追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
聞かせてもらった!(:白)
View.メアリー
とある日の放課後の生徒会室にて。
今日はとある殿下が所用で王城に行くと聞きホッとした反面、なにやら胸奥に靄がかかった様な痛くはないのに痛い思いを抱えつつ生徒会室で仕事をしていました。
居るメンバーは生徒会メンバーであるエクルさんとシャル君とフューシャ殿下。そして今ほど入って来て居るメンバーを確認して「聞いて欲しい事があります」と言った後よく分からない事を言ったアッシュ君です。
「アッシュくん、情報が今一つ理解出来なかった。悪いけどもう一度教えてもらえるかな?」
「す、すみませんエクル先輩。確かに私らしくなかったですね」
資料を手元に置いたエクル先輩に落ち着くように言われたアッシュ君は、軽く咳払いをした後、自身を落ち着かせるために息をさらに小さく吐きます。
その間を利用し、生徒会メンバー全員が手元の仕事を置いてアッシュ君に注目しました。
「……アプリコットが、どうも政略結婚として望まぬ相手と婚約する可能性があるようなのです」
アッシュ君曰く、アプリコットがお世話になっているクロさんの家が財政難に陥り、その危機から救うために望まぬ婚姻を結ぼうとしているというらしいのです。
なにやら傍に居たシルバ君とクリームヒルトが説得をし、結婚という単語が出た後にアプリコットが大声でなにかを否定したそうです。そしてその後、己の意志を殺して我慢するかのような態度を取った。そして政略結婚の話をしだしたそうなのです。
クロさんには恩があり、なおかつアプリコットが大好きなグレイ君の居るハートフィールド家。アプリコットにとって楽園である彼らの家の事を考えて、救うために気持ちを我慢して自らの身を犠牲にして、一回り以上年上の変態貴族に身を差し出す。だけど心は真実の愛を向けるグレイ君に預けたままで、悪女になりきる。それを行おうとしているというのです。
クリームヒルトはままならない感情を抱きつつも、どうしようもないので少しでも場を明るくしようと「あはは」と笑い。シルバ君は政略結婚について怒り、「お前の真実の愛とはそんなものなのか!」と感情を荒げつつも、両名に宥められて納得いかないような表情でいたそうなのです。
「アッシュ。お前が噂話程度の話を真偽を確かめず、私達に話すとは珍しい」
ただその話はシャル君が今指摘したように、“食堂で聞いた者が居た”という、実際にアッシュ君が聞いた訳でも無い話です。
曖昧かつ又聞き。当事者への事実確認をせずに他者に話す事は、余計な混乱を招きます。そのような事をするアッシュ君がするとは思えませんが……
「ええ。その噂が女生徒の間で囁かれているのを耳にしまして。その場ではもう吹聴しないように取りなしたのですが……」
「耳に入る以上は広がっている可能性もありますし、私達が真偽についてなにか知らないかと。そう思った訳でしょうかアッシュ君?」
「そうなりますね」
噂である以上は発生元があります。そして内容の“視点”からして食堂でなにか話し合いが行われたのは確かでしょう。
しかも内容が内容だけに、アッシュ君はアプリコットを学園入学に推薦していましたし、今も魔法使いとしては敬意を払っているので、個人的にも事実ならば放っておけないという所でしょうか。
「生憎と私は分からないですね……フューシャ殿下は分かりますか?」
そして私はなにも聞いていませんし、エクルさんとシャル君は先程の反応と、首を横に振っていた様子からして両名共知らないでしょう。ならばこの中で知っている可能性が高いのは、同じ学年クラスであり、仲の良いフューシャ殿下ですが……
「財政難の……政略結婚……!? アプリコットちゃんがそうなる……なら今こそ私の……無駄に貯まった私財を全部……!」
「フューシャ殿下?」
「ふふ……そうすれば……向こう十年は大丈夫……でも受け取ってくれるかな……いっそ護衛として雇う……? ……ハートフィールド家を雇って……クロさん達を手元に置いて……親子二代のイチャイチャするのを見ている……? ……おお……なんかいい感じ……!」
「フューシャ殿下ー?」
なんだか様子がおかしいフューシャ殿下です。おかしいというよりは、なんだか前世のネット上で見たオタク仲間のような事を言っている気がしますが……止めた方が良いのでしょうか。前世の仲間とは違い、フューシャ殿下自身の実際に出来る財力があるのが怖いです。
「と、言う訳でアッシュ君。誰も知らないようです。お力になれずごめんなさい」
「あ、はい、そうみたいですね。構いませんよ」
ともかく、フューシャ殿下も反応的に知らなさそうなので、代表して謝罪をします。アッシュ君はフューシャ殿下の様子に困惑していたのですが、私の謝罪を聞き気を取り直していました。
「アッシュくん。それでどうするのかな」
「こうなれば当事者に聞いた方が良いでしょうね。これ以上の話し合いは私達ではどうにもなりません」
「そうした方が良さそうだね。そしてシャルくん、アプリコットくんは今日は何処に居るのかな?」
「……何故私に聞くんだ、エクル」
「だってキミとアプリコットくん、仲良いし、相性とか性格とか良さそうだから分かっていそうだもんね」
「良くない! 確かに昨日は模擬戦闘をして熱くなって使用時間を過ぎた挙句、互いが互いの弱点と良い箇所を話し合ったが、アイツとは仲が良いとかではなく、ライバルだ!」
それを一般的に仲が良いと言うとは思うのですが。
最近力が抜けたシャル君ですが、どうもアプリコット相手だと、話す時は変わらず言い争いをしてますからね。どうも認めたくないようです。
「ともかく、俺――私は知らない。……それに、昨日の様子も普段と変わらなかった。望まぬ政略結婚をする、というようには見えなかったぞ」
「うーん、そうかい。でも確かに機能グレイくんと話した時も普段と変わらなかったからね。聞いているならなにか反応があっても良さそうなものだけど」
「というよりは、グレイ君には話さない方が良いかもしれませんね」
「ああ、そうした方が良さそうだ。もしかしたら敢えて内緒にしている可能性もあるからね」
確かに噂が事実ならアプリコットは気にしてグレイ君には黙る可能性が高いでしょう。
財政難に関しても、私達に頼るという事はしなさそうです。グレイ君が居ない時に、アプリコットに話を聞くのが一番であり、本人じゃ無くてもクリームヒルトかシルバ君に――
「話は聞かせてもらいました!」
『っ!?』
なっ、誰ですか話の途中で入って来る時に使いたい言葉の堂々一位に輝く言葉を言う人は!
「グレイ君!?」
生徒会室の扉を静かに開けて礼儀正しく入って来たのは件のグレイ君でした。
そして誰が来たのかを認識し、先程の話を考えると、聞かれていたのはマズいと思う私達です。誤魔化すにしても、何処から聞いていたかによっては誤魔化せないでしょう。
「グレイ君……私達の話を……聞いていたって……何処から……?」
私達はグレイ君の様子を恐る恐る確認しつつ、フューシャ殿下が尋ねます。
「え、はい。大体“話は聞かせてもらいました!”と私めが入った所からでしょうか」
それはなにも聞いていないという事ではないでしょうか。
「なにも……聞いていないんだね……でもじゃあ……なんでその台詞を……?」
「はい。メアリー様に以前、会話に入る時に言う言葉だと教えて頂いたので、使わせて頂きました!」
『…………』
やめてください、確かに話しましたけど、皆さんで「また妙な事を……?」という目で見ないでください。
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