追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

興味が湧いてしまう(:淡黄)


View.クリームヒルト


「お身体に障りますよ。服の予備ならば部屋にありますから、よろしければとってきましょうか」

 先程まで見破られるものでは無いと自信満々に言っていたクリア神。
 しかしてエクル兄さんには普通に見破られたと言うか、見えているようだ。横暴で色々と勘違いをした交渉相手と話す時のような、なにがあろうとも受け流すといった営業スマイルを顔に浮かばせながらクリア神に対峙する。

「エクルさん。ええと、彼女の事はどのように見えていますか?」
「美しき女性であると思いますよ。その浮いている方法に関しては一度ご教授願いたいですね」
「あはは、エクル兄さん。遠慮せずに変態とか痴女とかいっても良いんだよ」
「ははは、我が妹よ。あまりそういう事を言うものじゃないよ」

 おお、笑顔で私は窘めるけど否定はしなかった。この辺りがエクル兄さんの交渉手段の一つと言える気がして来る。
 それにエッチィ全裸女性が居ようとも決して邪まな目で見ようとはしない。いくら怪しくとも健康的な若い男の子なら興奮や照れの感情が混じりつつ見そうであるけれど、決してそういった感情は混じっていない。大切なメアリーちゃんが怪しげな相手を連れて来たと警戒心を抱く視線である。……元女性だと、今の身体の異性の身体程度では興奮しないモノなのかな?

「コホン。私は変態でも痴女でもない。こちらの二人に助力を願われてきた魔術師、トウメイTo-Meiだ」
「ほう、助力。メアリー様」
「ええ、彼女ならば若返りの件を解決できるようなので」
「なるほど」

 初めは見破られた上に男性に見られた事にフリーズしていたクリア神だけども、気を持ち直してエクル兄さんに自己紹介をした。……胸の前で腕を組み、足は右足を前にして少し組んだ状態にしているのは羞恥ゆえだろうか。羞恥心はあったんだね、この人(?)。わざわざ隠さずとも髪とか謎の発光で局部は見えていないけど……そういう問題じゃないようだ。
 ちなみに偽名のトウメイは、いわゆる彼女の名前でる透明クリアの日本語読み的な感じだ。エクル兄さんも元日本人ではあるのであまり効かない偽名かもしれないけど、クリアと名乗るよりは良いだろう。

「服に関しては……諸事情につき着れないんだ」
「なるほど、そうですか。ならばあまり見ないようにしますが、中には女性慣れしていない男性の方もおられます。解決する前に彼らを別の部屋に待機させましょう。ですがその前に事情をお聞かせ願いますか?」

 女性慣れしていない男性。…………多分全員かな。
 ヴァーミリオン殿下やアッシュ君はそれなりに耐性は有りそうだけど、異性の裸となればエクル兄さんほど鮮やかに流せはしないだろう。シャル君は間違いなく異性の裸に弱いだろうし、シルバ君も間違いなく照れて可愛い反応をするだろう。グレイ君は邪まな感情を抱かず素直に褒め称えそうだけど。
 ティー君は………………彼って女性慣れしているのかな。誰にでも分け隔てなく接する事が出来るから多少慣れてはいるんだろう。昨日の下着の件や、私との人工呼吸ファーストキスを考えると初心ではあるようだけど。

――……ファーストキス。

 ……イケない、ファーストキスの事を思い出してしまった。四十年近く生きてようやくの事故的ファーストキスになにを取り乱しているんだ私。変な事を考えるな私。今はクリア神、もといトウメイの全裸に関してだ。このファーストキスどころか色んな意味なものを奪いそうな危ない存在に気をつけないと。

「――と、そんな感じだ」
「なるほど、解除系に長けた御方なのですね。……服は何故?」
「……清廉潔白を表しているんだよ。良かったな、美しき我が裸体を拝む幸福に巡り合えて。今後は最高の美しき裸体を知った事による物足りなさを味わうと良いぞ」
「女性の裸を見た事は謝罪しますが、見えた事自体は不可抗力であると思って下さると助かります」

 そして私が色々悩んでいる内に軽めの説明は終わったようだ。
 クリア神とか扉の事は内緒にし、解除系に優れ、ここに来るまでは持ち前の力で周囲に見えないようにしていた、などを話したようである。

「では、クリームヒルト。私とメアリー様は中に入り彼女の事は伏せ説明して来るから、彼女はそちらの部屋で待機しておいてもらえるかな。私に見える以上は他の人にも見えるかもしれないからね」
「あはは、りょうかーい」

 エクル兄さんはそう言うと、私とトウメイを残して部屋へと入っていった。
 マジックミラー越しに見える部屋の中では、メアリーちゃんが来た事にアッシュ君が暗祖した表情になり、駆け寄っていた。
 子供達は見た事の無いメアリーちゃんに警戒心を抱いて……抱いて……あれ、声は聞こえないけどすぐさま懐いたような気がする。あの警戒心の強いヴァーミリオン殿下やシルバ君もなんか懐いている気がする。……やっぱりメアリーちゃんってなにかフェロモン的な物を撒き散らしてはいなかろうか。
 と、それよりも早く別の部屋に避難しよう。ティー君に彼女を引き合わせたくないからね。

「……時にクリームヒルト。実は私は美しく無かったりするのだろうか」
「どしたの急に」
「ほら、美的感覚って時代と共に移り変わるだろう? それで実は私の顔や身体は実は醜く感じるものだったりするのか、と思ってな」
「そんな事は無いと思う気けど……なんでそう思ったの?」
「彼の魔羅が響いていないようだったからね。裸体の私を見れば興奮するだろう!?」
「あはは、魔羅言うな。それにそれだと、裸だった昔からそうなるんじゃないかな」
「裸体を見せても清廉潔白とか評される私がそんな目で見られたとでも?」
「自分で言うんだね。……というか反応されるような目で見られたいの?」
「見られたい訳じゃないが、裸体を晒して異性になにも反応されないのは複雑じゃないか?」

 なんとなく分かるような分からないような。
 見られて興奮する訳じゃないし、恥ずかしいけれど、裸体を見られて異性に子供をあしらわれるように反応もされない……複雑なのかな。よく分からない。
 例えばティー君に私が裸で前に出て、羞恥もなにも無く、男の子として健全な反応をされないとしたら…………どうなんだろう。よく分からない。
 私の貧相な身体だとそんな反応されてもさもありなんだからなぁ……外見的には攻略対象ヒーロー達を魅了するカサスの主人公ヒロインと似た外見ではあるから、それなりに整っている方だとは思うけど……アレは中身も含めてだから……うーん、今の私はどうなんだろう……?

「まぁ、整い過ぎて芸術を見ている感じなんだろうな、うむ!」

 そしてこの自己肯定力は見習いたいなぁ。エクル兄さんはシキの住民かと聞いていたけれど、間違いではないような気がして来る。シキの皆も自己肯定力高いからね。

「(しかし私が見える、か。他の者には反応されないからままならないほど弱まっているという訳では無いだろうが……“彼女らが居る”時に私が急に扉から出られたのも含め、なにか共通点が……?)」
「どしたのトウメイちゃん?」

 なにやら私にも聞こえない小さな声でトウメイちゃんが呟いていた。なにか気掛かりで呟く姿も絵にはなるのだけど、浮遊した全裸という時点でなんか複雑である。

「いや、なんでもない。ところで、先程彼や君達が言っていたシキという地はどのような地なんだ?」
「うーん、簡単に言えばトウメイちゃんが見える状態のその姿でフワフワ浮いてうろついても、それだけでは個性としてパンチが足りない感じの場所だね」
「……なんか是非行ってみたくなったな。興味が湧いたよ」

 パンチは足りないかもしれないけど、黒兄が聞いたら頭を痛めそうだね。







~その頃のシキのとある場所~


「――っ!?」
「――っ!?」
「どうされました、御主人様、御令室様」
「なにか身震いされているようですが……」
「な、何故かは分からないけど、領主として頭を痛める領民が来そうな気配がして……」
「今更ではないでしょうか」
「私もそう思います」
「言いますね、バーントさん、アンバーさん。否定できませんが……ヴァイオレットさんも、もしかして同じ悪寒が?」
「いや、私の悪寒はクロ殿を惑わす女性……領民が来そうな予感がして……」
「俺を?」
「御令室様。失礼ながら御主人様を惑わす女性は余程な相手でない限り無いかと思われますが」
「そうですね。御主人様は御令室様以外に惑わされる女性などおられるとは――」
「マゼンタさんやシュバルツよりもさらに躊躇わずに裸体を晒す様な感じだ」
「それはもはや常時全裸でないと駄目なレベルでは?」
「流石にそのような女性は来ませんよ」
「う、うむ、そうだな」
「あと例え来たとしても俺は惑わされないのでご安心ください」
「クロ殿……!」
「ヴァイオレットさん……!」
「……兄さん、買い物行こうか」
「そうだな、妹よ」

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