追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

千話記念:あるいはこんな攻略する夢


※このお話は千話を記念した本編とはあまり関係のないお話です。
 キャラ崩壊もあるかもしれないのでご注意ください。
 読み飛ばしても問題ありません。



















「ようこそ、クロ・ハートフィールド! この世界で君は攻略対象達を攻略できる主人公になったのさ! さぁ、どんどん攻略してハーレム生活を築き上げよう!」
「ちょっと待て」
「大丈夫、心配しなくても大事な場面は勝手に引き寄せられるし、仲良くなるキッカケは数々湧いて来る! ラッキースケベもあるし、主人公だから大抵は許される!」
「待て」
「そしてなんと! 年齢制限なんてものは無いから、通常カットされるようなムフフな箇所もちゃんと体験できるよ、やったね!」
「待てと言ってるだろうが!」

 唐突に目覚めたと思ったら俺は学園制服を着ていて、謎の女性が訳の分からない事を言っていた。
 主人公?
 ハーレム?
 ラッキースケベ?
 ……年齢制限なしでムフフ?
 うん、夢だこれ。
 というか俺はこういった夢を何度も見ている気がするのだが、実は知らぬ所で空想に手を出すほどに精神的に追い詰められているのだろうか。今度ヴァイオレットさんを抱きしめる事で癒されるとしよう。

「むー、折角私がキミを主人公にしたっていうのに、なにその反応ー。ハーレムをつくって色々出来るんだよ? 男だったら夢見るでしょう!」
「俺は一人の凛々しく可愛い女性を愛し、素直すぎて可愛い子供を愛するだけで、夢みたいに充分幸せなんだよ」

 というか先程から俺の前のフワフワと浮いているこの女性は誰だ。
 背が高く、赤みが帯びた金色に近い綺麗な髪に、透明と言える透き通った同じく綺麗な瞳。
 一度見ればこの美しさから忘れる事の無いだろう女性は、一体俺のなんの記憶から作られた夢の存在なのだろうか。

「え、私を知らない? この綺麗な顔と髪と身体を見て分からないですって!?」

 ちなみに言うと、この女性は裸だ。
 大事な所は長い髪の毛で隠れたり、妙な光で隠れているが、裸だ。
 ……このような端整な身体の全裸女性を夢見る辺り、俺って欲求不満なのだろうか。

「その欲求を主人公として発散すると良いよ!」
「せん。で、誰です貴女は」
「ふふふ、その答えはキミが主人公としての役割を果たしたら教えて進ぜよう!」

 絶妙にイラっと来るな、この女性。
 ……まぁ、良いや。よく分からないが、夢は夢だ。いざとなれば目覚めれば良いとして、このよく分からん夢を楽しむだけ楽しむとしよう。

「それで、主人公としての役割を果たせばいいんですね。なんかハーレムとか言ってましたし、ギャルゲーの主人公として攻略でもすれば良いんですね」
「そうだね!」

 ムフフとか言っていたから、どちらかと言うともっと高めのRがかかった方っぽいが、ともかく言われた通りにするとしよう。
 とはいえ夢とはいえ、俺はヴァイオレットさん以外の女性と結ばれるつもりは無いので、友情ルートにでも一直線だが。

「攻略対象は、ヴァーミリオン、アッシュ、シャトルーズ、エクル、シルバ。しかも今なら隠しキャラとしてなんとグレイまでついて来る! 他にも多くいるし、なんとお得! さぁ、数多の困難を超え行くのだ主人公!」
「乙女ゲームかよ!」

 いや、どちらかと言うとBLゲームか!?
 しかも愛する息子を攻略しろとかなんの罰ゲームだコラ!

「ちなみに誰かをおとすまでこの夢は延々とループするから気をつけてね! レッツスタート!」
「ふざけんなコラァ!!!」







「お前も、俺が王族だから慕うのか? 王族としての生き方を強要し、王族の地位立場が無くなれば価値が無いと、王族の務めだからとを犠牲にし、俺を見ようとすらしない奴らと同じなのか?」
「あー、うん、そんなに甘えたかったら娼館にでも行ってろコラー」
「…………何故そんな事を言うんだ。俺はお前だけは味方してくれると思っていたのに……!」
「そうですねー」
「――だが、そう言うとはやはりお前は他の女とは違う! 結婚してくれクロ! 俺は国王になり、初めての同性婚国王として共に歴史に名を残そうじゃないか!」
「いきなり求婚とかトチ狂ってるのかテメェ!」
「ぐふっ! 殴ったな、王族である俺を、殴るなんて――やはり、おもしろい!」
「おもしろい女ムーブにも限界があるだろうが! 大体殿下には婚約者がいるでしょう!?」
「婚約など破棄してしまえば良い。大丈夫だ、あんな奴よりお前の方が遥かに大事で――」
「テメェヴァイオレットさんをあんな奴呼ばわりしたな? 良いだろう、その腐った性根を叩き直す」
「え、クロ? こ、怖――」




「――私の男になれ、クロ」
「……アッシュ君、俺達は友達だと思っていたのだけど。あと同性だけど」
「ああ。だが私はこの気持ちを抑えられない。お前が、欲しいんだ、クロ!」
「あー、はいはい。では付き合いましょうかー。ですが学園生の身の間は、学生らしい振る舞いをしましょうね」
「具体的には?」
「キスとかは勿論の事、手の接触も禁止で、勘繰られないように数十メートルの接近禁止です」
「それだと同じクラスなのに授業出られないが」
「付き合いたいのならば、それが条件です」
「そうか。なら勘繰られても良いように、邪魔な奴らは排除しよう」
「はい?」
「変な邪魔が入るから、そのような事を言うのだろう? ならば邪魔を入れる奴らを私の権限で全て排除する。――クロと居るためなら、その程度はやってやるさ!」
「やめい、飛躍し過ぎだ!」
「まずはこの件に一番五月蠅そうなバレンタイン家のあの女からだな。ふふ、以前から目障りだったし、クロも目を奪われていたから良い機会だ――」
「おいアッシュ、そこに座れ。ヴァイオレットさんを馬鹿にした罪は万死に値する」
「え、クロ? こ、怖――」



「クロ、お前のために俺は父上を超えるまでに成長をした! 実体を持つ複数の分身! 多重次元屈折現象による三太刀同時攻撃! 次元を裂く事による亜空間への侵入! 現象の死を見て斬る事による存在の死を作り出す必殺の一撃! そしてそれを応用し、土地の“脈”を殺して周囲一帯を死の土地とする! ――どうだ、俺はお前のために強くなったぞ!」
「強くなり過ぎだ加減しろシャトルーズ! お前のせいで国が滅んでんじゃねぇか!」
「この景色はお前のために作った景色だ! ――さぁ、この終わりゆく国で最後まで殺し合おう!」
「いいぜやってやるよこの野郎! ヴァイオレットさんとグレイに手をかけた事はぜってぇ許さねぇぞオラァ!」



「クロさん、僕は貴方のために強くなったよ! 僕の呪われし魔力を体外に放出! 王国特有の地脈と融合! そして国中の魔力を掌握! 王国を支配後全ての国の地脈魔力をもって、この星全土を僕の呪われし魔力の炎で焼き尽くす! この世界に生き残るはもはや僕と貴方だけ! ――どう、僕は貴方だけにこの景色を見せたかったんだ! だから強くなったよ!」
「強くなり過ぎだ加減しろシルバ! お前のせいで世界が滅んでんじゃねぇか!」
「この景色は貴方のために作った景色だ! ――さぁ、この終末を迎えつつあるこの世界で、最後まで殺し合おう!」
「いいぜやってやるよこの野郎! ヴァイオレットさんとグレイ達に手をかけた事はぜってぇ許さねぇぞオラァア!」



「何故――何故こんな事をしたんだエクル先輩!」
「何故? 何故と問われれば……キミのためさ、クロくん」
「俺の……ため? 彼女が苦しんでいる世界の、何処が俺のためなんだ!」
「分からないのかい? ふふ、いや、本当は分かっているんだろう?」
「分からない……何故、何故――ヴァイオレットさん以外に眼鏡をかけさせたんだ! そこまでするなら彼女にもかけさせてよ!」
「ふふ、駄目だ! キミは彼女を好いているのが分かる。そんな中彼女が眼鏡をかけたら、ますます夢中になる! 私はキミがこれ以上道を踏み外さないように敢えてこの世界、ヴァイオレットくん以外眼鏡強制着用の世界を作ったのさ!」
「酷い……あんまりだ……! 先輩だけは……先輩だけは、許さないし、攻略しないぞ!」







「ねぇ、キミ、攻略する気はあるのかい?」
「知らんがな」

 幾たびの攻略ループを経て、謎の空間で再び謎の全裸女性と再会していた。
 いや、正確には攻略はしていない。攻略してエンドを迎える前に、攻略対象者のフラグが折れてしまうか、謎の世界崩壊エンドを迎えるのである。こうして考えるとメアリーさんって凄いんだな、と改めて感じるな。

「むしろキミが何故あのような結末を迎えさせるのかが分からないんだけどね」
「俺が変な方向に成長を促すみたいに言わないでください」
「そう言っているんだよ。……というか、ヴァーミリオンとアッシュはあのまま行けば攻略できただろうに……なんで自らフラグを折るんだよ」
「だってアイツらヴァイオレットさんを馬鹿にするし……」
「子供かい」

 やかましいぞこの全裸女性。
 俺だってこの夢の中で何度も“悪役令嬢のヴァイオレットさん”に何度も冷たい視線で距離を取られたりして割と心にきているんだ。そんな中彼女を馬鹿にされたら鬱憤が馬鹿にした攻略対象に向くのも自明の理である。

「“悪役令嬢ヴァイオレット”なのだから、気にしなくていいのに。キミの妻とは違うんだよ?」
「そうは言っても、所々で“ああ、やっぱりヴァイオレットさんなんだな……”って思う所が見えるし、やっぱり可愛いし所作も綺麗だし……俺は攻略するよりも彼女が遥かに大切だと再認識したよ」
「本当に大好きなんだねー」

 当たり前だ。俺はヴァイオレットさんが大好きで大好きで仕様が無い。
 結婚や夫婦と言うのにあまり良くないイメージがある中で、俺に大好きをくれた愛しの女性。
 俺も女性を好きになれるのだと気付かせてくれた最愛の女性。
 ……俺は二人の母と違い、相手を愛する家庭を築けるのだと、教えてくれた。
 そんな彼女を大好きでいるのになんの不思議が有ろうか。

「……なるほどねぇ。それは良い事だ」

 なんか目の前の全裸女性が俺を見て納得をしているが……思考でも読んでいるのだろうか。
 というか今更だが、この夢はなんなのだろう。
 この夢の中で俺はかなり時を過ごした気もするし、一瞬で多くの経験を味わって気もする。
 それにこの女性は相変わらずよく分からないし……本当にこの夢はなんなのだろう。

「夢は夢だよ。そしてそろそろ覚める時かな?」

 む、まだグレイを攻略しにかかってないし、誰も攻略していないのだが、良いのだろうか。

「良いよ、結構楽しめたしね」

 そうか、よく分からないがこの同性を攻略するという悪夢から目を覚ます事が出来るようだ。そして目を覚ました暁には、早くこの夢を忘れてしまいたい。

「大丈夫だよ、この夢は記憶に残らないだろうから」

 それは良かった。では目を覚ます前に、一つ聞きたい事が。

「なにかな?」

 貴女の名前はなんでしょうか?

「んー、別に言っても良いか。私の名前はね   だよ」

 あれ、おかしいな。上手く声が聞き取れな――







「……あれ?」

 そして俺は目を覚ました。
 なにか、重要な夢を見ていた気がする。
 けれど夢の内容は思い出せない。
 思い出したくない事だらけな気もするが、それでもなにか重要な事があった気がする。
 出来事と言うよりは、女神のような――

「……気のせいか」

 いや、俺の勘違いだろう。
 夢は寝ている中での情報の整理の過程で見た、経験の集合体、みたいなもののはずだ。見た事の無い、透明クリアーな女性の事など見るはずがない。

「……あれ、なんか今俺、変な事考えた?」

 目が覚めたばかりだが、どうやら疲れているようである。
 昨日は雨の中、傘もささずに外にいたり、バーントさんとアンバーさんに夜に急に外に出た事を謝罪をしたりして疲れたのだろう。
 お風呂やお風呂上りの後、疲れる以上に幸福な事もあったので、それを思い返すと……うん、その反動でまだ疲れが抜けきっていないのかもしれないな。

「もうひと眠りするか」

 俺はそう思うと、ベッドに横たわったままの体勢で再び目を閉じて眠る事にした。
 今度は隣に居る大好きな相手が寝ながら浮かべている表情と同じような、幸せな夢を見れると良いのだが。

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