追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
食べていない胃もたれ症状(:紺)
View.シアン
「ごめんなさい、取り乱しました神父様。ですが流石に飛躍し過ぎだと私は思うのです」
私はひとしきり混乱した後、謝りつつも神父様を責める。
良くない事とは分かるのだが、今回の事ばかりは責めても文句は言われないと思うのである。
だっていくら私が強くなりたいと言う悩みの例で母という存在を出したからと言って……その……私が母になりたいとかは……うん、飛躍し過ぎである。
「す、すまない。その……シアンは良い母親になるだろうと思っていたから、つい短絡的に結び付けて言ってしまった。本当にすまない」
神父様、ワザと言っていないだろうか。彼女である私に対してその言葉を言うとは私になにを望んでいるんだ。告白か。結婚して家族を作ろうという告白なのか。
い、いや、特に他意の無い言葉であり、仮に私と付き合っていなくても同じ言葉を言うのだろうけど……その言葉は……その言葉はあまりにも……!
……でもそっかー。そう思われているのかー。
「それとアイボリーとかにも“彼氏なら彼女の機微に気付くように心がけろ”と言われたから――」
「私が黙ったのを見て、なにかあるのではと予測した結果、結び付けて先程の言葉ですか……」
「……そうなる。シアン。その……俺ってそんなにエ――エロいと思われているのだろうか」
神父様がエロい? なにを言っているのか、私にとって神父様はエロい存在だ。
コットちゃんも言っていたが、好きな相手はなにをしていてもエロいのである。
……という私の本音はさておき、先程私がつい言ってしまった言葉について聞いているのだろう。
誤魔化した方が神父様のためになるし、神父様はあっさりと騙されてくれるだろうが……うん、正直に言おう。
「神父様はエ――そちら方面で自制の効いた立派な神父様と評判が高いのです。これは嘘ではないのですが……」
「……ですが?」
「……なんか責めるとなると、性格が変わってドンドン相手を手玉に取っていくと……女性陣の中で良い評判です」
「……良い評判なのか、それは?」
「良い評判です、多分」
「多分なんだな。……だがなんで俺はそんな風に言われているんだ……?」
多分普段は服に隠れて気づかれにくいけど鍛えられた身体だし、性格変わると容赦なくなるし、物腰柔らかいけど言葉遣いは結構粗野だしで、割と要素は揃っているからだと思いますよ、神父様。
……やだ、神父様の要素を改めてあげたけど、相変わらず神父様格好良い。こんなヒトが彼氏なんて私は幸せ者過ぎない?
――そんな彼氏の彼女が私で――評判通り責められるとしたら私で……私は良いお母さんになると思われていて……
…………どうしよう、ようやく落ち着いたと思ったのに再び思考が落ち着かなくなって来た。
それもこれも神父様が魅力的なのが悪い。いや、悪くない。魅力的なのは今に始まった事でもないしだからこそ好きが好きで好きになって結婚したいと何度も夢見たし夫婦になって私が妻でゆくゆくは――
「……まぁ、あくまでも評判は評判だし、俺は積極的……にはいきたいが、がっつき過ぎないように気を付け――シアン!? 顔が赤いぞ、熱でもあるのか!?」
「ナンデモ、ナイデスヨ」
「ロボみたいになっているぞシアン!?」
ええいうるさいぞ私の世界一の彼氏。こうなったのも全部貴方が良いお母さんになるとか言ったせいじゃないか。勿論なれるのならばなりたいと思っているし、神父様との子供と一緒に過ごすとか想像するだけで楽しそうだ。子供は好きだし、神父様の子とかそれはもう可愛いだろう。
そんな多くの可愛い子供に囲まれて、大変ながらも確かな充実差がある母親として生活をしていくとかなんて幸福な生活なのだろうか。
そして多くの神父様との子供に囲まれるためには、当然しなければならない、スノー君の受け止める事が――
「神父様、私ちょっと外走って来ます」
「え」
「身体がちょっと熱っぽいので、冷やすためと浄化のために走って来ますので。それでは!」
「待てシアン、外雨だぞ!?」
「ええい放してください! ここで私を捕まえるとか、スノー君は私をそんなに母親にしたいんですか!」
「酷い誤解だ!? そうじゃなくて、身体を冷やすのは良くないという話だ! 特に大切な彼女の事なら放っておくなんて出来ない!」
ガシッっと腕を掴み私を離さないスノー君。くそぅ、スノー君は私をどうしたいんだ。
ただでさえ格好良いのに、そんな格好良い事を言われたら思考が再びままならなくなるではないか。
……ままならなくなる? ……まま、ならなくなる……ママ……イケない、今の私の思考能力は大分落ちている。
「そうですスノー君、私とお風呂に入りませんか!?」
「何故急に!?」
「裸の付き合いというやつです! より仲を深めるために一緒に入るか、私を放すか選んでください!」
「くっ、今日のシアンがよく分からない……! 俺はやっぱり鈍いという事なのか……!?」
「ごちゃごちゃ言わずに、さぁ、選んでください!」
「う……!? お風呂は……まだ俺達には早いから……そうだ、外に行くなら俺は【創造魔法】で作ったモノでシアンを庇いながら行く。それなら良いぞ!」
「身体を冷やすのは良くないんですよ! そんな事を特に大切な彼氏にさせる訳ないでしょう!」
「さっき似たような事を俺が言ったばかりだぞシアン!」
く、この分からず屋め……! そんな頑固な分からず屋な所も愛おしいくて好きなのだが、それはそれだ。今はすぐに離れて欲しい。
今すぐこの手を払えば掴んではいるものの私を気を使った掴み方をしているのですぐ逃げる事は出来るだろう。けれどそんな事をすればスノー君の掴んでいる手を傷付けるかもしれない。そんな事は出来ない。
つまりスノー君自身に離して貰うしか選択肢が無いのである。なんという状況だ、まさに私にとって不利しかない……! ……それはそれとして、スノー君の手、大きくて良い感じで、掴まれると良い感じで照れる。好き。
「……なぁクロ。俺はいつまであの怪我をしていない馬鹿共を見ていれば良いんだ?」
「……落ち着くまで見てれば良いんじゃないか」
「言っておくが俺はお前達夫婦のようなワザとやっているかと問いたくなる会話を見ているとウンザリするタイプだ。つまり俺に精神的怪我を負えと?」
「お前は俺とヴァイオレットさんの会話をなんだと思っている」
「胃もたれを改善する薬を開発するのに丁度良い」
「なるほど、俺達を見ていると胃もたれの症状が出るから実験に丁度良いと。やかましいわ」
そして私達が色々な攻防をしていると、何故か礼拝堂にクロとアイ君が訪れており。
生暖かな目で見ている視線に気付き、私達は固まるのであった。
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