追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

未知に対する大丈夫はフラグ(:朱)


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「つんでれシルバ様とハク様も呼ばれていたのですね」
「呼ばれていた事には同意するが、つんでれとやらではないからな」
「つんでれの意味が分かるのですか?」
「いや、なんとなくだけど否定しなければならない言葉だと思うんだ」

 王城の前で騒ぎ、門の衛兵が注意すべきかどうか悩んでいたシルバとハク。この両名も王城に呼ばれていたらしく、親子のじゃれ合いを止めてから共に王城内に入った。

「そうそう、私は息子の好意を素直に表せられない、反抗期つんでれを可愛く思いつつ、愛でながら登城していたんだよね」
「違うからな!」
「わー、息子が照れたー!」
「照れましたね」
「照れておるな」
「照れているね」
「お前ら……!」

 そして俺以外の皆が、ハクに同調してシルバを揶揄う。シルバはそれに対して王城内部であるからか、己を抑えつつ小さく震えている。……そういった反応が揶揄われる原因なのだろうが、シルバの性格上反応しないのは難しいだろうな。

「お前達、今は俺監督の下で王城内に居るんだ。あまり騒がないようにな」
『はーい』
「……はい」

 ともかく、場所が場所であるので注意はしておこう。
 それにあまり揶揄いが過ぎると虐めになる。その辺りはキチンと見極める者達ではあるし、シルバもなにかと楽しんではいるようだが。

――だが、シルバやハクも呼ばれていたとはな。

 シルバは過去に内に秘める魔力が少々特殊な事から、過去に“ちょっとした事”はあった。今はメアリーなどの活躍により落ち着いてはいるが、魔力を悪用せしめんとあらゆる団体とのトラブルがあったのである。
 そしてハクは生まれからして特殊なため、現在はヴェールさんが代表を務める研究機関内での生活をし、特定の区域から出るにしても許可が必要なはずだ。そんな彼女がシルバと共に王城に来た。
 俺達が呼ばれた事も含め、今日はなにがあるというのだろうか。あるいはシルバ達は別件かもしれないが、母さんと似た目を持つフォーン会長も呼ばれて今出会ったとなると、警戒心はより強くなるというものだ。

「ところでハク様。ハク様はシルバ様とお風呂に?」
「うん、研究機関で入った時があったから、親子水入らずでね。母としてはもっと食べてがっしりとして欲しいと思ったよ」
「実験で汗を掻いたからヴェールさんの厚意で使わせて貰ったら、ハクが乱入してきただけだろうが……!」
「ああ、分かります。母上もシキに来られた頃は痩せておりましたので、不安な事が多くありました」
「うんうん、身体はキチンと作って欲しいよね。あ、でもその後洗ってあげようとしたらがっしりと――」
「おいハク。それ以上言ったら本気で怒るよ」
「わー、こわーい」
「こわーいでありますね」
「こわーいであるな」
「こわーいであるね」
「お前達……!」

 ……なんだかコイツらを見ていると警戒している俺が馬鹿らしく――い、いや。警戒するに越した事は無い。ヴェールさんの名で呼ばれた事ではあるが、俺が警戒して気を引き締める事自体は良いはずだ……!

「君達、楽しそうだね」
「あ、ヴェール様。お久しぶりです!」
「久しぶり、グレイ君。相変わらず良い笑顔だ。皆も今日は急な呼び出しにも関わらず、来てくれてありがとう」

 そして件のヴェールさんが現れた。
 相変わらず魔女服がはまっているほどに着こなして似合っており、落ち着いた性格であり、大人びた余裕の笑みが似合う女性である。
 ……シャルの母親か。こう言ってはなんだがちょっと羨ましく思ってしまう。彼女のような落ち着きを母さんと母上も持って欲しいと思うのは贅沢な話なのだろうか。

「ヴェールさん、それで今日はどういった御用件であろうか」
「そうだね……あまり拘束させては明日に響くだろうし、歩きながら話そうか」

 ヴェールさんに対しては素直に敬意を示すアプリコットが尋ねると、これはまた格好になる様子でローブのマント部を翻しつつ、着いて来るように促した。

――そしてこの方向は……あの地下扉か。

 指定された場所に来て、ヴェールさんは以前戦ったランドルフ家の婚姻の儀(?)が行なわれた地下空間への方へと歩いて行く。
 これはやはりあの扉について調べる事が今日の目的といった所か。そしてシルバやハクも疑問を持たずに着いて来ている辺りは、二人を呼び出したのもヴェールさんなのだろう。

「とはいっても、難しい話じゃないんだよ。早い話が君達に調べて欲しい事があるんだ」
「我達学生に?」
「あそうだね。情けない話だが、私達では手詰まりでね。私達より若く優秀な力が欲しいんだ」
「ふふ、それはそれは……」
「アプリコット様、嬉しそうですね」
「ふ、世辞であろうと彼女にそういわれるのは悪い気はせぬからな……!」

 アプリコットがそういうのも無理はない。彼女の所属する王国直属魔道研究兼実働部門【トランスペアレント】は王国でも優秀な魔法使いの集まりだ。そんな彼女達に優秀と言われるのは悪い気はしないだろう。

――彼女達ですら手詰まり、か。

 しかし多くの者達を関わらせる事が出来ないだろうとはいえ、彼女達が手詰まりとは。
 故に特殊な視点や力を持ったり、優秀な人材である俺達を呼んだという所だろうか。……だとしたらメアリーを呼んでないのは不思議ではあるが。

「メアリー君は以前呼んだんだよ。でも、進展は無しさ」

 ……ヒトの心を読まないで欲しい。だが、そういう事か。

「ああ、ここだ。すまないが階段を降りるよ」

 ヴェールさんは歩きつつ、夢魔法などの事などは伏せて扉の事を説明し、それを見て感じた事を教えて欲しいと説明していると例の扉に続く階段へと着いた。着くと同時に現れた階段にこの階段の存在を知らないグレイ達は驚き、同時に未知の階段の先を楽しそうに見ていた。
 ……しかし、ヴェールさんと会ってからヒトとすれ違わなかった辺り、ヒト払いはしてある、という事か。用意周到であり、それを気付かにくい会話運びをしている辺りは流石はヴェールさんという所か。

「おお? 王城にこんな階段が――って、ハク、大丈夫?」
「……うん、大丈夫。大丈夫だから心配しないで」
「……無理はしないようにな。ほら、転ばない様に手を握れ」
「……うん、ありがとう、シルバ」

 そして階段を見た瞬間になにかに怯えるようになったハクを、シルバが気を使いつつ手を握って先導していく。……なんだかんだ言いつつ、仲良いな、この二人は。

「この地下への階段は最近調査を始めてね。階段の先は大きな空間に繋がるんだが……まぁ、見て貰った方が早いかな」
「危険は無いのであろうか」
「大丈夫だよ。私達は今まで何度も足を運んで調査をしているからね。それに……一応歴代王族はこの空間に足を踏み入れたという情報を得たからね」
「ほほう、歴代王族が……つまり王家に伝えられし紋章を引き継ぐための祭壇であるか……!」
「な、なんですって……!?」

 ワクワクしているアプリコットには悪いが、ただのランドルフ家の伝統の夫婦殴り合いの場である。一応は王国秘蔵の謎扉も有るのだが、ランドルフ家が戦闘大好きだという事を証明する空間である。
 ……メアリーと戦えたのはそれなりに愉しくはあったのだが、本当になんだというのだろうな、この地下空間。

「ははは、大昔には可能性はあるかもしれない事だね。そういった感じでドンドン私達にはない発想を頼むよ」

 ヴェールさんは一番前で階段を降りつつ、軽快に笑う。
 この場合の笑いは見下している訳でも無く、本当に感心しての笑いだろうか。あるいは怯えているハクと……どことなく緊張感を持っているフォーン会長に気を使っているのかもしれない。

「ともかく、着いたよ、ここだ」
「おお……広いですね」

 階段を降りきり、俺としては最近来たばかりの地下空間へと再び足を踏み入れた。
 グレイ達はこのような場所が王城にあった事に驚きと興奮を隠せないという様子であり、ハクはシルバの手をより強く握り、シルバはそれに呼応するように握り返した。

「実際に見て欲しいのはこの先の――」

 そしてヴェールさんはこの空間にある大きな扉を指し示し、俺達に見て貰おうとした所で。

「――え」

 “それ”は、起きたのであった。







~その頃のシキのとある場所~


「そういえばマゼンタさんって若返った……んですよね」
「そうだけど、どうしたの? 若い未成熟な身体の熟したテクニックを味わいたくなった?」
「以前の御姿を知りませんのであまり実感は無いですが、魔力が満ちて若返った……んですか?」
「おお、華麗に無視。そうだね相性の良い充分な魔力を得る事で、全盛期の身体になった感じかな」
「ようは夢魔族サキュバスとして精をとるのに最適な身体になった感じ、でしょうか?」
「思ったより若返ったけど、そんな感じかな」
「その時、土地の魔力がそういう作用をさせた、と」
「うん。とはいえ、本当に特殊だから起きた偶然だろうけどね」
「特殊……土地の魔力が夢魔族サキュバスとしての魔力最適化を介した結果、若返った特殊な事柄、という事ですか」
「そこに王族とかの血があったからというのもあるだろうけど。あとは土地の魔力の力を理解した、というのもあるかもね」
「魔力の受け入れ方が分かっている、という感じですか」
「そうだね。それらが合わさってようやく私は若返ったという結果が生まれたんだと思う」
「なるほど。……それを考えると、気を付けた方が良いかもしれませんね。似た条件だと似たような事が起こるかもしれませんし」
「あははは、そうかもしれないね」





備考 シルバにあった“ちょっとした事”
深く語ると涙あり波乱有りの乙女ゲームルート一本分くらいある。
本来ならルートに入る程シルバに好かれているメアリーであるが、なんだかんだと今の状態のため行き場の無い愛がシルバをヤンデレの領域に踏み込ませかけている。

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