追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

学生服の紺スタイル(:白)


View.メアリー


「ぷはっ! ……えぇと、フューシャちゃん。今なんと仰いましたでしょうか?」

 倒れた状態で顔を大きなお胸に埋めるという、男性的には嬉しいであろうシチュエーション(多分)であるにも関わらず。グレイ君は埋めた顔を胸の谷間から動かし脱出し、目の前に着衣が少々乱れたお胸があっても顔を赤くする事も無く気にせずにそのままの体勢で返答をします。

「ええと……お金に困っているなら………………私がグレイ君達を……買うよ……?」

 フューシャ殿下、それでは違う意味に聞こえますよ。特に体勢的にも。

「? よく分かりませんが……不要です」
「でも……お金に……」
「失礼ながら、私めとフューシャちゃんは友達と思っています。地位や立場など関係無く、一緒に居る事が楽しめる事が友達だと思いますから、そこに金銭を関与させたくはありません」
「あう……」

 おお、グレイ君が真っ直ぐに良い言葉を言っています。グレイ君の境遇を考えると、これもクロさんの教育の賜物という事でしょうか。ですが同時に直接的な支援は難しくもなりましたね。
 と、それよりも早く体勢を変えさせねば。グレイ君が下敷き状態の今の体勢的にはフューシャ殿下……つまり女性殿下の身体に触る必要があるので、この場で唯一の同性である私が率先して助けてあげるべきでしょう。それにエクルさん達は着衣が乱れた事に遠慮して目を逸らしているようですし、ついでに着衣も整えましょう。

「フューシャ殿下、お気持ちは分かりますが、まずは落ち着いて話しましょう。そして話すためにもまずキチンとした形で話し合いましょう」
「あ……うん……そうだね……ありがとう……メアリー先輩――」

 そして私が近付き、私の背中あたりからからプチッという音がしつつも手を取って起こしてあげようとします――あれ……?

――……プチッ?

 ……なんだか胸周りの締め付けが無くなり、肩が少々重くなった気がします。いえ、気のせいです。気のせいに違いありません。…………うん、感覚的に壊れてますね、これ。落ちて来ないのは不幸中の幸いですが、機能はしていないでしょう。

――皆さんには気付かれていない様子です。

 そして周囲の皆さんは私の状況を気付いていない様子です。この事がバレれば恥ずかしいですし、なにかと“運”を気にされるフューシャ殿下が気負わないようにこのままで行きましょう。

「フューシャ殿下、グレイ君。気になる所は有りませんか?」
「大丈夫です。ありがとうございます、メアリー様」
「ありがとう……服も整えてくれて……」
「いえ、どういたしまして」
「えっと……二人共……私に触れて……変な事起きなかった……?」
「大丈夫ですよ」

 ……大丈夫。そう、大丈夫です。制服は白いですが、厚手なので透ける事はまず無いですし、何故か上にズレてしまっていますが、変なラインは出て無いので大丈夫なはずです。……感触は妙な感覚がしますが、大丈夫です。

「フューシャ殿下、まず座りましょうか。座って落ち着いて話しましょう」
「うん……そうだね……」
「グレイ君も座りましょう? ほら、皆さんも」

 とにもかくにも、今は私の事よりもグレイ君達の事が重要です。
 まずは興奮して結論を先に言ってしまったフューシャ殿下を落ち着かせるために、座るように促しつつ腰の辺りからプチッという音が再びして、フューシャ殿下だけでなく皆さんもゆっくり話せるようにと座るように――

――シアン、何故貴女はこの状態で平然とあのような衣装を着られるのでしょう。

 皆さんに促しつつ、私はシキに居るだろう、可愛いを追求する友人シスターを思い浮かべます。
 机や椅子に隠れているお陰で他の皆さんにはバレていないようですが、その彼女とある意味同じ状況になった事に混乱しつつ、バレないようにと落ちたソレを軽く蹴り……机の下の隙間にやって見えないように追いやりました。

――だ、大丈夫です。激しい運動をしなければ、大丈夫です……! それに今は私の恥など些末な事です……!

 なんだか今の状況に混乱している気もしますが、気のせいです。私の羞恥心程度でグレイ君の問題を聞く事が出来ずにいる方が遥かに問題です。今はそう、グレイ君とアプリコットの仲が裂かれるのを防ぐ手立てを考える事が重要! そちらの重要性を考えれば今の私の格好など平気なんです!

「あ、申し訳ございません。お話したいのは山々なのですが、私めがここに来たのは用事があり、済み次第戻らなくてはならないのです……」

 と、意気込んだのも束の間。グレイ君の申し訳なさそうな表情を見て、ちょっと冷静になります。

「用事?」
「はい、フューシャちゃん、エクル様、アッシュ様、シャル様。ノワール学園長様がお呼びなので、学園長室に来て頂きたいとの事です」
「ふむ? 呼び出しとは穏やかじゃないな。要件は分かるか?」
「私めはなんとも……それに私めも別件がある中、呼び出しの伝言を頼まれたので」
「そうか」
「シャルくん、この時期の呼び出しは学期末パーティーの件と相場が決まっているんだよ」
「ですがメアリーの呼び出しが無いのは何故でしょうか?」
「貴族組に用事がある、という所じゃないかなアッシュくん。という訳ですまないがメアリー様、席を外させて頂くよ」
「あ、はい。いってらっしゃい」
「いって……らっしゃい……グレイ君……後で……色々話そうね……」
「? はい。それでは」

 私は表面上は笑顔を作りつつ、皆さんを生徒会室から見送ります。
 そして生徒会室に一人取り残された私は、気配が遠ざかったのを確認してから自分の状況を再確認します。
 服は着ていますが、締め付けが無くなり開放感のある胸周り。
 スカートは履いていますが、いつも以上に涼しくて開放感のあるお尻周り。
 はは、開放感だらけですね。

――グレイ君の件を詳しく聞けなかったのは残念ですが、今はこの状況を打破しなくては……!

 開放感があるというより、心許ないと言った方が正しい気がしますので、今すぐ安心感を与える格好をしなくては。
 上も下も、錬金魔法で新たに作り替えれば問題無く着る事が出来るはず。そう、まずは側板で囲まれた机の下の隙間に入れてこんで隠した物を取り出さねば――

「失礼する、フォーン会長は居るだろうか」

 そして隠した物を取り出そうとした時に、何故か赤い髪に紫の瞳の第三王子が生徒会室に現れました。
 これはなんと言いますか――

「……メアリーだけだったか。いや、丁度良いかもしれない。これも巡り合わせだろう、良い加減に腹を割って話を――」
「これからヴァーミリオン君をスケベ殿下と呼びます!」
「どうした急に!?」

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品