追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

可愛さの誘惑より優先すべき事(:淡黄)


View.クリームヒルト


「つまり彼らは原因不明の若返りが起きた、と」
「あはは、そうだね。記憶ごとだから、見た目通りの精神だよ」

 遅れて来たメアリーちゃんに部屋の中の状況に関しての説明をした。説明と言っても私がヴェールさんから聞いただけの内容であるため正確性には乏しい。

「若返り……つまり彼の……」

 けどメアリーちゃんであれば問題はないだろう。
 部屋の中の様子を見ながら呟く言葉からは、既になにかに勘付いたかのような面持ちだ。“若返った”という状況と、“若返ったメンバー”からなにかに結び付け、頭の中でいくつかの仮説を立て、一番可能性の高い予想を口に出して呟いているのだろう。
 こういった時のメアリーちゃんは本当に頼りになる。なんだかよく分からない内に、いとも簡単な事をしているかのように難しい事をやってのけるのだから。

「だけどメアリーちゃんが来てくれて助かったよ」
「そうなのですか?」
「あはは、解決の糸口もだけど、私達では面倒を見るだけでも精一杯だったからね。ほら、皆気難しい時期だからさ」

 老若男女から好かれているメアリーちゃんが居れば、子供になった全員の面倒を独りで見る事くらいは出来そうだ。例えそれが気難しい時期であろうとも、なんか溢れ出る母性的ななにかでお母さんと慕いそうである。

「それにほら、あそこに居るヴァーミリオン殿下とか可愛くない? 実に良い少年ぶりだよ!」

 私は部屋の外からなにやらシャル君やアッシュ君と言い合っているヴァーミリオン殿下をさす。
 ヴァーミリオン殿下は小生意気な少年感もあるが、可愛らしい事も確かだ。グレイ君は可愛い方面の美少年だけど、こちらはそれはもう絶世の美少年感がある。

――メアリーちゃんは可愛いと愛でる……!?

 そして小生意気な感があるからこそ、可愛げを見出したくなる。
 警戒心が強く懐かなかった動物が懐いてくれるような微笑ましさというのだろうか。あのヴァーミリオン殿下にはそういった類の庇護欲……つまりは愛でたい心。そういった感情が湧いてもおかしくはない。
 普段のヴァーミリオン殿下では感じられないだろう、子供特有の愛でたさを今見出して母性を発揮させるかもしれない……! そして出来れば元に戻った後にお互いに照れつつも、距離が近付き合わないかなとも思ったりする。イエイ甘酸っぱい青春!

「彼が昔の……」

 私に示されヴァーミリオン殿下の様子を眺めるメアリーちゃん。
 ただでさえ今日一日は彼が休みで落ち着いていなかったメアリーちゃんだ。あのような少年時代を見れば、今すぐ部屋の中に飛び組み、アッシュ君達の嫉妬するという光景をみられるやも――

「今すぐ戻す方法を早く見つけましょう」

 けれどメアリーちゃんは彼を見て真っ先に戻そうと私に提案をした。
 迷いもなにも無い、今の彼とも触れ合いたいと思ってすらいないかのような即断である。

「え、良いの?」
「良いのと言われましても。異常事態なのですから、早めに元に戻す方法を探るのは当然でしょう?」
「それは……そうなんだけどさ」

 間違いなくそうした方が良いのだが、こうも早く決断するとは。もっと「可愛いです!」とか言って見惚れた後、私に見られている事に気付いて取り繕うように言うかもとは思ったんだけどな。

「私は解除の方法を探しに王城に向かいますが、クリームヒルトは来ますか?」
「あの子達を直接見て調べるとかじゃ無くて、いきなり王城?」
「ええ、解決手段があるとしたら、まずはあの地下空間……正確には扉を調べる必要がありそうですから」

 扉。あの扉か……。
 オールという女性を妙な感じにさせていたり、黒兄にもまとわりついたナニカが居た扉。そのナニカはカサスだと“最も認めたくない過去を肯定出来るか”というイベントを引き起こしたり、中のクリア神とも呼ばれる謎存在と化して戦ったりする。
 正直言うとあんまり行きたくない場所だ。特に“認めたくない過去を肯定出来るか”の方。黒兄は大丈夫だったようだけど、私だと間違いなく捕らわれる。

「あはは、もちろん協力するよ!」

 けれどメアリーちゃんだけを行かせるという事はしたくない。
 何故かは分からないけれど、迷わず元に戻そうと決めたのは焦っているが故かもしれないし、私は行った方が良いだろう。本当はヴェールさんだけでも戻るのを待って連れて行った方が良いのかもしれないけど……多分、今のメアリーちゃんはすぐにでも行くつもりだ。
 他の皆は……面倒を見る事で手一杯のようだから、私だけでも行くとしよう。いざとなったら全力で連れ戻す事としようかな。

――あれ、この状況を何処かで見た事がある。

 私の実体験ではなく、もっとこう……「キチンと報連相しろ!」と言いたくなるような、物語における無理な力が働いているかのような……

「さぁ、早速行きましょうか!」
「あ、待ってメアリーちゃん!」

 いや、それよりも私少しも他に寄道すれば気せずにドンドン進そう勢いのメリーちゃん行動監視する方に注視しなくては。
 そしてあの地下空間で今回の一件を解決する糸口が見つかれば万々歳なのだから。

「……ところでスカイのあの格好は誰の趣味なのですか?」
「あはは、多分ヴェールさんかな?」
「……え、つまりアレはヴェールさんの私物!? クレールさんに喜んで貰いたくて持ってる感じですか!?」
「サイズ的にそうじゃないかな? でもクレール君のためとは違うと思うよ?」
「そうなのですか?」
「うん。あの格好は――太ももと鼠径部が見えないからね。クレール君の趣味じゃないと思うんだ」
「そこが判断基準なんですね……」





備考 スカイが着ているゴスロリ服の持ち主
研究機関の副所長の私物。
ヴェールに「似合うから着てみないか」と聞いたら、「太ももや鼠径部が見えないので、夫は喜ばないから着ない」と断られたようである。

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