追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

主語不足によるすれ違い(:白)


View.メアリー


「……はぁ」

 生徒会室からの寮への帰路、真っ直ぐ帰る気になれずに寄った中庭にて。私は一人、溜息を吐きます。
 結局はヴァーミリオン君に私の様子がおかしかったのは、目の前で落としてしまった物が原因だったと思われ、気を使われ錬金魔法で新たな物を作るまで生徒会室を出て行ってもらいました。

――事故で壊れたと思っていたようですし、下の方はバレずに回収出来たので問題無い……はずです。

 ……上はともかく、下はバレなかったので良しとしましょう。ええ、良いのです。良いに違いありません。今も上を直すついでに下の方も錬金魔法で新たに作って付け直して履き直したので、心許なさは失われたので問題無いはずです。
 そして直した後は互いに気まずく、結局私はなにか言いたそうなヴァーミリオン君を置いてそのまま生徒会室を出て行って今ここに居る訳です。

――見られましたよね……もっと可愛かったり、セクシーな奴の方が良かったでしょうか……

 ……いえ、それを見られたら見られたで、「こんな風なモノを普段から身に着けているのか」と思われたのではないかと思い悩みそうですね。
 というより、男性ってどんな物を可愛いとかセクシーとか思うんでしょうか。その辺りは男女で認識が違うとよく聞きますが……これならば、前世では女性物の下着も会社で作っていたというクロさんに聞いておいた方が良かったかもしれません。

――何故聞こうとするんでしょう、私。

 見られる事を想定している訳では無いですし、私の身に着けている服は私が好きだから身に着けている事が多いです。
 それなのに今の私は、まるで“誰か”に見られる事を前提とした上で、その“誰か”に可愛いとかセクシーとか思って貰うために聞こうとしているような気がします。
 い、いえ、己を律するために見えない所もキチンとするのはおかしく無いですし、知識として知るのはおかしくないはずです。そうに違いありません。だから彼に見られて少しでも良い風に――

「彼ってなんですか、個人的な誰かを想っているみたいじゃないですか!」
「わぁっ!?」

 私が自分で自分にツッコむという、面倒くさい性格のような事をして叫ぶと、私の声に驚いた誰かが驚いた声をあげました。
 いけません、急な行動で奇異の目で見られる事は望ましくありません。すぐに驚いた誰かにフォローをしなくては。

「あ、ティー殿下?」
「こ、こんにちは、メアリーさん。見かけたので声をおかけしようとしていたのですが……」

 私の声に驚いたのは、雷神剣という私の子供心を刺激する剣を携えた、殿下達の中で一番の好青年という表現が似合うティー殿下ことバーガンティー殿下でした。
 どうやら私を偶然見かけ、なにか思い悩んでいる様子だったので心配で声をかけようとした所、私が急に叫び驚いた状態のようです。

「急に声を出してごめんなさい」
「それは構わないのですが……なにか困りごとでも?」

 ティー殿下は気を取り直し、優しい笑みを浮かべつつ毅然とした態度で私に聞いてきます。その様子はまさに王族でありながら最も民に親身になってくれる殿下として名高いティー殿下らしい、裏もなにもない素直な姿勢でした。
 冒険者として市井に馴染んでいるルーシュ殿下やスカーレット殿下と違った方面で人気のある事が伺えます。

――……ヴァーミリオン君もここ数ヵ月は親しみやすくなったと人気はありますがね。

 ……そんな事を考えてどうするんでしょう、私。今は彼の事などどうでも良いんです。良くは無いですが。

「お気遣いありがとうございます。少し悩み事がありまして……あ、そうです。ティー殿下ならなにか聞いているかもしれませんね」
「私ですか?」

 ともかくどうでも良くない事も無い気がする彼の事や、今私が心配された理由であろう先程の落とし物事件は置いておくとして。ティー殿下ならば私が抱くもう一つの気がかりな事をなにか知っているのではないかとふと思います。

「グレイ君かアプリコットから聞いていませんか。望まぬ相手と結婚するかもしれないと……」

 ティー殿下はグレイ君やアプリコットとも同じクラスで仲が良いです。フューシャ殿下は知りませんでしたが、なにか知っている事があるのではないかと思い、聞きます。

「……御存知だったのですね、メアリーさん」
「! ティー殿下は詳細をご存じで……?」

 まさか本当に知っているとは。そして少しもどかしそうな様子からして私達より詳細を知っているように思えます。

「ええ、彼女の実家の方針により、今週末に初めて婚約者と顔を合わせる事を知っています。実家と言うよりは、彼女の祖父……母方の祖父の方針とも言えますがね」

 母方の祖父……つまりウィスタリア・バレンタイン公爵!
 王国の地域によっては王族よりも力を持ち、ヴァイオレットの件があっても発言権を失われていない力を持つ現公爵です。

――なるほど、だから抗えずに結婚の話があがるのですね……!

 グレイ君は金銭面も困っているとは言っていましたが、たからと言ってそのために娘であるアプリコットを差し出すのには違和感がありました。
 ですが公爵家による圧力がかかっての結婚話と言うのならば納得がいきます。
 学園はバレンタイン家派閥の貴族も多く居る場所ですから、学園での噂はバレンタイン家にも耳に入るでしょう。「抗わずに結婚の話を前向きに進めている」という態度を示しているのです。
 クロさんは表向きは受けつつも、その結婚話をどうにかして反故にしようと画策していると思われます。けれど今は表立っては行動できない。だからこそグレイ君もあの態度だったという事なのでしょう……!
 そしてティー殿下が方針について知っているのは、一番身近な男友達であり、見抜いたという事なのかもしれませんね。

「……なるほど。だから結婚という話になっていたのですね」
「はい。彼女自身、あまり前向きでは無いでしょうが……父母のためにも、受けるしかないでしょう」

 そうでしょうね。アプリコットはグレイ君の事が大好きですし、同じくらいクロさんやヴァイオレットの事も大切に思っていますからね。 

「私の心配に対し、“良い相手だったらこちらからお願いする勢いでいきますよ。だから気にしないでください”と言っていたのは救いではありますが……」
「言ったんですか!?」

 アプリコットがそんな事を!?

「え、ええ。言いましたよ。少し無理をしている感じはありましたが」
「な、なるほど。無理をしていたのなら分かりますが……」
「はい、無理を……メアリーさん」
「なんでしょうか?」

 私が動揺しつつ受け答えをしていると、その無理をしていた時の事を思い出したのか、少しの間を作ってティー殿下は私の方を真っ直ぐ見て来ます。

「……私の我がままになりますが、もしも今回の結婚話について……」
「大丈夫です。彼女は生徒会の仲間で、大切な友達です。彼女のためならば、生徒会の皆さんも個人的に動いて協力をしますよ」
「……ありがとうございます」

 ティー殿下は私の言葉を聞き、嬉しそうな表情で感謝の言葉を言います。
 ……公爵家に私達が何処まで協力出来るかは分かりませんが、アプリコットやグレイ君に力を求められれば、私達は可能な限りいくらでも力になります。それは相手が誰であろうと変わりません。
 そう、相手が誰であろうとも態度を変えずに……変えずに……

「ティー殿下、話は変わりますが、お一つお聞きしたい事が」
「なんでしょう、私に出来る事であればなんでもおっしゃってください」
「お言葉に甘えます。ではティー殿下」
「はい」
「クリームヒルトにどんな下着をつけて貰ったら嬉しいですか?」
「なんの話です!?」

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