追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

やりそうだと思っている(:朱)


View.ヴァーミリオン


「グレイか。なんでもない、少々自らの行動を鑑みていただけだ」

 話しかけて来たのはグレイ。一年後輩で、五歳下の年若さでアッシュ推薦により学園に飛び級入学した後、魔法の才覚を発揮し生徒会室に入りを果たした学園でも一目置かれる存在だ。
 整った顔達と豊かな喜と楽の表情を振りまき、そして持ち前の性格のお陰で同学年先輩、教師からも人気がある。
 両親の事などから避けられる事やトラブルもあり、嫉妬などの感情もあるのだが、めげる事無く元気に学園生活を送っている。

「そうなのですか? 辛そうにしていたように見えたのですが……私めでよければ、力になりますよ?」
「ありがとう。だが大丈夫だ。これは自らが向き合い、解決すべき事だからな」
「なるほど……つまりアプリコット様が仰っていた、己が心の闇と戦う事で、トラウマを打ち払う審判の門ハーデースに挑んでいるのですね!」
「それは違う」

 ……まぁ、向けられる負の感情の方は素直過ぎる性格のせいでグレイ自身がほとんど気付いていなかったりするのだが。ある意味ではバーガンティーと似た者同士である。気付かぬ内に騙されないか心配で――ああ、そうだ。俺自身の事はともかく、あの件をハッキリさせておかなくては。

「グレイ、聞いておきたいのだが、アプリコットに結婚の話はあるのか?」
「結婚ですか?」
「ああ、実は――」

 先程メアリーから聞いた情報をグレイに説明をする。
 するとグレイは俺の説明に不思議そうな表情をした。

「いえ、そのような事はないかと……そもそも父上は金銭管理に関しては母上も感心なさるほどには優れた御方でしたし、危機的状況とは無縁でした。なにかの間違いかと思われます」
「やはりそうか」

 そうなると何処かで情報が錯綜しているようだ。この件に関しては一度整理し誤解を解いておいた方が良いだろう。広まっているようならばアッシュやエクルに頼み、メアリーにもキチンと説明を――

「メアリーか……」
「どうされました? やはりなにか悩み事が……」
「なんでもないんだ。こればかりは時間を置かねば解決出来ぬ話だからな」
「は、はぁ、そうですか」

 最近の避けられについてはともかく、先程の一件に関しては羞恥感情の問題であるからすぐに解決は難しい。会ってもマトモに顔すら合わせて貰えないかもしれない。だがアプリコットの件は早めに解決を……

「それとすまないな、グレイ。俺を探していたのだろう?」

 ……いや、このようにうじうじと考えるのは我ながら情けない。今は切り替え、目下の目的を果たすとしよう。

「はい。アプリコット様にもお声がけをし、十分後には校門前にて合流可能かと。ただ……」
「俺が予定より遅れていたから、心配で探したのだろう?」
「はい。差し出がましいとは思いはしたのですが、生徒会室に向かっていたと聞きましたので、一応確認を、と」

 目下の目的。それはグレイとアプリコット、そしてフォーン会長を王城に連れて行く事だ。連れて行く、と言っても聴取に近い形である。
 なにをされるのかの具体的な事は俺も知らされてはいないが、恐らくは先日の母さんがしでかした夢魔法の件が関与しているだろう。王城に行く前にこの三名も連れて来るようにという話があったので、俺はフォーン会長を探しに来た訳なのだが……

「すまないな、グレイ。情けない話だが遅れたにも関わらず、フォーン会長はまだ見つけていないんだ」

 元々フォーン会長を探しに生徒会室に来た俺ではあるが、メアリーが独りで居たので話そうとし、結局はあの出来事が起きた。そしてその後着替えや自責の念に責められるなどして時間を使い、こうしてグレイに探される羽目になったのである。
 ……改めて考えると情けないな、俺。王族以前に学園の先輩としても、お世辞にも働いているとは言えない。
 とはいえ、他の三名を連れて行く事自体は急な事であったため「可能ならば」という話ではあったので、フォーン会長は居なくても問題は無い。とはいえ、流石にこの状況は情けない――

「え、フォーン会長ならそちらにおられますが?」
「なに?」

 なにを言っているんだ。俺が初めて生徒会室に入ってから今に至るまで、メアリーと今しがた来たグレイ以外には出入り自体が無い――居た!?

「フォ、フォーン会長。いつからそこに!?」
「え? ああ、ごめんなさい、考え事をしていた。いつからと言われると……ずっとかな。フューシャ君がグレイ君の顔を胸で埋めたり、メアリー君がここで下着の上下を変えたりしているのも見ていたよ?」

 なんだかおかしな単語も聞こえた気がしたが、俺とメアリーが色々言い合っている時もずっと居たのか……気付かなかった。最近の会長は本当に影が薄いと言うか、油断するといつも以上に見失う。……これも俺が最近メアリーに避けられている事と関係あるのだろうか。俺自身が気づかぬ内に注意散漫になっている証拠だとか……

「考え事とは、フォーン様もなにかお悩みでも?」
「そうだね。……最近油断すると夢魔族サキュバスの血が騒ぐので、それを発散させるのに、いっそ彼と既成事実を作ってしまえば良いのかな、と」

 いや、これはなにか違う気がする。フォーン会長の影の薄さは、フォーン会長自身の問題だと思う。……問題を抱えると影が薄くなるとか意味分からないが、多分そうだ。

「キセイジジツ?」
「会長、早まらないでください。俺でよければ症状を抑えるための力になるので。母さんに話を聞けば、なにか手掛かりがあるかもしれません」
「……冗談だよ。本当にするとでも?」
「……正直、少しだけ思いました」
「……ヴァーミリオン君は私をそう思っていたのか……」
「?? なんの話なのでしょう……」
「グレイ君は分からなくて良い事だよ」
「あ、もしかしてフォーン様が影の薄さを利用した“ロシュツハイカイ”なるものをするように見える、という件ですか?」
「なにその件!?」

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