追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

声を聴くだけでも(:白)


View.メアリー


 色ボケしている私はともかく、今はアプリコットの――ではなく、スカイのお見合いの件です。
 スカイの祖父の勧めにより、シニストラ子爵家がスカイを誰かと結ばせようとしているというお話であり……決して、アプリコットの件ではないです。
 先日まで私はその事を勘違いしており、アプリコットにシャル君達と共に詰め寄った時、以下の会話がありました。

『グレイ君との恋愛を応援しますよ!』
『!? か、感謝するが、何故急にそのような事を……?』
『無理をされなくて大丈夫です。不都合な婚姻は望まないというだけです。それが友であればなおさらです……!』
『? そのような話ならスカイさんを応援すれば良いのではないか?』
『えっ』
『えっ』

 という話が合って、互いに内容を紐解いていくとアプリコットの婚姻の話は誤解であり、実際はスカイの話だった、という事を知ったのです。……本当になんであんなに混乱していたんでしょうね、あの話は。
 そしてなんだかんだとスカイのお見合いの話を仕入れ、動向を見守ろうという話になり、情報収集をスカイの幼馴染シャル君に任せていた訳なのですが……どうやらシキでお見合いをするそうです。

「もしかしてですが、今度グレイ君とアプリコットがシキに行く事と関連が?」
「恐らくはな。セッティングとはそういう事だ」
「あれ? つまり……アプリコットちゃんとグレイ君が仲介役とかそんな感じ?」
「そうなる。あの両名は来週初めにシキに行くからな」

 アプリコットとグレイ君は来週明けにシキに行く予定があります。
 それはある意味勘違いの元であったクロさん夫婦やシアン夫婦の結婚式に出席するため――ではなく、とある女性の護衛と引き渡しです。
 その女性は罪人であるという訳ではありませんが、国の重要人物であり、本人の希望ととあるお偉い御方の「……よし、混乱を招くから要望通りにしよう」という事でシキに行く事になったのです。そしてその際の引き渡しに地元という事と、ある程度の身分と戦闘力がある二人が護衛として選ばれたのです。
 本来は厳重な警備の元丁重に扱われるべき存在なのですが……色々あって、“しばらくの経過観察の後、安全が保障されればある程度自由にする”という事になったようです。……その結論に至るのに、レッド国王とコーラル王妃は大分頭を悩ませたようです。相手が相手ですし、その相手も「少しなら大人しくするけど、しばらくになるとどうするか分からない!」などと困る事を言っていましたからね……

「ところで、護衛で引き渡す女性とはどのような女性なんだ?」

 引き渡す女性に関してシャル君は存在を知りません。若返り騒動の件で解除の際に居たメンバーなどは知っていますが、彼女の……特性? によりあまり男性には目に触れない方が良いですからね……

「あはは、興味あるのシャル君?」
「女性に興味、というよりは護衛任務であるのなら、私も引き受けても良かったという話だな」
「女性が危険な相手だったら困るという感じかな?」
「そうなる。彼らは魔法には優れても、身体能力的にはどうしても後れを取るし、私は誰かの傍で守る護衛の経験はあるからな」
「なるほど。でも護衛から帰って来る頃に“色を知ったね!”とか言われたくないのならやめた方が良いよ」
「……グレイは大丈夫なのだろうな」
「あはは、大丈夫大丈夫」
「クロは大丈夫なのだろうな」
「……大丈夫!」
「その間が気になるな」

 クリームヒルトの発言に「どういう意味だ」とは聞き返さず、“シキに引き渡す”という点からおおよそは察し、グレイ君の心配をしたようです。……シャル君、なんだか対応に慣れている気がしますね。そして二人共クロさんの事も本気で心配なんですね。私も心配ではありますが。

「話を戻すが、スカイは“最近王族と懇意にしているクロ子爵”の監視の元、“学園で仲が良く昔からの顔なじみでもあるオースティン侯爵家”と“クロ子爵の子供二人が仲介して見合い”をする訳だ」
「つまりはスカイの祖父が見合いと言う名の婚約締結とクロさんの様子見をしたい訳ですね」
「あはは、失敗したら黒兄の顔に泥を塗るから、二人と知り合い故に下手に断れないとか思ってそう。……スカイちゃんのお爺ちゃん、処す?」
「処すな」
「冗談だよ」

 何処で情報を仕入れたかは分かりませんが、なにかと仲の良い貴族を仲介にすれば孫娘も変な気は起こさないだろうし、上手くいけば侯爵家との繋がりゲット。そして最近いろんな噂があるクロさんの様子の直接確認をする良い機会だ! まさに一挙両得! とか思っていそうですね、スカイの祖父そふさん。

「クロさんにとっては逆効果でしょうがね。無理な婚約とか望まないでしょうし」
「“貴族の間の悪評? 今更だ!”とか言いそうだよね」
「だろうな。とはいえ、決められた以上はお見合い自体はするようだがな」

 決定した以上は、お見合いを始める前にご破算にしてしまったら、アッシュ君やスカイの今後に影響が出る……という感じでしょうかね。

「でもそうなると、別に邪魔しなくても良い感じなのかな?」
「そうですね。シニストラ家の今後については気になる所ですが、無理に結ばれるという事はないでしょう。……いえ、ですがアッシュ君の御両親はどうなのでしょう」
「あー、そっちが乗り気の可能性もあるんだね。でもそこまで来ると私達じゃどうにもならないからなぁ……」
「ですね」
「スカイちゃんとアッシュ君か……場合によってはそのままゴールインの可能性もあったり?」
「……ん?」
「そうですね、場合によっては可能性もありますね……意外とお似合いだったりするのでしょうか」
「あはは、恋って言うのは私が恋をティー君としたりするから、未知数だからね」
「おや、あっさりと認めるんですね。今までは誤魔化していたのに」
「あはは、私も思う所があってね。ところでメアリーちゃん。アッシュ君がお見合いをキチンとするためにも今の内にフッとく?」
「……あの、私の好きな相手はまだアッシュ君ではないと言った訳では無いのですよ?」
「え、そこで誤魔化すの。今更じゃない?」

 ……そういえば今更ですが、私の好きな相手って誰だか特定されていますよね? 少なくともクリームヒルトやシャル君には特定と確信を得られている気がしますが……もしかして……

「……これって他の皆さんにもバレていたりするのでしょうか」
「うーん、スカイちゃんや生徒会長さん、アプリコットちゃん辺りはなんか察しているかもだけど、他は微妙だと思うよ」

 そうなのですか、それは良かった……のですかね? それだけに察しられていると、他の皆さんにも気付かれている気がします。
 ……アッシュ君に関しても、もしかしたら私の心情がバレた結果が今回のお見合いに繋がっているという事もある気がしてきます。自意識過剰でなければ良いのですが……

「二人共、なにか勘違いしているかもしれないが、今回の――」

 と、私が若干の不安を抱いている中、シャル君がなにか言おうとして。

「メアリー! それにシャルにクリームヒルト、戦闘をしていたのか」

 その声が、聞こえてきました。
 少し前は聞くだけでどうしてして良いか分からなくなるほど混乱し、最近では聞くと何処となく心が弾む声になった声。
 まっすぐかつ凛々しく、文字通り王子のような爽やかな声の持ち主は――

「おや、こんにちは。どうかしましたか?」
「先程凄まじい魔法を感知したからな。もしやと思い来てみたが、やはりメアリーだったようだ」
「ふふ、それでどのような魔法なのか知りたく思い、来た訳ですか?」
「そうだな。是非知りたいと思ったよ」
「そう言われては仕様が無いですね。……では、実際にお見せしますが、条件がありますよ?」
「条件?」
「ええ、先程は模擬戦闘で高揚したので出来た魔法だったんです」
「なるほど、つまり俺に高揚させるほどの戦闘を相手ができるか、と問いたいのだな?」
「その通りです。私は戦闘は可能ですが……やりますか?」
「ふ、望む所だ! ……だが、魔力は大丈夫か?」
「護身符の魔力を肩代わりして頂ければどうにか出来るまで回復させますよ」
「よし。では準備をするとしよう」

 彼との会話で私は再び戦闘準備に入ります。
 先程の戦闘ではクリームヒルトもシャル君も強かったので、これ以上の戦闘は難しかったのですが……それでも彼と戦闘で切磋琢磨できるというのなら断るという選択肢は有りません。
 ああ、楽しみです。早速強くなった私を見て貰わなくては!

「~♪」

 しかしそれにしても、クロさん達などを見て少し不思議には思っていたのですが、今なら彼らの気持ちも分かります。
 こんなに力が湧いてくるなんて、恋愛って素晴らしいのですね!





「ねぇシャル君。早めにフラれて良かったね」
「どうした急に」
「もし未練があったら今のメアリーちゃんを見て耐えられるって言えるかな、って」
「言える事は言えるが、言えるだけだろうな」
「複雑そうだね。今は?」
「大切な女性と親友が結ばれそうなのだぞ? それを祝うのは当たり前だ」
「強がり……じゃないようだね。成長したねぇ、よしよしをしてあげようか?」
「しないで良い」
「それで、さっきなに言おうとしたの?」
「それは……まぁ、後で言うさ」
「そっか。……私も頑張らないとな」
「クリームヒルトは頑張らずともティー殿下に充分好かれていると思うがな」
「あはは、まだなにに頑張るか言ってないし、相手に好かれているからそれで良い、という問題じゃないからね」
「……そうだな。恋愛とはそういうものだな」
「だね」

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