追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
時すでに遅し(:淡黄)
View.クリームヒルト
「ほうほう、なるほどなるほど。これは確かに私の魔力を通じての事だな」
若くなった男の子以外の男性陣は別の部屋に待機し、トウメイちゃんは皆を観察していた。フワフワと宙に浮きながら、外見から中身まで見通すかのように観察している。
「浮いてる……全裸で……。クリームちゃん……あのヒト……大丈夫なの……?」
「あはは、大丈夫だよ。多分」
「多分……なんだ……でも……急に現れたし……凄いヒトなのかな……あの格好は……凄いのは確かだけど……」
トウメイちゃんの姿だが、私とメアリーちゃん以外には見えていなかった。
そして一度見えない状態を解除した後は全員認識したのだけど、再び姿を消すと皆には見えなくなっていた。どうやら私とメアリーちゃん(と多分エクル兄さんも)にはあの見えない効果が発揮されないようだ。なにか法則性があるのかもしれないけど、そこは今問題ではないだろう。
「しかし、あのままで良いのですかね?」
「どういう事かな、ゴスロリスカイちゃん」
「その呼び方やめてください。ええと、若返っているとはいえ男の子ですし、あまり教育に良くないのではないかと思いまして」
「うーん、大丈夫じゃないかな」
先程トウメイちゃんが姿を現した瞬間に、皆の前に立って護衛の立場を果たそうとしつつ武器を構えようとしたけれど、自身の着ている服の事を忘れていてゴスロリ戦闘態勢という格好になっていたスカイちゃんが聞いて来る。
若返った皆は謎の全裸女性浮きながらこちらを観察しているという事で、警戒心を抱きながらメアリーちゃんに懐いている状態である。
「ほうほう、君達は珍しい魔力を有しているようだ。特に君は変わっているね、是非よく見せてくれ」
「い、いやだ……! メアリーお姉ちゃん、助けて……!」
「むぅ、照れなくて良いのに。そしてそちらの赤髪の少年は……なるほど、加護ぞ有りというのは的外れではないようだ。良く見せてくれたまえ」
「……嫌だ。お前のような羞恥心の無い女に見せるモノなど無い」
「見れるうちに見ておいた方が良いぞ? こんな綺麗な身体を見逃すなど、将来後悔するぞ? ほれほれー」
『……ぅ……!』
「……トウメイ。あまり二人を困らせないでください」
そしてスカイちゃんが心配した男の子の内の二人、ヴァーミリオン殿下とシルバ君。特にシルバ君は恥ずかしそうに目を逸らしている状態だ。いくら女性にうんざりしていたり、人間不信気味の時期であろうとも、トウメイちゃんは刺激が強いようである。
「ほらほら、この子のように真っ直ぐ見て良いんだぞ? 男の子なんだから素直になって良いんだぞ?」
「じー……」
「グレイと言ったな。興味を持つのも仕様がないし、相手は晒す様な変態であるが、あまり見るのも失礼であるぞ?」
「え、ですがアプリコット様。このような格好の時の主様に対しては、目を逸らすと怒られますので……」
「む? ……つまり、興味がある訳では無く、変態に対して危機感を抱いて見ているだけ、か」
「? はい、それ以外になにか……? あのような格好はわたしを本気で虐める際のコウフン状態なので……」
「……というわけだトウメイ氏。今の貴女は彼の主である男の変態貴族と同列扱いだそうだ」
「おおう、興味があった訳じゃ無かったのか……」
グレイ君の方は……別の意味で心配だね。
黒兄がグレイ君は前の領主がやっていた周囲の奴隷への扱いの際にただ怯えて隠れ、黙って時が過ぎるのを待つしかなかった事から、性的関連を無意識的に避けているとか言ってたっけか。グレイ君自身は性的ではなく暴力系の扱いだったそうだけど、それでも性関連が怖い物は怖いのだろう。
「ところで、そちらの私ほどではなくとも太腿と鼠径部が美しい……ヴェールと言ったね」
「なにかな美しきトウメイ君。いつ鼠径部を見たのか気になるし、その宣言は私に対する夫の取り合い宣戦布告と捉えたいけど、どうしたのかな」
「そこはかとなく敵意を感じるね。若返ったのは君も含め六名と聞くけど、あともう一人は――む。胸になにか当たって……」
「ここに居ます」
「!? いつから私の前に……!?」
「ぷはっ。ええと、ジッとしていたら貴女が私に突っ込んで来たんですけど……」
「そ、そうか。なんかゴメン」
そしてクリア神にすら認識されにくいフォーンちゃんはなんなんだろう。神代のアサシンの加護とか受けていないだろうか。
「……大丈夫ですかね。あのような不埒でいい加減な女性に解決できるとは思えないのですが。……ところで今更ですが、なんで彼女は裸なんですか」
「なんでも服を着ると服が弾け飛ぶんだって」
「え……私の……お仲間……!?」
「フューシャ殿下。落ち着かれてください」
そういえば先程観察している所を見る限りでは、ヴァーミリオン殿下……というか、ランドルフ家に加護的な物を与えているのは確かなようだ。
そしてフューシャちゃんもランドルフ家であり、フューシャちゃんと居るとよく服が解れたりすることが多い。
……もしかして、フューシャちゃんってクリア神の加護の影響を大いに受けたから色々な事が起こりやすかったりするのだろうか。……いや、どうだろう。多分偶然だとは思うけどね。
「フューシャちゃんの仲間かどうかはともかく、彼女が優れている事は確かだと思うよ」
「……クリームヒルトがそこまで言う相手なのですね」
ともかく、スカイちゃんの心配も分かるけど彼女が優れた魔法使いである事は私とメアリーちゃんもあまり疑ってはいない。
姿が見えないと言ったのにエクル兄さんに見えたりした辺りは不安だけど、なにせ彼女は私とメアリーちゃんの魔法を全て見ただけで打ち消した。
多分アレは彼女の才覚だ。そして古代の失われし魔法による打ち消しとは違う代物。
彼女が生きた古代から現代にかけて魔法は強化、あるいは最適化《オプティマイズ》されているのにも関わらず、全く同種の魔法を使う事で完全に打ち消していたのだろう。ようするにあの瞬間に彼女は魔法陣を学んで、打ち消すために使いこなしたのだ。そう考えると彼女はメアリーちゃん以上の才覚を有していると言える。流石は神と崇められし女性、という所か。
「よし、では早速解決するとしようか」
――そしてそんな彼女なら今回の件も解決するのは簡単ではないか。そう思えてしまうのである。
「【■■■■■■】」
私達には聞き覚えの無い言語。あるいは認識できない言葉を詠唱するトウメイちゃん。
そして彼女を中心に複雑な、見た事の無い魔法陣が展開される。
恐らくあの魔法陣こそが若返りを治すために効果を発揮するのだろうが、私にはあまり分からない。ヴェールさんが魔法陣を見て目を見開いている辺り凄い魔法陣な事は分かるけど……ともかく、あれで治るのだろう。
「……あれ」
「どしたの、フューシャちゃん」
「ええと……あれって……若返りを……解消する……魔法陣なんだよね……?」
「うん、そうだろうね」
魔法陣の影響を受けないように、スカイちゃんに守られているフューシャちゃんが魔法陣を見つつなにかに気付いたかのような表情になった。
クリア神と王族は関与しているようだし、もしかして今の魔法陣が王族魔法関係する魔法だったりして、それに気付いたとかだろうか。
「皆着ている服は……今の姿に合う格好だけど……治ったら……そのままの服で……元の姿に……」
『あ』
フューシャちゃんの言葉に私とスカイちゃんが同時に声をあげ。
止める前に魔法陣が光を放って――放って……うん、とりあえず見ないようにしよう。
止める事が出来なかった私達に出来るのは、なにやら騒がしい部屋の光景を見ないようにするという、せめてもの情けであったと言えよう。
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