ方が帰って来た気が……」
『…………』
「この変態めが!」
「お前に言われたくない!」
「何故か分からないが素晴らしき御方を守るために戦う必要があるようだな!」
「良いだろう、若造兄妹。俺の少年愛を舐めるなぁ!」

「ぶくぶくぶく……」
「ねぇ、ロボお姉ちゃん。エメラルドお姉ちゃんが泡を吹いているけど、だいじょーぶかな?」
「大丈夫デスヨ。先程中和ヲシテオキマシタノデ、タダ泡吹いてイルダケデス」
「そっかー。じゃあここに座らせておいて……よし、行こっかロボお姉ちゃん。湖畔までゴー!」
「ハイ、ソレデハ掴マッテイテクダサイ――極大促進動力源最大稼働! 蒼キ光ヲ持ッテ目的地マデ発進、トウ!」
「とーう!」

 早めに馬車を走らせたため、昼過ぎには着いたシキの地。
 そして降りるなり、つい懐かしく感じてしまう光景が目の前に溢れていた。これは正に……!

「半年も経っていないのに、懐かしく思うこの感じ……クリームヒルトちゃんの仰っていた、実家のような安心感、というやつですね!」
「うむ、分かるぞ。やはりこの騒ぎは我達の還るべき理想郷と思えるからな!」
「ですね!」

 ああ、やはりシキは良い地だ。
 帰って来ましたよ、我が故郷、シキ!

「ねぇ、スカイ。私、あまり外を知らないんだけど、大抵こういう感じなのか?」
「この地は少々……個性的なんですよ」
「大分オブラートに包んだ感じがするね」

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品